エレベーター規格基準JISと安全要求事項

エレベーター規格基準JISと安全要求事項

エレベーターの設計・設置に欠かせないJIS規格や構造規格について解説。建築業界で知っておくべき安全基準、寸法規格、検査要求事項の要点をわかりやすく紹介。現場で活用できる実用的な知識を身に付けませんか?

エレベーター規格基準と安全要求事項

エレベーター規格の全体像
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JIS規格による標準化

JISA4307-1によるロープ式エレベーターの安全要求事項

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寸法規格の重要性

かご寸法と昇降路設計における標準寸法の適用

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労働安全衛生法対応

構造規格による安全基準の法的要求事項

エレベーター構造規格による安全基準の詳細

エレベーターの設置・運用において、労働安全衛生法に基づく「エレベーター構造規格(平成5年労働省告示第91号)」は極めて重要な位置を占めています。この規格は建築業従事者が必ず理解しておくべき安全基準の骨格を形成しています。
構造規格では、エレベーターを積載量と性能によって明確に分類しています:

  • α区分エレベーター:揚程13m以下、定格速度0.75m/秒以下、積載荷重320kg以下のもの
  • その他のエレベーター:上記に該当しない一般的な中・大型エレベーター

この分類により、それぞれ異なる安全係数が設定されています。α区分では安全係数1.6、その他では安全係数2.0となっており、建築現場での選定時に重要な判断材料となります。
構造規格の構成は以下の通りです:

  • 第一章:構造部分(材料、許容応力、荷重、強度、昇降路等)
  • 第二章:機械部分(昇降装置等、安全装置等、電気機器等)
  • 第三章:加工

特に注目すべきは、ワイヤロープに関する規定です。日本産業規格G3525に適合するワイヤロープで、直径は公称径10mm以上、一つの搬器につき3本以上(特定条件下では2本以上)が必要とされています。

エレベーターJIS規格A4307-1の安全要求事項

JISA4307-1:2019「ロープ式エレベータの安全要求事項-第1部:構造及び装置」は、現代のエレベーター設計において中核となる規格です。この規格は国際標準との整合性を図りながら、日本特有の建築環境に適応した内容となっています。
規格では、エレベーターを用途別に以下のように分類しています:

  • ロープ式エレベータ:かごに主索の一端を緊結し、巻上機の駆動用巻胴で主索を巻き取る構造
  • 小規模建物用小型エレベータ:定員3人以下、昇降行程10m以下、かご床面積1.1㎡以下
  • 人荷用エレベータ:人又は人及び荷物を輸送、荷物質量に応じた定格積載量設定
  • 寝台用エレベータ:医療施設等での特殊用途向け

この分類により、建築計画の段階からより精密な設計が可能となります。特に小規模建物用小型エレベータの定義は、住宅や小規模商業施設での設置計画において重要な指針となります。

 

JIS A 4307規格群の構成:

  • JIS A 4307-1 第1部:構造及び装置
  • JIS A 4307-2 第2部:検査及び試験

この構成により、設計から検査まで一貫した品質管理が実現されています。

 

エレベーター寸法規格JIS A4301の設計基準

エレベーターの設計において、寸法規格は建築設計と密接に関わる重要な要素です。JISA4301:1983「エレベーターのかご及び昇降路の寸法」は、建築物との整合性を確保する基準となっています。
寸法規格では、エレベーターの用途を記号で分類しています:
ロープ式エレベーター記号

  • P:一般乗用
  • PD:一般乗用(車いす対応)
  • R:住宅用
  • RT:住宅用トランク付き
  • B:寝台用
  • E:非常用

油圧式エレベーター記号

  • HP:一般乗用
  • HR:住宅用

ドア方式記号

  • CO:2枚両引き戸
  • 2S:2枚片引き戸

実際の設計では、製造メーカーごとに詳細な寸法表が提供されています。例えば東芝エレベータの荷物用エレベーター仕様では:

  • SF600-2S45(積載600kg、速度45m/min):かご内法1300×1750mm、昇降路2300×2320mm
  • SF1000-2S45(積載1000kg、速度45m/min):かご内法1700×2300mm、昇降路2700×2870mm
  • SF2000-2S30(積載2000kg、速度30m/min):かご内法2200×2800mm、昇降路3350×3370mm

これらの標準寸法は、建築設計の初期段階から構造計画に反映する必要があります。

 

エレベーター電気設備のISO規格対応

現代のエレベーター設計では、電気設備に関する国際規格への対応が不可欠となっています。ISO 8102-1:2020「エレベータ,エスカレータ及び動く歩道に対する電気的要求事項-第1部:放射に関する電磁両立性」は、電磁環境における安全性を規定しています。
この規格は以下の点で重要性を持ちます。

  • 電磁両立性(EMC):周囲の電子機器との相互干渉防止
  • 放射規制:無線通信機器への影響抑制
  • ノイズ対策:建築物内の他設備への悪影響防止

建築業界では、特に病院や精密機器を扱う施設において、これらの電磁環境対策が重要となります。エレベーターからの電磁放射が医療機器や測定装置に影響を与える可能性があるためです。

 

また、IoT化が進む現代の建築物では、エレベーターもネットワーク接続される傾向があり、セキュリティシステムとの統合も求められています。三菱電機のMELSAFETYシステムなど、統合ビルセキュリティーシステムとの連携では、個人認証によるフロアアクセス制御が実現されています。
設計段階での留意点。

  • 電気室の配置と電磁シールド対策
  • 接地システムの設計
  • 制御盤の配置と冷却計画
  • 非常電源との連携設計

エレベーター維持管理規格と定期検査要件

エレベーターの安全運行を継続的に確保するため、定期検査と維持管理に関する規格要件の理解が重要です。建築物の管理者として、法定点検の実施と記録保持は法的義務となっています。

 

法定点検の分類と頻度

  • 月例点検:機能確認、清掃、給油等の日常保守
  • 年次点検:詳細な分解点検と部品交換
  • 特定建築物定期調査建築基準法に基づく定期報告

維持管理において特に注意すべき項目。

  • ワイヤロープの摩耗状況:目視検査と張力測定
  • 制動装置の作動確認:非常停止性能の確認
  • 安全装置の動作試験:各種安全スイッチの機能確認
  • 扉開閉装置の調整:開閉タイミングと挟み込み防止機能

近年では、IoT技術を活用した予防保全システムが普及しており、リモート監視による故障予知も可能となっています。センサーデータの蓄積により、部品交換タイミングの最適化や突発的故障の回避が実現されています。

 

記録保持の重要性
建築基準法では、点検記録の保存期間が定められており、建築物の管理者は以下の記録を適切に保管する必要があります。

  • 定期点検記録(3年間保存)
  • 修理・改造記録(永久保存)
  • 事故・故障発生記録(5年間保存)

これらの記録は、建築物の資産価値維持と法的責任の履行において不可欠な要素となっています。