賃貸アパート相続税評価額の算式と土地建物の計算方法

賃貸アパート相続税評価額の算式と土地建物の計算方法

賃貸アパートを相続する際の相続税評価額の計算方法について解説します。土地と建物それぞれの評価額の算出方法や減額措置、小規模宅地等の特例についても詳しく説明。不動産オーナーの方は相続税対策として知っておくべき内容ですが、あなたはこれらの特例をどのように活用していますか?

賃貸アパート相続税評価額の算式と計算方法

賃貸アパート相続税評価の基本
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土地と建物は別々に評価

相続税評価では土地(貸家建付地)と建物(貸家)を分けて計算します

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評価額が下がる仕組み

賃貸中の不動産は自由に使用できないため評価額が減額されます

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相続税対策として有効

評価額の減額と家賃収入の両方のメリットが得られます

賃貸アパートを相続する場合、相続税の計算は土地と建物を別々に評価して行います。賃貸アパートは相続税対策として活用されることが多く、その理由は評価額が一般の不動産より低く算出されるためです。これは、賃貸中の不動産は所有者が自由に使用・処分できないという制約があるためです。

 

相続税の基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人数)」で計算され、この金額を超える場合に相続税が課税されます。例えば、相続人が配偶者と子供2人の場合、基礎控除額は4,800万円となります。

 

賃貸アパートの土地部分の相続税評価額算式

賃貸アパートの土地部分は「貸家建付地」として評価され、以下の算式で計算します:
貸家建付地の評価額 = 自用地としての評価額 ×(1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
各要素について詳しく説明します:

  • 自用地としての評価額:路線価 × 土地面積で計算します。路線価は国税庁が毎年公表する路線価図で確認できます。

     

  • 借地権割合:地域によって30%~90%の間で設定されており、路線価図に記載されたアルファベット(A~G)で確認できます。

     

    • A:90%、B:80%、C:70%、D:60%、E:50%、F:40%、G:30%
  • 借家権割合:全国一律で30%と定められています。

     

  • 賃貸割合:貸している部分の床面積の割合です。全室貸し出している場合は1.0(100%)となります。

     

例えば、路線価が1㎡あたり30万円、土地面積が200㎡の場合、自用地としての評価額は6,000万円です。借地権割合が60%、借家権割合が30%、賃貸割合が80%の場合:
6,000万円 ×(1 - 0.6 × 0.3 × 0.8)= 6,000万円 × 0.856 = 5,136万円
このように、貸家建付地の評価額は自用地の約85.6%に減額されます。

 

賃貸アパートの建物部分の相続税評価額計算方法

賃貸アパートの建物部分は「貸家」として評価され、以下の算式で計算します:
貸家の評価額 = 固定資産税評価額 ×(1 - 借家権割合 × 賃貸割合)
建物の場合、土地と異なり借地権割合は使用せず、借家権割合(30%)と賃貸割合のみを用います。

 

固定資産税評価額は、毎年春頃に市区町村から送付される固定資産税納税通知書に記載されています。もし手元にない場合は、不動産がある地域の市役所で固定資産課税台帳を閲覧するか、固定資産評価証明書を取得して確認できます。

 

例えば、固定資産税評価額が1億円の建物で、借家権割合が30%、賃貸割合が80%の場合:
1億円 ×(1 - 0.3 × 0.8)= 1億円 × 0.76 = 7,600万円
このように、貸家の評価額は約76%に減額されます。

 

賃貸アパート相続税の小規模宅地等の特例活用法

賃貸アパートの土地には「小規模宅地等の特例」を適用できる場合があります。この特例を利用すると、貸付事業用宅地として200㎡までの部分について評価額を50%減額することができます。

 

特例適用の計算式は以下の通りです。
特例適用後の評価額 = 貸家建付地の評価額 × 50%(200㎡までの部分)
ただし、この特例には以下の注意点があります:

  1. 平成30年4月1日以降に賃貸事業を開始し、相続時点で事業開始から3年以内の場合は特例が適用されません。

     

  2. 特例は土地部分のみに適用され、建物には適用されません。

     

  3. 自宅とアパートが兼用の場合、要件を満たせば330㎡まで80%減額される場合があります。

     

例えば、先ほどの例で計算した貸家建付地の評価額5,136万円に小規模宅地等の特例を適用すると:
5,136万円 × 50% = 2,568万円
このように、特例適用により評価額をさらに半分に減額できます。

 

賃貸アパート相続時の借家権割合と賃貸割合の影響

賃貸アパートの相続税評価額を決める重要な要素として、借家権割合と賃貸割合があります。これらの数値が評価額にどのように影響するか詳しく見ていきましょう。

 

借家権割合は全国一律で30%と定められていますが、賃貸割合は実際の入居状況によって変動します。賃貸割合の計算式は以下の通りです。
賃貸割合 = 賃貸中の床面積 ÷ 全体の床面積
例えば、10部屋あるアパートで各部屋の床面積が20㎡ずつ、相続開始時に2部屋が空室だった場合:
賃貸割合 =(8部屋 × 20㎡)÷(10部屋 × 20㎡)= 160㎡ ÷ 200㎡ = 0.8(80%)
ただし、一時的な空室の場合は、その部分も賃貸中とみなして計算することが認められています。これは、一時的な空室が生じるのは賃貸経営の通常の状態であるという考え方に基づいています。

 

賃貸割合が高いほど評価額は低くなりますが、実際の入居率を適正に反映させることが重要です。相続税申告時に税務署から入居状況の確認を求められる場合もあるため、賃貸契約書などの証拠書類を保管しておくことをお勧めします。

 

賃貸アパート相続税対策としての出口戦略の重要性

賃貸アパート経営を相続税対策として活用する場合、「出口戦略」を検討することが非常に重要です。出口戦略とは、将来的にアパート経営をどのように終了させるか、または次世代にどう引き継ぐかという計画です。

 

アパート経営の出口戦略として考えられる選択肢には以下のようなものがあります:

  1. 売却する:築年数が進み、修繕費用が増加する前に売却する
  2. 建て替える:土地の価値が高い場合、建物を建て替えて資産価値を高める
  3. 次世代に引き継ぐ:家族に経営を引き継ぎ、資産と収入源として活用する
  4. 信託を活用する:家族信託などを利用して、柔軟な資産管理を行う

出口戦略を考える際には、以下の点を検討することが重要です。

  • 築年数と建物の状態:築年数が古くなると修繕費用が増加し、収益性が低下します
  • 立地条件と将来性:人口動態や地域の発展計画などを考慮して将来の需要を予測
  • 相続人の意向と能力:相続人が不動産経営に興味や能力があるかどうか
  • 税制改正の動向:将来の税制改正によって相続税対策としての有効性が変わる可能性

例えば、築20年を超えるアパートの場合、大規模修繕が必要となる時期に差し掛かっています。この時点で売却するか、修繕して継続するか、建て替えるかの判断が必要になります。

 

また、ローンが残っている場合は、残債を相続財産から差し引くことができるため、相続税の負担を軽減できます。しかし、ローン返済の負担と家賃収入のバランスを考慮することも重要です。

 

出口戦略は早い段階から検討し、税理士や不動産専門家と相談しながら計画的に進めることをお勧めします。

 

賃貸アパート経営の出口戦略についての詳細情報(三井住友銀行)
以上、賃貸アパートの相続税評価額の算式と計算方法について解説しました。賃貸アパートは相続税対策として有効な手段ですが、正確な評価額の計算と適切な出口戦略の検討が重要です。相続税対策を検討する際は、専門家に相談して最適な方法を選択することをお勧めします。

 

相続税の計算は複雑で、個人の状況によって最適な対策が異なります。本記事の情報を参考にしつつ、必ず税理士などの専門家に相談して、正確な評価と適切な対策を検討してください。賃貸アパート経営は相続税対策だけでなく、安定した収入源としても活用できる優れた資産運用方法です。長期的な視点で計画的に取り組むことで、大切な資産を次世代に効率的に引き継ぐことができるでしょう。