
ストックオプションは、企業が役員や従業員に対して自社株式を一定の価格で取得できる権利を付与する制度です。権利行使によって得られる経済的利益には税金が課されますが、ストックオプションの種類によって課税のタイミングが大きく異なります。
税制適格ストックオプションの場合、権利行使時には課税されず、株式を売却した時点で初めて課税対象となります。一方、税制非適格ストックオプションでは、権利行使時と売却時の両方で課税が発生するため、税負担を事前に計画することが重要です。
税制適格ストックオプションの権利行使価額は、ストックオプション契約締結時の1株当たり時価以上に設定しなければなりません。これは税制優遇を受けるための重要な要件の一つです。
具体的な設定プロセスは以下の通りです。
2024年の税制改正により、年間の権利行使限度額が1,200万円から引き上げられ、より多くの権利を年間で行使できるようになりました。この改正により、従来よりも早期に権利行使することが可能となっています。
権利行使価額の設定は、将来の株価上昇を見込んだ戦略的な判断が求められます。株価が権利行使価額以上に値上がりしない限り、経済的な利益は生じないためです。
税制適格ストックオプションでは、権利行使から株式売却までの期間により税負担が変わります。権利行使後2年以上経過してから売却すれば、譲渡所得として申告分離課税(20%)が適用されます。
最適なタイミングの判断要素。
権利行使時の手続きは以下のステップで進行します:
注意すべき点として、権利行使後に従業員が退職するケースがあるため、企業側では継続勤務を促すインセンティブ設計も重要となります。
株式売却時の税金計算方法は、ストックオプションの種類により異なります。税制適格ストックオプションの場合、以下の計算式で譲渡所得を算出します:
譲渡所得 = 売却価格 - 権利行使価格
売却益に対して所得税15%、住民税5%、復興特別所得税が課税されます。取得費は実際に負担した権利行使価格で計算するため、権利行使時の時価ではありません。
確定申告に必要な書類:
税制非適格ストックオプションでは、権利行使時に給与所得として課税され、その後の売却時にも譲渡所得として課税される二重課税構造となっています。そのため、総合的な税負担を考慮した権利行使戦略が必要です。
ストックオプションの権利行使には、単純な税務上の検討だけでは見落としがちな法的リスクが存在します。特にインサイダー取引に該当する可能性について、十分な注意が必要です。
役員や従業員が重要事実を知得した状態での権利行使は、金融商品取引法に違反する恐れがあります。決算発表前の一定期間や重要な企業情報の公表前は、権利行使を控えるべき時期として位置づけられます。
法的リスクの回避策。
また、権利行使後の株式保管についても注意が必要です。税制適格ストックオプションでは、証券会社等への管理委託が要件となっており、適切な保管体制を整備しなければ税制優遇を受けられません。
権利の譲渡禁止も重要な制約事項です。税制適格ストックオプションは第三者への譲渡が禁止されており、相続以外での権利移転は認められていません。
ストックオプションには明確な権利行使期間が設定されており、この期間を過ぎると権利は失効します。税制適格ストックオプションの場合、付与決議後2年を経過した日から10年以内(設立5年未満の非上場会社は15年以内)という制限があります。
期限管理の実務ポイント。
近年の法改正により、設立5年未満の非上場会社について権利行使期間が15年に延長されましたが、これは令和5年度の改正事項であり、既存の契約には自動的に適用されません。契約内容の見直しや変更手続きが必要な場合があります。
権利行使期間中であっても、業績条件や在籍条件などの行使条件を満たしていなければ権利行使はできません。特に在籍条件については、退職時の権利の取り扱いを事前に確認しておくことが重要です。
また、年間1,200万円(改正後は引き上げ)という権利行使限度額の制約もあるため、多額の権利を保有している場合は複数年にわたる行使計画を立てる必要があります。