

地方公務員法は昭和25年に制定された法律で、地方公共団体の行政の民主的かつ能率的な運営を保障し、地方自治の本旨の実現を目的としています。
参考)https://www.authense.jp/komon/blog/law/2906/
この法律の核心は、地方公務員の任用から退職管理まで、職員に関するあらゆる人事制度の根本基準を定めることにあります。具体的には、人事機関の設置、任用制度、人事評価、給与体系、勤務条件、分限・懲戒制度、服務規律、退職管理、研修制度、福祉制度などを網羅的に規定しています。
参考)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/tanjikan_kinmu/pdf/080718_1_si4.pdf
地方公務員法が適用される職員は一般職に属するすべての地方公務員で、市長や議員などの特別職には原則として適用されません。これにより職員の身分保障と公務の適正な運営のバランスを図っています。
地方公務員の任用は、成績主義の原則に基づいて行われます。これは「職員の任用は、受験成績、勤務成績その他の能力の実証に基づいて行わなければならない」という原則です。
採用については、原則として競争試験によって実施され、人事委員会を設置していない地方公共団体では、競争試験または選考によって行われます。この制度により公正で透明性のある採用プロセスが確保されています。
昇任に関しても同様の原則が適用され、職員を上位の職制上の段階に属する職に任命する際は、昇任試験または選考による方法が採用されています。昇任は単に年数を重ねるだけでなく、試験や選考に合格する必要があり、能力と実績に基づいた人事管理が実現されています。
参考)https://jichitai.works/article/details/2044
現在では昇任試験の受験率が低い自治体も増えており、受験資格の要件緩和や選考制への切り替えなど、時代に応じた工夫も行われています。
地方公務員法第30条では、職員の服務の根本基準として「全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すること」と「職務の遂行に当たって全力を挙げて専念すること」を定めています。
参考)https://www.city.yukuhashi.fukuoka.jp/uploaded/attachment/4805.pdf
具体的な服務義務には、法令等及び職務命令に従う義務(第32条)、信用失墜行為の禁止(第33条)、秘密を守る義務(第34条)、職務に専念する義務(第35条)などがあります。これらの義務により、公務員としての品位と公正性が保たれています。
禁止事項として特に重要なのは、政治的行為の制限(第36条)、争議行為等の禁止(第37条)、営利企業への従事等の制限(第38条)です。政治的中立性の確保、公共サービスの継続性、職務専念義務の徹底を図るためのものです。
参考)https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/attachment/61218.pdf
興味深いことに、近年では宅建資格を取得する公務員も増えており、都市計画や資産税業務において宅建の知識が実務に役立つ場面があります。ただし、宅建業(不動産の売買や仲介)は営利目的のため、公務員は原則として従事できません。
参考)https://www.funlife-restart.online/real-estate-civil-servant-merit/
地方公務員法第29条では、職員が義務に違反した場合の懲戒処分について規定しています。懲戒処分は軽い順に戒告、減給、停職、免職の4種類があり、非違行為の内容や程度に応じて適用されます。
参考)https://kigyobengo.com/media/useful/2538.html
戒告は将来を戒めるための文書または口頭による厳重注意、減給は一定期間給与を減額する処分、停職は一定期間職務に従事させない処分、免職は職員の身分を失わせる最も重い処分です。免職以外の処分では公務員としての身分は維持されますが、人事記録に記載され、昇進等に影響を与えます。
具体的な処分例として、故意の器物損壊や暴行・けんかなどは減給または戒告、横領や窃盗などは免職または停職、殺人などの重大犯罪は免職となります。これらの処分基準は標準処分例として明文化されており、公平性が確保されています。
参考)https://www.mext.go.jp/content/20201222-mxt_syoto01-000011610_03.pdf
懲戒処分は職員の非違行為に対する制裁措置であり、組織の規律維持と公務に対する住民の信頼確保を目的としています。
分限処分は懲戒処分とは異なり、職員の非違行為によるものではなく、公務の能率維持や適正運営を確保するために行われる処分です。地方公務員法第28条に規定されており、免職、降任、降給、休職の4種類があります。
参考)https://www.liberty-law.jp/column/%E5%85%AC%E5%8B%99%E5%93%A1%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8B%E5%88%86%E9%99%90%E5%87%A6%E5%88%86%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/
分限処分が適用される事由は、勤務実績が良くない場合、心身の故障がある場合、職に必要な適格性を欠く場合、刑事事件に関し起訴された場合などです。これらは職員の能力や適性に関する問題であり、懲戒処分とは性質が異なります。
参考)https://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2024/09/1727692954.pdf
特に心身の故障による休職は、職員の健康状態が職務の遂行に支障をきたす場合に適用される分限処分で、一定期間職務から離れて治療に専念することを可能にします。この制度により職員の身分を保障しながら、組織運営の円滑化を図っています。
長崎県の令和5年度データでは、心身の故障による休職が290件と分限処分の大部分を占めており、現代社会におけるメンタルヘルス問題の深刻さを物語っています。