建物買取請求権と借地権の関係と期間満了時の権利行使

建物買取請求権と借地権の関係と期間満了時の権利行使

借地契約が終了する際に借地人が持つ建物買取請求権について詳しく解説します。どのような条件で行使できるのか、地主は拒否できるのか、実際の手続きはどうなるのか?

建物買取請求権と借地権

建物買取請求権の基本
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意味と目的

借地契約が更新されずに終了した場合、借地人が地主に対して借地上の建物を時価で買い取るよう請求できる権利

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法的根拠

借地借家法第13条(普通借地権)と第14条(第三者の建物買取請求権)に規定

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保護対象

借地人の投下資本の保護と社会経済的な建物の有効活用を図るための制度

建物買取請求権の意味と借地借家法での位置づけ

建物買取請求権とは、借地契約が更新されずに終了した場合に、借地人が地主(借地権設定者)に対して、借地上の建物を時価で買い取るよう請求できる権利です。この権利は借地借家法第13条に規定されており、借地人の利益を保護するための重要な制度となっています。

 

民法の原則では、借地契約が終了した場合、借地人は建物を収去(取り壊し)して土地を明け渡す義務がありますが、これでは借地人が建物に投下した資本が回収できず、経済的に大きな損失を被ることになります。また、まだ使用可能な建物を取り壊すことは社会経済的にも不経済です。

 

そこで借地借家法は、借地人保護の観点から建物買取請求権を認め、借地人の投下資本の回収と建物の有効活用を図っています。この権利は強行規定であり、特約によって排除することはできません(借地借家法第16条)。

 

借地権の期間満了時に建物買取請求権を行使できる条件

建物買取請求権を行使するためには、以下の条件を満たす必要があります。

 

  1. 借地権の存続期間が満了していること
    • 契約期間の満了が前提条件となります
    • 期間満了前の合意解除の場合は原則として認められません
  2. 契約の更新がないこと
    • 地主から正当な事由による更新拒絶があった場合
    • 定期借地権など更新のない借地権の場合
  3. 借地上に借地人所有の建物が現存していること
    • 建物が既に解体されている場合は請求できません
    • 建物の状態は問われませんが、建物として認められる構造物である必要があります
  4. 借地人から地主に対して買取請求の意思表示をしていること
    • 明確に買取請求権を行使する旨を伝える必要があります
    • 口頭でも有効ですが、トラブル防止のため書面で行うことが望ましいです

これらの条件を満たす場合、借地人は地主に対して建物買取請求権を行使することができます。ただし、借地人の債務不履行により契約が解除された場合など、誠実でない借地人の保護は想定されていないため、そのような場合には建物買取請求権は認められません。

 

建物買取請求権の第三者への譲渡と借地権の承諾問題

借地借家法では、第13条の建物買取請求権に加えて、第14条で「第三者の建物買取請求権」についても規定しています。これは、借地権者から借地上の建物と借地権を譲り受けた第三者が、地主の承諾を得られなかった場合に行使できる権利です。

 

具体的には、以下のような状況で第三者の建物買取請求権が問題となります:

  1. 借地権と建物の譲渡
    • 借地人が第三者に借地権と建物を譲渡した場合
    • 本来、借地権の譲渡には地主の承諾が必要(借地借家法第19条)
  2. 地主の承諾拒否
    • 地主が借地権譲渡を承諾しない場合
    • 第三者は原則として土地を使用できなくなる
  3. 第三者の保護
    • この場合、第三者は地主に対して建物買取請求権を行使できる
    • 建物の投下資本を回収する機会が与えられる

この第14条の建物買取請求権は、第13条とは異なり、定期借地権の場合にも適用され、特約で排除することはできません。これは、建物を譲り受けた第三者の保護を図るための規定です。

 

判例では、土地賃借権の無断譲受人であっても、譲受後に建物に一定の改良工事を施した場合には、建物買取請求権を行使できるとされています。これは、建物の有効活用を促進する観点から、一定の条件下で第三者の権利を認めるものです。

 

建物買取請求権行使の効果と時価算定の基準

建物買取請求権が行使されると、以下のような法的効果が生じます:

  1. 売買契約の成立
    • 建物買取請求権は形成権であり、その行使と同時に売買契約が成立します
    • 地主は原則として拒否することができません
  2. 所有権の移転
    • 建物の所有権は地主に移転します
    • ただし、代金支払いと建物引渡しは同時履行の関係にあります
  3. 時価の算定基準
    • 買取価格は「時価」とされています(借地借家法第13条)
    • 時価の基準時点は買取請求権行使時です
    • 建物を取り壊した場合の動産価格ではなく、現存する建物としての価値で評価します

時価の算定にあたっては、以下の点が考慮されます:

  • 建物の状態と経過年数:建物の構造、築年数、残存耐用年数などが考慮されます
  • 場所的環境:建物が存在する場所的環境は考慮されますが、敷地の借地権価格は加算されません
  • 抵当権等の負担:判例では、抵当権の負担は考慮せずに時価を算定するとされていますが、地主は抵当権消滅請求の手続きが終わるまで代金支払いを拒むことができます
  • 居住者の存在:建物に借地人以外の居住者がいる場合、その居住権が地主に対抗できるかどうかによって価格算定が異なります

実務上は、不動産鑑定士による鑑定評価を基に時価を決定することが多いですが、当事者間で合意できない場合は裁判所の判断に委ねられることになります。

 

建物買取請求権が認められないケースと地主の対応戦略

建物買取請求権が認められないケースには、以下のようなものがあります:

  1. 借地人の債務不履行による契約解除
    • 地代の滞納など借地人の債務不履行により契約が解除された場合
    • 最高裁判例(昭和35年2月9日)では、建物買取請求権は誠実な借地人保護のための規定であるとして、債務不履行の場合には認められないとしています
  2. 合意解除の場合
    • 期間満了前に土地賃貸借契約を合意解除した場合
    • 合意解除には建物買取請求権の放棄の意思表示が含まれると解釈されます
    • ただし、合意解除時に建物の処理について明確な合意がない場合は注意が必要です
  3. 一時使用目的の借地
    • 一時使用目的の借地には建物買取請求権に関する規定は適用されません
  4. 定期借地権
    • 一般定期借地権や事業用定期借地権には第13条の建物買取請求権は適用されません
    • ただし、第14条の第三者の建物買取請求権は適用されます

地主側の対応戦略としては、以下のような点が重要です。

  • 契約書の明確化:借地契約締結時に、建物の取扱いについて明確に定めておく
  • 定期借地権の活用:新規に借地契約を結ぶ場合は、定期借地権を活用する
  • 合意解除時の注意点:合意解除する場合は、建物買取請求権の放棄について明示的に合意する
  • 借地人の債務履行状況の記録:地代滞納などの債務不履行があれば、それを記録しておく

地主としては、借地人から建物買取請求権を行使された場合、原則としてこれを拒むことはできませんが、上記のようなケースでは請求を拒絶できる可能性があります。ただし、最終的な判断は裁判所に委ねられることになります。

 

建物買取請求権の実務的な手続きと紛争解決のポイント

建物買取請求権を行使する際の実務的な手続きと、紛争を未然に防ぐためのポイントについて解説します。

 

建物買取請求権行使の手続き

  1. 事前準備
    • 建物の状態確認と写真撮影
    • 建物の評価額(時価)の算定資料の準備
    • 権利証や登記事項証明書など所有権を証明する書類の準備
  2. 請求の意思表示
    • 書面による通知が望ましい(内容証明郵便等)
    • 建物の特定、買取請求権行使の意思表示、希望する買取価格などを明記
  3. 交渉と価格決定
    • 地主との買取価格の交渉
    • 必要に応じて不動産鑑定士による鑑定評価の実施
    • 合意に至らない場合は調停や訴訟による解決
  4. 売買契約の履行
    • 代金の支払いと建物の引渡し・所有権移転登記
    • 抵当権等がある場合はその抹消手続き

紛争解決のポイント

  1. 早期の意思疎通
    • 契約期間満了の相当前から地主と更新や建物の取扱いについて協議を始める
    • 互いの意向を確認し、円滑な解決を図る
  2. 専門家の関与
    • 不動産鑑定士による適正な時価の算定
    • 弁護士や宅建士などの専門家によるアドバイス
  3. 代替案の検討
    • 建物買取請求権の行使だけでなく、契約更新や立退料での解決なども検討
    • 双方にとって最適な解決策を模索
  4. 書面化の徹底
    • 交渉経過や合意内容は必ず書面に残す
    • 口頭の約束だけでは後日トラブルの原因になる

実務上の注意点として、建物買取請求権を行使した場合、建物の所有権は地主に移転しますが、代金の支払いと建物の引渡しは同時履行の関係にあります。そのため、借地人は代金の支払いを受けるまでは建物を引き渡す必要はなく、建物を留置することができます。また、判例上、建物だけでなく敷地についても留置権を行使できるとされています。

 

建物買取請求権をめぐる紛争は、時価の算定や権利行使の有効性などをめぐって複雑化することが多いため、早い段階から専門家に相談し、適切な対応を取ることが重要です。

 

以上、建物買取請求権の実務的な側面と紛争解決のポイントについて解説しました。借地権に関わる当事者は、これらの点を踏まえて適切に対応することで、円滑な問題解決を図ることができるでしょう。