相続税と賃貸マンションの評価額計算方法

相続税と賃貸マンションの評価額計算方法

賃貸マンションやアパートを相続する際の税金計算方法と節税対策について解説します。建物と土地の評価方法や特例適用の条件など、不動産オーナーが知っておくべき相続税の知識とは?

相続税と賃貸不動産の評価方法

賃貸不動産の相続税評価のポイント
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建物と土地で評価が異なる

賃貸不動産の相続税評価は建物と土地に分けて計算され、それぞれ異なる評価方法が適用されます。

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貸家・貸家建付地の評価減

賃貸中の不動産は借家権等の影響で評価額が減額され、現金で持つよりも相続税の負担が軽減されます。

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小規模宅地等の特例も活用可能

条件を満たせば、貸付事業用宅地として最大50%の評価減が受けられる特例も適用できます。

相続税における賃貸マンションの評価対象

賃貸マンションを相続する場合、相続税の評価対象となるのは「建物」と「土地」の2つです。これは賃貸マンションを所有するということが、建物だけでなく、その土地も同時に所有していることを意味するためです。

 

相続税の計算においては、この2つの資産をそれぞれ別々に評価し、その合計額に対して相続税が課されます。1棟の賃貸マンションと分譲マンションの一室では、評価方法に大きな違いがあります。分譲マンションの場合は「専有部分」と「共有部分の持分」に分かれますが、1棟所有の賃貸マンションでは建物全体と土地全体が評価対象となります。

 

相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。例えば、法定相続人が2人の場合、基礎控除額は3,000万円+600万円×2=4,200万円となります。この金額を超える部分に対して相続税が課税されるため、賃貸マンションの評価額をいかに適正に算出するかが重要なポイントとなります。

 

相続税の賃貸建物評価額の計算方法

賃貸マンションやアパートなどの建物部分の相続税評価額は、固定資産税評価額をベースに計算されます。ただし、賃貸中の建物については「貸家」として評価減が適用されます。

 

貸家の相続税評価額は以下の計算式で求められます:

text建物の相続税評価額 = 固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合)

この計算式の各要素について詳しく見ていきましょう:

  • 固定資産税評価額:毎年市区町村から送られてくる固定資産税・都市計画税の課税明細書に記載されている金額です。一般的に建物の時価の約50~70%程度とされています。

     

  • 借家権割合:建物の賃借人が持つ権利(借家権)の価値を表す割合で、全国一律で30%と定められています。

     

  • 賃貸割合:賃貸用に提供している面積のうち、実際に賃貸されている面積の割合です。例えば、10室あるマンションで全室入居中なら100%、5室が空室なら50%となります。

     

例えば、固定資産税評価額が1,000万円の賃貸マンションが満室(賃貸割合100%)の場合:
1,000万円 × (1 - 0.3 × 1.0) = 1,000万円 × 0.7 = 700万円
このように、賃貸中の建物は自己所有・自己使用の建物と比較して30%も評価額が下がることになります。これが賃貸不動産が相続税対策として効果的と言われる理由の一つです。

 

相続税の賃貸土地(貸家建付地)の評価方法

賃貸マンションやアパートが建っている土地は、相続税評価上「貸家建付地」として評価されます。貸家建付地の評価額は、更地(自用地)の評価額よりも低くなるように設計されています。

 

貸家建付地の相続税評価額は以下の計算式で求められます:

text土地の相続税評価額 = 自用地としての評価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)

この計算式の各要素について詳しく見ていきましょう:

  • 自用地としての評価額:路線価方式または倍率方式で計算された更地としての評価額です。路線価方式の場合は「路線価 × 土地面積」で算出します。

     

  • 借地権割合:地域によって30%~90%の範囲で設定されており、路線価図に記載されています。都心部ほど高く、地方ほど低い傾向があります。

     

  • 借家権割合:建物と同様に全国一律で30%です。

     

  • 賃貸割合:建物と同様に、実際に賃貸されている割合です。

     

例えば、自用地評価額が1億円、借地権割合が70%、借家権割合が30%、賃貸割合が100%の場合:
1億円 × (1 - 0.7 × 0.3 × 1.0) = 1億円 × 0.79 = 7,900万円
このように、貸家建付地の評価額は自用地評価額から21%も減額されることになります。借地権割合が高い都心部ほど、この評価減の効果は大きくなります。

 

相続税の小規模宅地等の特例と賃貸不動産

賃貸マンションやアパートの土地については、一定の条件を満たせば「小規模宅地等の特例」を適用することができます。この特例は、事業用や居住用の宅地等について、一定面積までの土地の評価額を減額する制度です。

 

賃貸不動産に関連する小規模宅地等の特例には以下のものがあります:

  1. 貸付事業用宅地等の特例
    • 減額割合:50%
    • 適用限度面積:200㎡まで
    • 適用条件:被相続人等が貸付事業(アパート経営等)を行っていた宅地等
  2. 事業用宅地等の特例
    • 減額割合:80%
    • 適用限度面積:400㎡まで
    • 適用条件:被相続人等が事業(不動産賃貸業を含む)を行っていた宅地等で、相続人が事業を継続する場合

ただし、この特例を適用するためには、以下の条件を満たす必要があります:

  • 被相続人が相続開始前に不動産賃貸業を営んでいたこと
  • 相続人が相続税の申告期限まで(相続開始から10ヶ月以内)その事業を継続すること
  • 貸付事業用宅地等の特例を受ける場合、被相続人の事業的規模での貸付が必要(一般的に5棟以上または10室以上の賃貸を行っていること)

この特例を適用することで、賃貸不動産の土地の評価額をさらに大きく減額することができ、相続税の負担を大幅に軽減することが可能になります。

 

相続税対策としての賃貸不動産活用の実践例

相続税対策として賃貸不動産を活用する具体的な事例を見てみましょう。

 

【事例1:現金から賃貸マンションへの資産転換】
相続財産5億円(全額現金)を所有する父親が、相続税対策として3億円で賃貸マンションを購入したケースを考えます。

 

  • 購入前:現金5億円(相続税評価額5億円)
  • 購入後:現金2億円+賃貸マンション(土地1.5億円、建物1.5億円)

賃貸マンションの相続税評価額は以下のように計算されます:

  • 土地(借地権割合70%、借家権割合30%、賃貸割合100%):

    1.5億円 × (1 - 0.7 × 0.3 × 1.0) = 1.5億円 × 0.79 = 1.185億円

  • 建物(借家権割合30%、賃貸割合100%):

    1.5億円 × (1 - 0.3 × 1.0) = 1.5億円 × 0.7 = 1.05億円

購入前の相続税評価額:5億円
購入後の相続税評価額:2億円 + 1.185億円 + 1.05億円 = 4.235億円
差額:5億円 - 4.235億円 = 0.765億円
この例では、賃貸マンションの購入により相続税評価額が約7,650万円減少し、相続税の負担が大幅に軽減されています。さらに小規模宅地等の特例を適用できれば、さらなる節税効果が期待できます。

 

【事例2:土地の有効活用】
更地として所有している土地(評価額1億円)にアパートを建築(建築費1.5億円)したケースを考えます。

 

  • 建築前:土地1億円(相続税評価額1億円)
  • 建築後:貸家建付地+貸家

アパート建築後の相続税評価額は以下のように計算されます:

  • 土地(借地権割合60%、借家権割合30%、賃貸割合100%):

    1億円 × (1 - 0.6 × 0.3 × 1.0) = 1億円 × 0.82 = 0.82億円

  • 建物(固定資産税評価額を0.7億円と仮定):

    0.7億円 × (1 - 0.3 × 1.0) = 0.7億円 × 0.7 = 0.49億円

建築前の相続税評価額:1億円
建築後の相続税評価額:0.82億円 + 0.49億円 = 1.31億円
この例では、一見すると相続税評価額が増加しているように見えますが、実際には1.5億円の投資に対して評価額の増加は0.31億円にとどまっています。また、アパート経営による収益も得られるため、総合的に見れば有効な相続税対策となります。

 

相続税と賃貸不動産における注意点と対策

賃貸不動産を相続税対策として活用する際には、以下の点に注意する必要があります。

 

1. 建物の経年劣化による評価減
建物は年数の経過とともに評価額が下がります。固定資産税評価額は通常、建物の経年劣化を考慮して毎年減少していきます。そのため、築年数が古い賃貸マンションほど相続税評価額は低くなりますが、同時に収益性や資産価値も低下する可能性があります。

 

2. 空室リスクと賃貸割合
賃貸割合は実際に賃貸されている割合を指します。空室が多いと賃貸割合が下がり、評価減の効果が薄れてしまいます。相続税対策としては高い入居率を維持することが重要です。

 

3. 借入金がある場合の評価
賃貸不動産の購入に際して借入金がある場合、その借入金は債務として相続財産から控除できます。ただし、借入金が多すぎると収益性が悪化するリスクがあるため、適切なバランスを考慮する必要があります。

 

4. 相続時精算課税制度の活用
相続時精算課税制度を利用して、生前に子どもに賃貸不動産を贈与することも一つの方法です。この制度では、2,500万円までの贈与については贈与税が非課税となります。ただし、相続時には贈与時の価額が相続財産に加算されるため、長期的な視点での検討が必要です。

 

5. 賃貸不動産の共有化
相続人が複数いる場合、賃貸不動産を共有名義にすることで、各相続人の持分に小規模宅地等の特例を適用できる可能性があります。ただし、共有名義にすると将来的な管理や処分に関して意見の相違が生じるリスクもあります。

 

6. 利用区分の変更による評価減
二方の路線に面している土地や角地などの場合、利用区分を変更することで評価額を下げられる可能性があります。例えば、一つの土地を二つに分けて異なる用途で利用することで、それぞれの土地が面している道路の路線価で評価されるようになり、全体の評価額を下げることができます。

 

賃貸不動産を相続税対策として活用する際は、これらの点を踏まえた上で、専門家(税理士や不動産コンサルタント)に相談しながら、総合的な対策を立てることをおすすめします。相続税対策は一朝一夕にできるものではなく、長期的な視点での計画が重要です。