

有限要素法(Finite Element Method: FEM)は、解析対象領域を三角形や四角形などの小さな要素に分割し、各要素内の物理量の分布を基底関数を用いて補間する数値解析手法です 。この手法では、任意の重み関数を掛けた弱形式を用いて支配方程式を積分方程式として定式化し、各要素で得られる連立一次方程式を解くことで全体の解を求めます 。
参考)https://nature-architects.com/blog/2260/
有限要素法の大きな特徴は、基底関数による要素内の物理量分布の補間にあります 。多項式の次数を増やすことで高次の補間が容易に実現でき、2次や3次の基底関数を用いることで高精度な解析が可能になります 。境界条件の取り扱いも自然で直接的な方法で行えるため、複雑な形状や境界条件を持つ問題にも効率的に対応できます 。
参考)https://www.comsol.jp/blogs/fem-vs-fvm
また、有限要素法は空間分割に関して高い柔軟性を持ち、メッシュ分割は解析対象の形状を与えれば自動で行えるようになっています 。この汎用性により、構造解析から熱伝導解析、電磁界解析まで幅広い分野で応用されています。
参考)https://kesco.co.jp/comsol/fem/
有限体積法(Finite Volume Method: FVM)は、解析領域を有限個のコントロールボリュームに分割し、各ボリュームにおいて保存方程式を適用する数値解析手法です 。この手法では、各計算セル内で支配方程式を直接積分し、ガウスの発散定理により境界積分に変換することで、セル界面を通る流束の収支から解を求めます 。
参考)https://www.cybernet.co.jp/ansys/learning/glossary/yuugentaisekihou/
有限体積法の最大の特徴は、計算セル1つ1つにおいても保存則が厳密に成立することです 。質量や運動量、熱量といった各物理量が確実に保存されるため、熱流体解析において非常に重要な特性となります 。セル界面における流束を陽的に計算するため、局所的な流れ場の情報を反映させた計算手法を組み込むことが容易で、複雑な物理現象に対して安定な計算が可能です 。
さらに、有限体積法は任意の多面体が扱えるため、自由曲面を持つような複雑な形状にも柔軟に対応できます 。コントロールボリュームの形状に依存しない定式化により、テトラ、ヘキサ、ポリへドラルなど様々な要素形状を統一的に扱えることも大きな利点です。
参考)https://cattech-lab.com/science-tools/simulation-lecture-4-3/
有限要素法の離散化プロセスでは、弱形式に基づく重み付き残差法を採用し、テスト関数と基底関数を用いて方程式を定式化します 。この手法により、境界条件の取り扱いが正確に行えると同時に、基底関数の次数を自由に選択できる柔軟性が得られます 。
精度の観点では、有限要素法は理論的にはどのような次数でも実現可能であり、最も一般的な線形基底関数でも2次精度の手法になります 。2次基底関数を使用すれば、より高精度な解析が容易に実現でき、粗いメッシュでも細かいメッシュの1次精度手法より高い精度を得ることができます 。
テスト関数は各節点の近傍でのみ非ゼロとなるため、積分計算は局所的な要素に対してのみ実行すればよく、計算効率も優れています 。さらに、解の再構成や補間が不要で、方程式の定式化が非常に対称的である点も、有限要素法の大きな利点として挙げられます。
有限体積法では、各セル界面における数値流束の計算が解の精度と安定性を決定する重要な要素となります 。流束の計算方法には任意性があり、単純な算術平均から高度な風上法まで、様々なスキームを選択できます 。この柔軟性により、物理現象の特性に応じて最適な数値スキームを選択することが可能です。
特に対流が支配的な流れの問題に対しては、風上法による安定化が自然で直接的に実装できます 。制限関数を用いることで、物理量が急激に変化する部分でのみ数値粘性を付加し、滑らかな部分では高精度を保つハイブリッドスキームも容易に構築できます 。
また、セル中心ベースとノードベースの2つの手法があり、コントロールボリュームの作成方法が異なりますが、いずれも保存性を確保しながら計算を進めることができます 。局所の保存性が確保されることで、非物理的なソース項の発生を防ぎ、計算の安定性向上に寄与します。
両手法の選択は、解析対象となる物理現象と求められる精度、計算リソースのバランスを総合的に判断する必要があります。構造解析においては、有限要素法の高次精度と境界条件の自然な取り扱いが有利であり、複雑な形状や材料特性の変化に対しても柔軟に対応できます 。一方、流体解析では有限体積法の厳密な保存性と対流項の安定な取り扱いが重要な利点となります。
現代の商用CFDソフトウェアの多くが有限体積法をベースとしているのは、流体の基礎方程式が保存則そのものであることと、局所的な保存性の確保が物理的に自然な選択であることが理由です 。しかし、不連続ガラーキン法などの新しい有限要素法の発展により、CFDにおける有限要素法の可能性も広がっています 。
両手法とも継続的な発展を続けており、それぞれの強みを活かした適用分野の拡大と、お互いの利点を取り入れたハイブリッド手法の開発も進んでいます。エンジニアは解析目的と制約条件を明確にした上で、各手法の特性を理解して最適な選択を行うことが重要です。