
製造物責任法(PL法)は1995年に施行された法律で、製造物の欠陥により生命、身体、財産に損害が生じた場合の製造業者等の賠償責任を定めています。
参考)https://www.corporate-legal.jp/news/6106
この法律の最大の特徴は、従来の民法における過失責任主義を転換し、無過失責任を採用している点です。つまり、製造業者等に故意や過失がなくても、製品に欠陥があれば損害賠償責任を負うことになります。
参考)https://keiyaku-watch.jp/media/hourei/pl-hou/
不動産業界においても、建材、住宅設備、建築資材などの製造物が関わるため、この法律の影響は無視できません。例えば、住宅に設置された設備機器の欠陥により火災が発生した場合や、建材の不具合により構造的な問題が生じた場合などが該当します。
参考)https://www.kotora.jp/c/60388/
近年では、輸入業者や販売業者も責任の対象として明確化されており、海外製品を取り扱う不動産関連業者にとっても重要な法的リスクとなっています。
2024年から2025年にかけて注目される製造物責任法の事例として、網戸のひも死亡事故があります。この事例では、6歳女児が網戸のひもで死亡した事故に対し、最高裁が業者側に約5,800万円の賠償責任を確定させました。
この判決の重要なポイントは、指示・警告上の欠陥が認定された点です。製品自体に物理的な欠陥はなかったものの、危険性に関する適切な警告表示がなかったことが欠陥と判断されました。具体的には以下の問題が指摘されています:
この事例は不動産業界にとって重要な教訓となります。住宅設備の設置時における説明責任と安全配慮義務が明確化されたためです。
また、ティファール電気ケトルの大規模リコール(2025年9月)では、418万台という異例の規模でのリコールが実施されました。この事例では、不適切な使用方法が繰り返されることで安全性に問題が生じる可能性が指摘されており、製品設計における予見可能性の重要性が浮き彫りになりました。
参考)https://news.yahoo.co.jp/articles/d16849d271e78c811868db50a8821d31796ab831
製造物責任法における「欠陥」は、製品が通常有すべき安全性を欠いている状態と定義されており、主に3つの類型に分類されます:
設計上の欠陥では、製品の設計段階で安全性への配慮が不十分だった場合が該当します。近年の事例では、自転車のサスペンション部分の分離による転倒事故で、設計上の問題が指摘されたケースがあります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/79d09a6464ed8c7756b278ed21675e67d7d559f8
製造上の欠陥は、製造過程での不具合により設計通りに製造されなかった場合です。ノートパソコンのバッテリー発火事例では、適正使用にもかかわらず発火が生じ、製造上の欠陥が認定されています。
指示・警告上の欠陥は、製品の危険性について適切な情報提供を怠った場合です。前述の網戸事例や、石けんによるアレルギー発症事例がこれに該当し、不動産業界でも住宅設備の説明不足が同様の問題を引き起こす可能性があります。
欠陥の判断においては、「製品の特性」「通常予見される使用形態」「引き渡し時期」などの事情を総合的に考慮して決定されます。特に不動産関連では、長期間の使用が前提となるため、経年変化による安全性の変化も考慮要素となります。
近年の製造物責任法適用事例を分析すると、賠償責任の範囲が段階的に拡大している傾向が顕著に現れています。従来は製造業者のみが主な責任主体とされていましたが、現在では輸入業者、販売業者、さらには設置業者まで責任範囲が広がっています。
医療機器分野では、カテーテル破裂による脳梗塞事件で、他社製補助用具使用時の危険性についての指示・警告不足が問題視され、輸入販売業者の責任が認定されました。この判決は、単純な販売行為であっても、製品の特性を理解し適切な情報提供を行う義務があることを明確化しています。
参考)https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2023FY/000376.pdf
不動産業界においても、この傾向は重要な意味を持ちます。住宅設備の販売・設置業者は、単なる商品の引き渡しだけでなく、使用方法の説明やメンテナンス指導まで含めた包括的な責任を負う可能性が高まっています。
また、デジタルプラットフォームでの製品販売においても責任追及の動きが見られ、Amazon Japan訴訟では、プラットフォーム運営者の責任範囲について新たな議論が展開されています。これは不動産業界のオンライン取引においても参考となる事例です。
参考)https://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-202208_14.pdf
損害賠償額についても、近年は高額化の傾向が明確で、人身事故を伴う事例では数千万円規模の賠償が珍しくなくなっています。
不動産業界における製造物責任法対応では、他業界とは異なる特殊なリスク要因を理解する必要があります。住宅や建築物は長期間使用される特性があり、設備機器の経年劣化や技術基準の変化により、後発的に欠陥が顕在化する可能性があります。
参考)https://www.kokusen.go.jp/research/pdf/kk-202407_3.pdf
建材・設備機器の選定段階では、単価だけでなく安全性能や製造業者の信頼性を重視した選択が不可欠です。特に海外製品を採用する場合は、国内の安全基準への適合性確認と、万一の際の責任追及可能性を事前検討する必要があります。
施工・設置段階においては、製造業者が指定する正しい設置方法の遵守と、設置後の動作確認の徹底が重要です。網戸事故の事例が示すように、適切な設置や安全部品の装着を怠ると、施工業者も連帯責任を問われる可能性があります。
顧客への引き渡し段階では、住宅設備の正しい使用方法、定期メンテナンスの必要性、想定される危険性について、書面による説明を徹底することが求められます。口頭説明だけでは不十分とされるケースが増加しているためです。
さらに、PL保険への加入は必須の対策となります。保険内容についても、単純な賠償責任だけでなく、リコール費用や事故調査費用もカバーする包括的な商品を選択することが推奨されます。
不動産業界では、一つの物件に多数の製造物が組み込まれるため、リスクの総合的な管理システムの構築が競争優位性の確保にもつながる重要な経営課題となっています。