地理空間情報活用推進基本法をわかりやすく解説

地理空間情報活用推進基本法をわかりやすく解説

地理空間情報活用推進基本法は国民の安心・豊かな生活実現を目的とした重要な法律です。基本理念、基盤地図情報、衛星測位システムなど、この法律が目指す地理空間情報高度活用社会とは何でしょうか?

地理空間情報活用推進基本法とは

地理空間情報活用推進基本法の基本概念
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法律の定義

地理空間情報を高度に活用し、国民の安心・豊かな生活を実現する基本法

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制定目的

総合的・計画的な施策推進により地理空間情報活用社会を構築

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法的位置付け

議員立法により平成19年に成立・施行された基本法

地理空間情報活用推進基本法の制定背景と目的

地理空間情報活用推進基本法は、平成19年(2007年)5月23日に成立し、同年8月29日に施行された画期的な法律です 。この法律の制定には、平成7年(1995年)の阪神・淡路大震災が大きな契機となりました 。災害時における被災状況把握や復興計画策定で地理情報システム(GIS)が活用されたものの、関係省庁が独自にシステムやデータを整備した結果、効率的な整備や相互利用ができなかったという教訓が背景にあります 。
参考)https://www.gsi.go.jp/chirikukan/about_kihonhou.html

 

この法律は「現在及び将来の国民が安心して豊かな生活を営むことができる経済社会を実現する上で地理空間情報を高度に活用することを推進することが極めて重要である」という認識の下で制定されました 。具体的には、地理空間情報の活用推進に関する基本理念を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、施策の基本となる事項を定めることで、総合的かつ計画的な推進を図ることを目的としています 。

地理空間情報活用推進基本法における基本理念と基本計画

基本法では、地理空間情報の活用推進に関して5つの基本理念が定められています 。第一に、情報整備、人材育成、連携体制整備などの施策を総合的・体系的に実施することです。第二に、GIS(地理情報システム)と衛星測位の両施策による地理空間情報の高度活用環境を整備することを目指しています。第三に、信頼性の高い衛星測位サービスを安定して利用できる環境を整備することです。
第四に、国土の利用や整備等の推進、国民の生命や財産等の保護、行政運営の効率化・高度化、国民の利便性向上、経済社会の活力向上等に寄与する施策を講じることとしています。第五に、民間事業者の能力活用、個人の権利利益や国の安全等の保護に配慮した施策を講じることが定められています 。
これらの基本理念に基づき、政府は「地理空間情報活用推進基本計画」を策定することが義務付けられており、第1期(平成20年)から現在の第4期(令和4年)まで策定されています 。

地理空間情報活用推進基本法における基盤地図情報の役割

基盤地図情報は、地理空間情報活用推進基本法の中核を成す概念の一つです 。基盤地図情報とは、「地理空間情報のうち、電子地図上における地理空間情報の位置を定めるための基準となる測量の基準点、海岸線、公共施設の境界線、行政区画その他の国土交通省令で定めるものの位置情報」と定義されています 。
参考)https://club.informatix.co.jp/?p=962

 

具体的には、測量の基準点、海岸線、公共施設の境界線(道路区域界・河川区域界)、行政区画の境界線及び代表点、道路縁、河川堤防の表法肩の法線、軌道の中心線、標高点、水涯線、建築物の外周線、市町村の町若しくは字の境界線及び代表点、街区の境界線及び代表点の13項目から構成されています 。
国土地理院では基本法に基づき、平成23年度までに全国について基盤地図情報を概成し、平成20年度からインターネットにより順次無償提供を開始しました 。この基盤地図情報の整備・提供により、GIS(地理情報システム)での解析に不可欠なデータが誰でも無料で利用できるようになり、都市計画や防災、環境調査など幅広い分野での活用が可能となっています 。
参考)https://jcmanet.or.jp/bunken/kikanshi/2008/12/010.pdf

 

地理空間情報活用推進基本法と衛星測位システムの発展

地理空間情報活用推進基本法は、衛星測位技術の発展と密接な関係があります 。法律制定の背景には、アメリカが整備したGPS(全地球測位システム)の活用が行政・民間の様々な場面で進められてきたことがあります 。平成12年以降はGPSをより精度の高い測位・測量に活用することが可能となり、平成14年に世界測地系が日本に導入されると、GPSが示す位置座標と国内地図の座標値が一致するようになりました 。
参考)http://www.j-gis.jp/symposium/siryou/1%20usui(kouen).pdf

 

この法律に基づく施策の一つとして、日本独自の準天頂衛星システム「みちびき」の開発・運用があります 。みちびきは2018年11月から4機体制での運用が開始されており、GPSと一体で利用することで安定した高精度測位を可能としています 。準天頂衛星の特性を活かし、日本上空に常時衛星を配置することで、都市部や山間部でもより安定した測位サービスを提供できるようになりました 。
参考)https://club.informatix.co.jp/?p=621

 

これらの衛星測位技術の発展により、測位精度が数十cm~数cmまで飛躍的に向上し、防犯・防災、交通、環境、医療、観光といった分野でより精密な位置情報サービスの提供が実現されています 。

地理空間情報活用推進基本法が目指す宅建業界への影響と可能性

地理空間情報活用推進基本法は、不動産業界、特に宅建業界にも大きな影響を与える可能性を秘めています。基本法に基づく基盤地図情報の整備により、土地の正確な境界線や建築物の外周線、道路縁などの詳細な位置情報が無償で提供されるようになったことで、不動産の物件調査や価格査定の精度向上が期待できます 。
また、衛星測位システムの高精度化により、現地調査における測量作業の効率化や、顧客に対する物件案内時のより正確な位置情報提供が可能となります 。特に準天頂衛星「みちびき」による数cm級の高精度測位は、土地境界の確定や建物位置の特定において革新的な技術となります 。
参考)https://qzss.go.jp/overview/services/sv01_what.html

 

さらに、地理情報システム(GIS)との組み合わせにより、ハザードマップ情報、都市計画情報、交通アクセス情報等を統合的に分析・表示することで、顧客により詳細で信頼性の高い不動産情報を提供することが可能になります。これは宅建業者の重要事項説明における情報精度の向上や、顧客満足度の向上にも寄与することが期待されます 。