
配偶者居住権は2020年4月に施行された民法改正により創設された新しい権利です。この制度は、配偶者の居住の安定を確保しつつ、相続における財産分配を柔軟に行えるようにすることを目的としています。本記事では、配偶者居住権の計算方法について詳しく解説し、実際の相続対策にどのように活用できるかを見ていきます。
配偶者居住権における建物の評価は、以下の計算式で求められます。
① 配偶者が取得した配偶者居住権の評価額
= 建物の固定資産税評価額 × (1 - 存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率)
② 子供が取得した配偶者居住権付建物の所有権の評価額
= 建物の固定資産税評価額 × 存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率
ここで重要なのは「存続年数」です。これは配偶者居住権が存続する期間を指し、一般的には配偶者の平均余命年数が用いられます。平均余命は国税庁が公表している「平均余命表」に基づいて算出されます。
例えば、70歳の女性の平均余命は約19年、90歳の女性の平均余命は約4年となります。この年数の違いが評価額に大きく影響します。
また、「複利現価率」は民法の法定利率(現在は3%)に基づいて計算されます。この率は将来の価値を現在の価値に換算するための係数です。
配偶者居住権に基づく土地(敷地)の評価も同様の考え方で行われます。
③ 配偶者が取得した配偶者居住権に基づく敷地利用権の評価額
= 土地の相続税評価額 × (1 - 存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率)
④ 子供が取得した配偶者居住権付敷地の価額の評価額
= 土地の相続税評価額 × 存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率
具体的な計算例を見てみましょう。例えば、固定資産税評価額が2,000万円の建物と、相続税評価額が8,000万円の土地があるケースを考えます。
【ケース1】配偶者が70歳の場合
【ケース2】配偶者が90歳の場合
このように、配偶者の年齢が高いほど平均余命が短くなり、配偶者居住権の評価額は低くなります。これは相続税の節税効果が高齢の配偶者ほど小さくなることを意味します。
配偶者居住権制度の立法趣旨の一つは、配偶者の居住権を保護しながら相続税の負担を軽減することです。しかし、その効果は配偶者の年齢や不動産の状況によって大きく異なります。
70歳の配偶者の場合、建物の配偶者居住権の評価額は固定資産税評価額に近くなり、立法趣旨から見るとやや高めの評価となります。しかし、敷地利用権の評価が低く抑えられるため、不動産全体の価値に対する配偶者居住権の評価額の割合は約50%となり、立法趣旨に沿った結果となっています。
一方、90歳の配偶者の場合は、平均余命が短いため配偶者居住権の評価額は大幅に下がります。これは高齢の配偶者にとっては相続税評価額の面でのメリットが小さくなることを意味します。
相続税評価額の計算において、配偶者居住権を活用する際には、以下の点に注意が必要です。
これらの要素を総合的に考慮して、配偶者居住権の設定が相続税対策として有効かどうかを判断する必要があります。
配偶者居住権と小規模宅地等の特例を併用することで、さらなる相続税の軽減が可能になる場合があります。小規模宅地等の特例とは、被相続人等の居住用宅地等について、一定の要件を満たす場合に評価額を最大80%減額できる制度です。
配偶者居住権においては、特例の要件を満たせば、配偶者が取得した配偶者居住権に基づく敷地利用権と、子が取得した配偶者居住権付敷地の両方について小規模宅地等の特例が適用可能です。
具体的な適用条件は以下の通りです。
この特例を適用することで、例えば上記の計算例では、さらに大幅な相続税評価額の軽減が可能になります。
ケース | 配偶者居住権のみ | 小規模宅地等の特例併用 |
---|---|---|
70歳配偶者 | 約5,200万円 | 約2,000万円 |
90歳配偶者 | 約2,000万円 | 約1,000万円 |
ただし、小規模宅地等の特例の適用には様々な要件があるため、個別の状況に応じた専門家のアドバイスが必要です。
配偶者居住権の重要な特徴の一つに、二次相続時の取扱いがあります。配偶者居住権を取得した配偶者が死亡した場合(二次相続)、配偶者居住権は消滅します。
この時、子供の建物・敷地の所有権は完全な所有権となりますが、これは配偶者からの財産の取得ではなく、配偶者居住権の消滅による当然の法的効果です。そのため、この権利の移転に対して相続税は課税されません。
これは相続税対策として非常に重要なポイントです。通常の相続では、一次相続で配偶者が取得した財産は、二次相続で再び相続税の対象となりますが、配偶者居住権については二次相続時に課税されないという大きなメリットがあります。
ただし、注意すべき点として、配偶者が生存中に配偶者居住権を譲渡した場合には、その価値に応じて贈与税が課税されます。配偶者居住権は原則として譲渡できない権利ですが、居住建物の所有者の承諾があれば譲渡可能です。この場合、通常の財産譲渡と同様に贈与税の対象となります。
また、配偶者居住権の存続期間を終身ではなく一定期間と定めた場合、その期間満了時の取扱いについても注意が必要です。期間満了による配偶者居住権の消滅も、二次相続と同様に相続税や贈与税の対象とはなりませんが、税務上の取扱いについては個別の状況に応じた検討が必要です。
配偶者居住権の評価額を決定する最も重要な要素の一つが、配偶者の平均余命です。平均余命は配偶者の年齢によって決まり、年齢が高いほど平均余命は短くなります。
平均余命が配偶者居住権の評価額に与える影響は以下の通りです。
このことから、配偶者が比較的若い場合は、配偶者居住権の設定による相続税評価額の軽減効果は限定的となる可能性があります。一方、配偶者が高齢の場合は、配偶者居住権の評価額は低くなりますが、残りの居住期間も短いため、実質的なメリットを考慮する必要があります。
配偶者の年齢別に見た配偶者居住権の評価額の目安は以下の通りです。
これらの数値は一般的な目安であり、実際の評価額は不動産の状況や法定利率の変動などによって異なります。
配偶者居住権の活用を検討する際には、配偶者の年齢を考慮しつつ、以下のような対策も併せて検討することが重要です。
特に、配偶者が比較的若い場合は、配偶者居住権だけでなく、他の相続税対策も併せて検討することが効果的です。
配偶者居住権の計算方法は複雑ですが、適切に活用することで、配偶者の居住の安定を確保しながら相続税の負担を軽減することが可能です。個別の状況に応じて、税理士や弁護士などの専門家に相談しながら、最適な相続対策を検討することをお勧めします。