
課税制度における所得税は、個人の所得に対して課される基幹税目として位置づけられています。不動産業従事者にとって重要なのは、所得税が総合課税方式を採用している点です。
所得税の計算は以下の構造で行われます。
累進税率については、課税所得195万円以下で5%から始まり、4,000万円超では45%まで段階的に上昇します。この税率構造を理解することで、顧客への適切なアドバイスが可能になります。
また、復興特別所得税として所得税額の2.1%が2037年まで追加課税される点も押さえておく必要があります。
不動産所得は、個人の所得10分類の中でも特に複雑な仕組みを持つ所得区分です。基本的な計算式は次のとおりです:
不動産所得 = 総収入金額 - 必要経費
この計算において重要なのは、必要経費として認められる範囲の理解です。
特に減価償却費については、実際の現金支出を伴わない経費として、税務上の所得を圧縮する効果があります。この仕組みを活用することで、キャッシュフローはプラスでも税務上は赤字となるケースがあり、損益通算による節税効果が期待できます。
不動産所得において注意すべきは、土地部分は減価償却の対象外である点です。建物部分のみが減価償却の対象となり、構造により法定耐用年数が異なります。
不動産所得における事業的規模の判定は、税務上極めて重要な論点です。事業的規模に該当すると、青色申告特別控除をはじめとする各種特典が適用されます。
事業的規模の判定基準(5棟10室基準)。
事業的規模に該当した場合の主な特典。
🎯 青色申告特別控除
🎯 青色事業専従者給与
🎯 貸倒引当金
🎯 赤字の繰越控除
事業的規模でない場合でも、青色申告による10万円の特別控除は適用されるため、基本的には青色申告の選択が有利です。
不動産所得の大きな特徴の一つが、他の所得との損益通算が可能である点です。これは不動産業従事者が顧客に提案する際の重要なポイントとなります。
損益通算の仕組み。
不動産所得で赤字が生じた場合、給与所得や事業所得等の黒字所得と相殺することで、全体の課税所得を圧縮できます。
具体例。
この場合、800万円ではなく600万円に対して累進税率が適用されるため、大幅な節税効果が期待できます。
年収1,200万円以上の高所得者層への提案。
所得税率33%の層では、不動産所得の赤字100万円につき約33万円の税額軽減効果があります。住民税10%を合わせると、実質的に43%の節税効果となります。
注意すべき制限事項。
不動産所得がある場合の申告実務については、平成26年の税制改正により帳簿保存義務が厳格化されています。
帳簿保存義務の対象者。
保存すべき帳簿書類。
実務での対応ポイント。
📋 日常的な記帳
📋 証憑書類の管理
📋 税務調査対策
不動産業従事者として顧客をサポートする際は、これらの実務面での注意点も含めてアドバイスすることが重要です。
特に、個人事業税についても触れておく必要があります。不動産貸付業で一定規模以上(住宅10戸以上または住宅以外5戸以上)の場合、個人事業税5%が課税されます。この税金は所得税と異なり、青色申告特別控除の適用がないため、実質的な税負担が増加します。
また、相続税対策としての不動産活用についても言及しておきます。不動産は相続時の評価額が時価より低く算定されるため(土地は路線価、建物は固定資産税評価額)、現金での保有と比較して相続税の軽減効果があります。賃貸中の不動産はさらに評価減(貸家建付地評価等)が適用されるため、より大きな節税効果が期待できます。