
長押の起源は奈良時代にまで遡り、もともとは開き戸(板扉、唐戸)をつけるために使われた木材でした。扉の軸を受ける穴が開けられた水平の木材で、建物の柱にあたる部分をくりぬき、外から釘で打ちつけられていました。
太い柱に使われる木材が入手困難になると、建物の構造強化のために使われるようになりました。この役割としては、柱をつらぬく形で横木を通し構造を補強する貫(ぬき)の技法が発展する鎌倉時代まで使われました。
法隆寺をはじめとする奈良時代以降の寺院建築や、貴族や権力者などの格式の高い建築に使用され、建物の格付けの意味も持っていました。和様建築が発達する中で柱をしっかり立てておくために柱の両側から通しで挟み付け、大釘で留め構造的に強度を強くしたのが、長押の始まりと言われています。
室町時代に誕生した日本住宅の原型と言われる「書院造」は、格式・様式、身分序列に重きをおいた「武家造」と言われました。江戸時代には禄高1000石以上の旗本の住まいだけしか「長押」の設置が許されない時期があり、この頃から長押は格式を象徴するものの一つとなりました。
長押がついている部屋イコール「格式」が高い部屋という認識が広がることとなったのです。明治時代以降は、長押のある家に住んでいると身分が高いと見られたため、長押を付ける事が一般的になりました。
興味深いことに、戦国時代では武士が護身用の槍を隠していたという記録もあります。また、平安時代では長押の上部の隙間に屏風押さえを差込み、屏風が倒れるのを防いだそうです。
長押の材料の多くは柱と同材が用いられ、別材の場合は杉材が多く使用されています。木目は柾目材(木目が真っ直ぐ平行に流れた材)が多く使用され、特に杉の糸柾などは良材とされています。柾目は、すっきりと洗練された印象をあたえるという理由もありますが、収縮や反りなど変形や狂いが少ないことから選ばれています。
長押は取り付け位置によってその名称が変わります。下から順に以下のような種類があります。
一般的に長押と聞いてイメージするのは内法長押です。また長押の断面は下が厚く上が薄い台形の形をしており、柱の幅を基準として8〜9割の幅のものを本長押、6〜7割のものを半長押と言います。
長押を納めるには、長押挽きなどの加工に雛留(ひなどめ)、枕捌(まくらさばき)、片捌(かたさばき)など床柱との兼合いなど多くの知識と技が必要とされます。
現代では長押の構造材としての役割はなくなりましたが、装飾的な部材として使われています。奥行きがある長押は、様々なものを掛けたり、飾ったりして活用されてきました。
収納としての活用方法。
現代住宅での新しい使い方。
長押は自由度が高く、アイデア次第で様々な使い方ができます。収納としての機能だけでなく、棚から取り出す手間が省けるため、利便性も向上します。
近年では洋室でも長押を設ける人が出てきています。洋室に設ける長押は、柱の間に渡すタイプではなく、壁面の好きなところに取り付けられる長さの短いタイプです。普通の長押と同じように上面には溝があり、何でも溝に引っ掛けることができるようになっています。
不動産従事者にとって長押は、物件の価値を判断する重要な要素の一つです。特に和室がある物件では、長押の有無や状態が査定に影響を与える場合があります。
査定時のチェックポイント。
長押がある和室は、伝統的な日本建築の美意識を体現しており、特に茶道や華道を嗜む顧客層には高く評価される傾向があります。また、現代では収納機能としても注目されており、特に都市部の狭小住宅では壁面収納として実用的価値も認められています。
リノベーション時の注意点。
長押を新設する場合は、これらの技術的な要素を十分に検討する必要があります。特に構造的な安全性を確保しながら、美観と実用性を両立させることが重要です。
現代の住宅市場では、長押の存在が物件の差別化要因となることもあります。和モダンなインテリアが人気を集める中、長押は日本らしさを演出する重要な要素として再評価されています。不動産従事者は、長押の歴史的意義と現代的な活用法の両方を理解し、顧客に適切な提案ができるよう知識を深めておくことが求められます。