徒歩所要時間の表示基準と不動産広告規約の完全解説

徒歩所要時間の表示基準

徒歩所要時間の算出基準と公正競争規約

不動産広告における徒歩所要時間の表示は、「不動産の表示に関する公正競争規約施行規則」第15条第11号により厳格に定められています。この規約により、道路距離80mを徒歩1分として算出することが義務付けられており、全国の不動産業者が統一した基準で表示しなければなりません。

 

具体的な算出方法は以下の通りです。

• 基本計算式: 道路距離（m）÷ 80（m）= 徒歩所要時間（分）
• 端数処理: 1分未満の端数は必ず切り上げて1分とする
• 最低表示時間: 駅前物件でも「徒歩0分」は不可、最低「徒歩1分」と表示

例えば、駅までの道路距離が150mの場合。
150m ÷ 80m = 1.875分 → 2分と表示
この基準は、健康な女性がハイヒールを履いて歩いた際の平均分速80.3mを基に制定されたという興味深い背景があります。1963年に公正取引委員会でルール策定時に、実際に女性職員に廊下を歩かせて測定した結果が現在の基準となっています。

 

徒歩所要時間表示の測定方法と道路距離の考え方

徒歩所要時間の算出において最も重要なのは、直線距離ではなく道路距離を使用することです。これは実際に歩く道のりを反映させるためであり、以下の要素を考慮する必要があります。
道路距離測定の基本ルール。

• 実際に歩く道筋に沿って測定
• 横断歩道、歩道橋、踏切を経由する場合はその距離を含める
• 車両通行量が多い道路を横断する際の迂回路も考慮
• 信号待ち時間は算入しない

測定時の注意点。

• 坂道があっても距離のみで計算（時間的負荷は考慮しない）
• 大型施設の場合は最も近い敷地境界線までの距離
• 駅の場合は改札口ではなく駅敷地の最寄り地点まで

実務において、この道路距離の測定は地図上で行われることが多く、Google マップなどのツールを使用して正確な歩行ルートを確認することが重要です。特に都市部では一方通行や歩行者専用道路の存在により、実際の歩行ルートが複雑になる場合があります。

 

不動産の表示に関する公正競争規約の詳細な解説
https://www.athome.co.jp/contents/words/term_59/

徒歩所要時間表示の規約改正と最新動向

2022年9月1日に施行された不動産表示規約の改正により、徒歩所要時間の表示方法に重要な変更が加えられました。この改正は、消費者の利便性向上と表示の柔軟性を目的としています。

 

主な改正内容。

改正前	改正後
徒歩所要時間の表示が必須	徒歩所要時間または距離のみの表示も可能
時間表示のみ	「徒歩5分（400m）」のような併記も可能

この改正により、不動産業者は以下の表示方法から選択できるようになりました。

• 従来通りの時間表示: 「駅まで徒歩5分」
• 距離のみの表示: 「駅まで400m」
• 併記表示: 「駅まで徒歩5分（400m）」

改正の背景には、実際の歩行時間と表示時間の乖離に対する消費者からの指摘があります。特に高齢者や身体的制約のある方にとって、距離表示があることでより現実的な判断が可能になります。

 

実務への影響。

• 広告制作時の選択肢が増加
• 消費者への説明責任の向上
• 競合他社との差別化要素として活用可能

最新の不動産表示規約改正について
https://f-mikata.jp/rosette-141/

徒歩所要時間と実際の歩行時間の乖離要因

不動産広告の徒歩所要時間と実際に歩いた時間に差が生じる現象は、業界でも長年の課題となっています。この乖離が生じる主な要因を理解することは、適切な物件案内と顧客満足度向上に直結します。

 

主な乖離要因。
🚶‍♀️ 個人差による要因

• 年齢による歩行速度の違い（高齢者は分速60m程度）
• 身長や歩幅の個人差
• 体調や荷物の有無

🌦️ 環境要因

• 天候条件（雨天時は歩行速度が約20%低下）
• 時間帯による歩行者密度
• 季節による服装の違い

🏗️ 地形・道路条件

• 坂道の勾配（規約では考慮されない）
• 歩道の整備状況
• 交通量による歩きやすさ

実務での対応策。

• 物件案内時に実際の歩行時間も併せて説明
• 高齢者向け物件では余裕を持った時間を案内
• 季節や時間帯を考慮した現地確認の推奨

興味深いことに、地域によっても歩行速度に差があり、東京都心部では分速85m程度、地方都市では分速75m程度という調査結果もあります。これは人口密度や都市構造の違いが影響していると考えられます。

 

徒歩所要時間表示における不動産業者の実務上の注意点

徒歩所要時間の表示において、不動産業者が実務で注意すべき点は多岐にわたります。規約違反は公正取引委員会による指導や処分の対象となるため、正確な理解と適用が不可欠です。

 

測定・表示時の実務チェックポイント。
📋 測定段階での注意事項

• 地図上での正確な道路距離測定
• 工事等による一時的な迂回路の考慮
• 複数ルートがある場合の最短経路選択
• 歩行者専用道路と車道の区別

📝 広告表示での注意事項

• 「約」「おおよそ」等の曖昧な表現の禁止
• 複数の最寄り駅がある場合の表示方法
• バス停との併記時の優先順位
• 季節限定の道路（雪道等）の取り扱い

よくある実務上の誤解。

誤解	正しい理解
信号待ち時間も含める	信号待ち時間は含めない
最短直線距離で計算	実際の道路距離で計算
坂道は時間を加算	坂道でも距離のみで計算
駅改札まで測定	駅敷地の最寄り地点まで

トラブル回避のための実践的アドバイス。

• 測定時は複数人でダブルチェック
• 地図アプリと現地確認の両方実施
• 顧客への説明時は「目安」であることを明示
• 季節や時間帯による変動要因の事前説明

特に新人営業担当者が陥りやすいのは、「実際に歩いた感覚」で時間を調整してしまうことです。規約では明確に80m=1分と定められているため、個人的な感覚は一切考慮してはいけません。

 

不動産広告の適正表示に関する実務指針
https://www.livable.co.jp/yogo/59/