
国家賠償法1条は、公務員が「公権力の行使に当たる」職務を行う際に、故意または過失により違法に他人に損害を与えた場合の賠償責任を定めています 。公権力の行使とは、「国家賠償法2条の対象となるもの(公の営造物の設置・管理)および私経済作用を除くすべての行政作用」を指します 。
参考)https://gyosyo.info/%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E8%B3%A0%E5%84%9F%E6%B3%951%E6%9D%A1%EF%BC%88%E5%85%AC%E6%A8%A9%E5%8A%9B%E3%81%AE%E8%A1%8C%E4%BD%BF%E3%81%AB%E5%9F%BA%E3%81%A5%E3%81%8F%E8%B3%A0%E5%84%9F%E8%B2%AC%E4%BB%BB%EF%BC%89/
具体的には、警察官による違法な逮捕、税務署職員による誤った課税処分、宅建業者に対する監督権限の不行使などが該当します 。これらは国または地方公共団体が持つ公権力を背景とした行為であり、民間人が同様の行為を行うことができない権限行使に関連するものです。
参考)https://gyosyo.info/%E6%9C%80%E5%88%A4%E5%B9%B3%E5%85%83-11-24%EF%BC%9A%E3%80%8C%E5%AE%85%E5%BB%BA%E6%A5%AD%E6%B3%95%E3%81%AE%E5%85%8D%E8%A8%B1%E5%9F%BA%E6%BA%96%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%80%8C%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E8%B3%A0/
重要なのは、公権力の行使を行う民間人も「公務員」として扱われることです 。例えば、建築確認を行う民間の指定確認検査機関や、弁護士会の懲戒委員会の委員なども、公権力の行使に当たる行為を行う場合は国家賠償法1条の対象となります。
国家賠償法1条の責任成立には、公務員に「故意又は過失」があることが要件となっています 。故意とは、一定の侵害結果の発生を認識しながらそれを認容して行う心理状態を指します 。一方、過失とは、判例によると公務員が「職務上要求される注意能力を欠く」場合を指し、客観的過失で判断されます 。
違法性については、公務員の行為が法令に反することを意味しますが、単に形式的に法令に反するだけでは不十分で、国家賠償法上の違法性が認められるためには実質的な権利侵害が必要とされます 。権限不行使の場合には、その不行使が「著しく不合理と認められるとき」でない限り、国家賠償法1条の適用上違法の評価を受けません 。
参考)https://ja.wikibooks.org/wiki/%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E8%B3%A0%E5%84%9F%E6%B3%95%E7%AC%AC1%E6%9D%A1
職務関連性も重要な要件であり、公務員が「その職務を行うについて」行った行為であることが必要です 。これは職務そのものの行為だけでなく、職務に関連性のある行為も含みます。
参考)https://note.com/gyousei_hama/n/nba453b5950ef
国家賠償法2条は、道路、河川、公園などの「公の営造物」の設置または管理に瑕疵があったために他人に損害を生じた場合の賠償責任を定めています 。営造物の設置・管理の瑕疵とは、「営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態」をいいます 。
参考)https://www.sak-office.jp/hanrei/gyousei/53
この安全性の判断は、当該営造物の構造、本来の用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的・個別的に判断されます 。例えば、道路に大きな穴があいて車が損傷した場合や、公園の遊具に欠陥があって利用者が怪我をした場合などが該当します。
参考)https://gyosyo.info/%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E8%B3%A0%E5%84%9F%E6%B3%952%E6%9D%A1%EF%BC%88%E5%96%B6%E9%80%A0%E7%89%A9%E3%81%AE%E8%A8%AD%E7%BD%AE%E3%83%BB%E7%AE%A1%E7%90%86%E3%81%AE%E7%91%95%E7%96%B5%E3%81%AB%E5%9F%BA%E3%81%A5/
重要な点は、営造物が本来の用法に従えば安全であるのに、設置管理者の通常予測し得ない異常な方法で使用された場合は、国などは国家賠償法2条の責任を負わないとされることです 。これは営造物の安全性の程度が相対的なものであることを示しています。
国家賠償法1条と2条の最も大きな違いは、公務員の故意・過失の要件の有無です 。1条責任では公務員の故意または過失が必要ですが、2条責任は無過失責任とされ、公務員の故意・過失を要件としていません 。
参考)https://www.mlit.go.jp/pri/houkoku/gaiyou/pdf/kkk1.pdf
要件項目 | 1条責任 | 2条責任 |
---|---|---|
主体 | 公権力の行使に当たる公務員 | 営造物の設置・管理者 |
行為・状態 | 職務行為(作為・不作為) | 営造物の設置・管理の瑕疵 |
主観的要件 | 故意または過失 | 不要(無過失責任) |
違法性 | 違法な行為 | 瑕疵(通常有すべき安全性の欠如) |
また、損害賠償請求の相手方も異なります 。1条責任では公務員を選任・監督する者または費用負担者に請求でき、2条責任では営造物の設置・管理者または費用負担者に請求できます。youtube
宅地建物取引業法の分野では、知事による宅建業者の監督権限の不行使が国家賠償法1条の問題となることがあります 。最高裁平成元年11月24日判決では、宅建業法の免許基準を満たしていない者への免許付与や、監督処分権限の不行使について判断されました。
免許制度は直接的には宅地建物取引の安全を害するおそれのある業者の関与を未然に排除することが目的であり、免許を付与した業者の人格・資質を一般的に保証し、個々の取引関係者が被る具体的な損害の防止・救済を制度の直接的な目的とするものではないとされました 。
監督処分権限についても、その不行使が「著しく不合理と認められるとき」でない限り、国家賠償法1条の適用上違法の評価を受けないとされています 。これは監督処分が知事等の専門的判断に基づく合理的裁量に委ねられていることを反映しています。この判例は、行政の監督権限の不行使について、一定の限定的な解釈を示した重要な例となっています。