
暴力行為等処罰法は、正式名称を「暴力行為等処罰ニ関スル法律」といい、大正15年に制定された特別法です 。この法律は、集団的な暴力行為や凶器を用いた犯罪について、通常の刑法よりも重い処罰を定めています 。
参考)https://keiji.vbest.jp/columns/g_violence/3819/
同法第1条では、「団体若は多衆の威力を示し、団体若は多衆を仮装して威力を示し又は兇器を示し若は数人共同して刑法第208条(暴行罪)、第222条(脅迫罪)又は第261条(器物損壊罪)の罪を犯したる者は3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処す」と規定されています 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9A%B4%E5%8A%9B%E8%A1%8C%E7%82%BA%E7%AD%89%E5%87%A6%E7%BD%B0%E3%83%8B%E9%96%A2%E3%82%B9%E3%83%AB%E6%B3%95%E5%BE%8B
重要な点として、暴力行為等処罰法違反は非親告罪です 。これは、被害者の告訴がなくても検察官が起訴できる犯罪であることを意味します。この性質により、集団的暴力行為については、被害者の意思に関係なく国家が積極的に処罰に乗り出すことができるのです 。
参考)https://xn--3kqs9fnyhbwgcspiqer37d.com/column/fukusunin-kibutsusonkaikoi-boryokukoisyobatsuhoihan-kanagawaken-oisocho/
親告罪とは、被害者等の告訴権者の告訴がなければ検察官が起訴できない犯罪のことです 。一方、非親告罪は告訴がなくても起訴できる犯罪を指します 。
参考)https://nexpert-law.com/keiji/boukouzai_sinkokuzai/
暴力行為等処罰法の構成要件を見ると。
・第1条:集団的な暴行・脅迫・器物損壊(3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)
・第1条の2:銃砲刀剣類を用いた傷害(1年以上15年以下の拘禁刑)
・第1条の3:常習的な傷害・暴行・脅迫・器物損壊(傷害は1年以上15年以下、その他は3月以上5年以下の拘禁刑)
これらすべてが非親告罪として扱われます 。理由として、集団的暴力行為は社会秩序に対する重大な脅威となるため、被害者個人の意思を超えて国家が積極的に処罰する必要があるからです 。
参考)https://bouryoku-bengo.com/bouryokukoi_ihan/
非親告罪である暴力行為等処罰法違反事件においても、告訴は重要な役割を果たします。告訴は捜査機関が事件を認知し、捜査を開始するきっかけとなるからです 。
参考)https://wakailaw.com/keiji/5828
告訴と被害届の違いについて整理すると。
告訴:被害者が警察等に犯罪事実を申告し、加害者の処罰を求める意思表示
被害届:単に犯罪被害の事実を警察に届け出る行為
暴力行為等処罰法違反事件では、たとえ告訴や被害届がなくても、警察が独自に捜査を開始することができます 。しかし、実務上は被害者からの申告がない限り、事件化されることは稀です 。
参考)https://www.gladiator.jp/criminal-case/assault-crime-is-not-a-crime-of-complaining/
告訴の取り消しについては、公訴提起前であれば可能ですが、非親告罪の場合は告訴を取り消しても起訴される可能性があります 。これは親告罪とは大きく異なる点です。
参考)https://asari-gyosei.jp/column/yakudachi/5608/
暴力行為等処罰法は、現代では様々な場面で適用されています。特に注目すべき適用例として。
・家庭内暴力(DV)事件:夫婦間や親子間でも適用され、包丁などの凶器を用いた脅迫行為で逮捕される事例が増加しています
・集団いじめ事件:複数人による継続的な暴力行為に適用されるケースがあります
・器物損壊事件:複数人で行う器物損壊行為に対して通常の器物損壊罪よりも重い処罰が科せられます
興味深い法制史的事実として、昭和39年の刑法改正により、従来親告罪であった暴行罪が非親告罪に変更されました 。これは「暴力否定の思想を刑法の規定の上に打ち出した」重要な改正として位置づけられています。
参考)https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/5/nfm/n_5_2_1_3_1_3.html
実務では、被害者との示談成立が処分決定に大きな影響を与えます。非親告罪であっても、示談により被害者の処罰感情がなくなったと判断されれば、微罪処分や不起訴処分の可能性が高まります 。
暴力行為等処罰法と一般的な親告罪制度を比較すると、以下のような特徴が明確になります。
親告罪の典型例。
・名誉毀損罪、侮辱罪:被害者のプライバシー保護
・過失傷害罪:軽微な犯罪で被害者の意思尊重
・器物損壊罪:私的な利益侵害
・親族間の窃盗罪等:家族関係への国家介入の抑制
暴力行為等処罰法の非親告罪性。
・社会秩序維持の重要性
・集団的暴力の危険性
・継続的犯行の防止
・被害者保護の実効性確保
特に注目すべき点として、通常の器物損壊罪は親告罪ですが、暴力行為等処罰法第1条が適用される集団的器物損壊は非親告罪となります 。これは同じ法益侵害でも、集団性や組織性により社会に与える影響が質的に異なることを法が認めているからです。
告訴期間についても違いがあります。親告罪の告訴期間は「犯人を知った日から6か月」ですが 、非親告罪には告訴期間の制限がありません。ただし、公訴時効は適用されるため、暴力行為等処罰法違反の場合、法定刑に応じて時効期間が決まります。
現代の法実務において、暴力行為等処罰法は暴力団対策や組織犯罪対策の重要な法的手段として機能しており、親告罪・非親告罪の区別は被害者保護と社会防衛のバランスを図る上で重要な制度設計となっています 。
参考)https://keiji-bengosi.com/boryokukoitosyobatsunikansuruhoritsuihanjiken-bengoshi-sodan-aichiken/