
設計変更における3割ルールは、公共工事において重要な基準として機能しています。会計検査院は、変更見込金額が請負代金額の30%を超える場合の処理について、厳格な監視を行っています。
このルールの背景には、入札制度の公正性確保という大原則があります。本来であれば新たな入札手続きを経るべき規模の追加工事を、既存契約の変更として処理することで、競争性を阻害する事態を防ぐことが目的です。
会計検査院の調査によると、防衛省の出先機関が行った建設工事において、34件・総額10億6200万円余りが法令に沿わない形で発注されていたことが判明しました。これらの事例では、事務手続きの遅れを理由に入札を回避し、契約変更による追加工事として処理されていました。
💡 ポイント
会計検査院による指摘事例を分析すると、いくつかの典型的なパターンが見えてきます。最も問題視されるのは、随意契約による新規発注工事として偽装するケースです。
具体的な指摘事例として、病院建替整備工事において、設計変更工事の実施による増額分の支払いにあたり、既に終了した設計変更工事について、実際とは異なる工期を記載して随意契約による新規発注工事であるかのように処理していた事案があります。
また、営繕工事の設計変更に伴う変更契約において、落札率を適用しない積算を行っていた事例も指摘されています。この事例では、変更概算書額に落札率を乗じることなく予定価格を積算し、結果として約2360万円の削減が可能であったと指摘されました。
📋 主要な指摘パターン
国土交通省をはじめとする各機関では、設計変更ガイドラインを整備し、適正な契約変更の実施を図っています。これらのガイドラインでは、変更見込金額が請負代金額の30%を超えた場合でも、一体施工の必要性から分離発注できないものについては、適切な設計変更を認める方針を示しています。
重要なのは、「変更見込金額が請負代金額の30%を超えたことのみをもって設計変更に応じない」ことは適切ではないという点です。指示等で実施が決定し、施工が進められている場合には、必要な変更は適切に行う必要があります。
福島県では、設計変更等ガイドラインを策定し、工事請負契約等の当事者である発注者と受注者が対等の立場で設計変更を適正かつ円滑に行うための指針を提供しています。
🔍 ガイドラインの要点
2025年度から、国土交通省では第三者によるチェック制度を導入することが発表されました。この制度は、入札回避を目的とした不適切な契約変更を防ぐため、一定の条件を満たす案件について第三者が審査する仕組みです。
東日本大震災の復興工事などにおいて、発注を急ぐために入札を経ずに進行中の工事の契約を変更して追加工事扱いとしていた問題が背景にあります。この制度により、契約変更の妥当性について客観的な評価が行われることになります。
会計検査院の2020年の確認により、検査員が追加工事への落札率の適用を問題視する権限はないことが明確になっていますが、適正な手続きの確保は引き続き重要な課題となっています。
⚖️ 制度改革のポイント
公共工事における設計変更3割問題は、不動産業界にとっても重要な教訓を含んでいます。契約の透明性と手続きの適正性は、業界全体の信頼性に直結する要素です。
不動産開発プロジェクトにおいても、当初計画からの変更は頻繁に発生します。地質調査結果の相違、法規制の変更、近隣対応の必要性など、予見困難な事態への対応が求められる場面は多々あります。
重要なのは、変更の必要性が生じた際に、適切な手続きと根拠の明確化を行うことです。会計検査院の指摘事例から学ぶべきは、手続きの省略や偽装は必ず発覚し、より大きな損失を招くということです。
また、コミュニケーションの重要性も見逃せません。発注者と受注者の間で適切な情報共有と協議が行われることで、多くの問題は予防可能です。
🏢 不動産業界への応用
監査対応においては、事前準備が何より重要です。山口県の包括外部監査では、「設計書チェックリスト」の導入により変更理由の適正性チェック機能を強化した事例があります。このような仕組みの構築が、問題の早期発見と予防につながります。
設計変更に関する問題は、単純な手続きミスではなく、組織のガバナンスや管理体制の問題として捉える必要があります。会計検査院の指摘を真摯に受け止め、業界全体でより適正な契約管理を実現していくことが求められています。