媒介報酬上限の改正と宅建業者の対応策

媒介報酬上限の改正と宅建業者の対応策

2024年7月に改正された媒介報酬上限について、800万円以下の低廉な空家等の特例や賃貸取引の新制度を詳しく解説。宅建業者が知っておくべき計算方法や注意点とは?

媒介報酬上限の改正内容と実務対応

媒介報酬上限改正のポイント
📊
売買取引の上限変更

800万円以下の物件で最大33万円(税込)まで受領可能

🏠
賃貸取引の新特例

長期空家等で賃料2.2倍まで報酬受領可能

⚖️
法的根拠の明確化

宅建業法第46条に基づく国土交通省告示の改正

媒介報酬上限の基本計算方法と改正前後の比較

媒介報酬の上限は、宅地建物取引業法第46条に基づき国土交通大臣が定める告示により規制されています。従来の計算方法は以下の通りでした。
従来の報酬上限計算(改正前)

  • 成約価格200万円以下:5.5%(消費税込)
  • 成約価格200万円超400万円以下:4.4%(消費税込)
  • 成約価格400万円超:3.3%(消費税込)

400万円を超える物件では「成約価格×3%+6万円」という速算式が一般的に使用されていました。

 

2024年7月改正後の特例制度
2024年7月1日から施行された改正により、800万円以下の低廉な空家等については、従来の上限を超えて最大33万円(30万円×1.1)まで報酬を受領できるようになりました。

 

この改正の背景には、低価格物件の仲介業務における採算性の問題があります。例えば100万円の物件の場合、従来は税込55,000円しか受領できず、現地調査や書類取得費用を考慮すると経費倒れになるケースが多発していました。

 

媒介報酬上限における売買と賃貸の違い

売買取引と賃貸取引では、媒介報酬の上限設定が大きく異なります。

 

売買取引の報酬体系
売買取引では、成約価格に応じた段階的な料率が適用されます。2024年7月の改正により、800万円以下の物件については特例が設けられ、売主・買主それぞれから最大33万円まで受領可能となりました。

 

賃貸取引の報酬体系
賃貸取引では、居住用建物とそれ以外で取り扱いが異なります。

  • 居住用建物:原則として依頼者の一方から賃料の0.55か月分以内
  • 依頼者の承諾がある場合:賃料の1か月分以内
  • 居住用建物以外:賃料1か月分と権利金のいずれか高い方

2024年7月の改正では、長期間使用されていない空家等について「長期の空家等の媒介特例」が新設され、貸主から賃料の2.2倍まで報酬を受領できるようになりました。

 

媒介報酬上限違反のリスクと適切な契約書作成

媒介報酬の上限を超えた報酬を受領することは、宅建業法第46条第2項違反となり、重大な法的リスクを伴います。

 

違反事例と処分内容
実際の違反事例として、以下のようなケースが報告されています。

  • 居住用建物の賃貸で、借主から5万5000円、貸主から8万円を受領し、合計が上限の11万円を超えた事例
  • 承諾を得ずに上限を超える報酬を請求した事例

これらの違反に対しては、監督処分(指示処分、業務停止処分等)が科される可能性があります。

 

適切な媒介契約書の作成ポイント
媒介契約書には以下の事項を明記する必要があります。

  • 報酬額の具体的な金額または計算方法
  • 特例を適用する場合の根拠と条件
  • 依頼者の承諾に関する記載(賃貸の場合)
  • 消費税の取り扱い

特に2024年7月の改正後は、低廉な空家等の特例を適用する際の説明責任が重要となっています。

 

媒介報酬上限の計算における消費税の取り扱い

媒介報酬の計算において、消費税の取り扱いは複雑で、多くの実務者が混乱しやすい部分です。

 

課税事業者と免税事業者の違い
宅建業者が課税事業者か免税事業者かによって、報酬の上限計算が異なります。

  • 課税事業者:上限額×1.1(消費税10%を加算)
  • 免税事業者:上限額×1.04(みなし仕入れ率を適用)

具体的な計算例
2000万円の物件売買の場合。

  • 基本報酬上限:66万円(2000万円×3%+6万円)
  • 課税事業者:72万6000円(66万円×1.1)
  • 免税事業者:68万6400円(66万円×1.04)

改正後の特例における消費税
800万円以下の低廉な空家等の特例では、30万円×1.1=33万円が上限となっていますが、この33万円は「税込」金額である点に注意が必要です。

 

媒介報酬上限改正が不動産業界に与える影響と今後の展望

2024年7月の媒介報酬上限改正は、不動産業界に多方面にわたる影響を与えています。

 

空家等流通市場への影響
改正の最大の目的は、低廉な空家等の流通促進です。従来は採算が取れないため敬遠されがちだった800万円以下の物件について、宅建業者の積極的な取り組みが期待されています。

 

実際に、改正前の2018年の特例(400万円以下で最大19.8万円)では一定の効果が見られましたが、買主側の仲介業者への配慮が不十分でした。今回の改正では売主・買主双方から33万円まで受領可能となり、より実効性の高い制度となっています。

 

地方の不動産市場への波及効果
特に地方部では、相続により取得した低価格の空家や土地の処分が社会問題となっています。報酬上限の引き上げにより、これらの「負動産」の流通が促進される可能性があります。

 

業界内での競争環境の変化
従来は大手不動産会社が敬遠していた低価格物件市場に、中小の宅建業者が参入しやすくなりました。一方で、報酬の透明性や説明責任がより重要となり、コンプライアンス体制の整備が急務となっています。

 

今後の制度改正の可能性
国土交通省は「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」において、「使用の状態は不問」との見解を示しており、実際に居住している建物も特例の対象となることを明確化しています。今後も社会情勢の変化に応じて、さらなる制度改正が検討される可能性があります。

 

デジタル化との連携
不動産テックの発展により、低価格物件の効率的な流通システムの構築が進んでいます。報酬上限の改正と合わせて、これらの技術活用により空家等の流通がさらに促進されることが期待されています。

 

宅建業者にとっては、改正された制度を正しく理解し、適切に活用することで、新たなビジネスチャンスを創出できる環境が整いました。同時に、法令遵守の重要性も高まっており、継続的な知識のアップデートが不可欠となっています。

 

国土交通省の報酬規定に関する詳細な解説
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000080.html
全日本不動産協会による媒介業務の報酬に関する実務指針
https://www.zennichi.or.jp/law_faq/媒介業務の報酬/