
賃貸住宅修繕共済の最大のデメリットは、掛け捨て制度であることです。この制度では、解約返戻金や満期金が一切ありません。つまり、一度支払った掛金は修繕工事以外の目的では絶対に回収できないのです。
経営資金に窮した場合でも、共済からの引き出しは不可能です。これは賃貸経営において非常に大きなリスクとなります。例えば、以下のような状況では資金が必要になることがあります。
従来の修繕積立金であれば、緊急時には取り崩すことが可能でしたが、共済制度ではこの柔軟性が完全に失われます。特に個人オーナーにとって、この資金拘束は経営の自由度を大幅に制限する要因となります。
また、共済期間中に物件を売却する場合も注意が必要です。新しい所有者に共済契約を引き継ぐことは可能ですが、売却価格に共済掛金分が適切に反映されるかは不透明です。
共済の補償対象は屋根、外壁、軒裏の3箇所に限定されています。しかし、実際の賃貸住宅経営では、これ以外の箇所でも多額の修繕費用が発生します。
補償対象外となる主要な設備・箇所。
国土交通省の調査によると、マンションの大規模修繕工事では給排水設備の更新が全体費用の約30%を占めることが多く、これらが対象外となることは大きな問題です。
さらに、劣化事象の定義も厳格で、以下の条件をすべて満たす必要があります。
これらの条件により、実際に共済金が支払われるケースは想定よりも限定的になる可能性があります。
共済加入には長期修繕計画書の提出が必須となっています。この計画書作成は、多くの個人オーナーにとって大きな負担となります。
長期修繕計画書作成の課題。
また、計画書の内容が審査に合格しない場合は加入が認められません。審査基準が明確でないため、計画書を作成しても加入できない可能性があります。
さらに、既に劣化が生じている箇所がある場合は、事前に修繕を完了させる必要があります。これにより、加入前に予想外の修繕費用が発生する可能性があります。
加入前検査では以下の項目がチェックされます。
これらの検査で問題が発見された場合、修繕完了まで加入できないため、計画的な準備が必要です。
共済制度では、修繕工事の実施において一定の制約があります。共済金の支払いを受けるためには、組合が認める工事内容・金額である必要があり、オーナーの工事業者選定の自由度が制限される可能性があります。
工事実施における制約事項。
特に問題となるのは、グレードアップを伴う修繕工事が対象外となることです。例えば、外壁塗装の際により高性能な塗料を使用したり、屋根材をより耐久性の高いものに変更したりする場合、差額分は全額自己負担となります。
また、工事金額が共済金額を下回った場合、工事金額分のみが支払い対象となります。余剰金は次回契約にロールオーバーできますが、契約を更新しない場合は戻ってきません。
さらに、共済金の支払いは工事完了後となるため、工事費用の一時的な立て替えが必要です。大規模修繕では数千万円の立て替えが必要となる場合もあり、資金調達の負担が発生します。
共済制度は2022年5月に開始された新しい制度であり、税務処理や将来的な制度変更に関するリスクが存在します。
税務処理上の注意点。
制度開始から日が浅いため、実際の運用において予期しない問題が発生する可能性があります。特に以下の点で不確実性があります。
また、現在は国土交通省認可の制度ですが、政策変更により制度内容が変更される可能性もあります。長期間の契約となるため、これらの変更リスクを十分に考慮する必要があります。
相続時の取り扱いについても、共済契約は相続人に引き継がれますが、相続税評価や遺産分割における取り扱いが複雑になる可能性があります。特に複数の相続人がいる場合、共済契約の帰属や管理責任の所在が問題となることがあります。
賃貸住宅修繕共済制度は節税効果というメリットがある一方で、これらの多くのデメリットも存在します。加入を検討する際は、これらの制約や リスクを十分に理解し、自身の賃貸経営戦略と照らし合わせて慎重に判断することが重要です。特に資金流動性を重視する経営スタイルの場合、掛け捨て制度による資金拘束は大きな制約となる可能性があります。