
配偶者居住権は、二次相続において大きな税金メリットをもたらします。一次相続(被相続人が亡くなり配偶者が相続する相続)では、配偶者居住権は相続税の課税対象となります。しかし、二次相続(配偶者が亡くなり子などが相続する相続)では、配偶者の死亡により配偶者居住権自体が消滅するため、相続税の課税対象にはなりません。
これは実質的に、一次相続と二次相続を通じた相続税の総額を減少させる効果があります。配偶者居住権を設定することで、一次相続では建物と土地の評価額が分割され、配偶者と他の相続人(多くの場合は子)で分け合うことになります。配偶者は居住権を、子は所有権を取得するという形になります。
例えば、相続財産が自宅(土地・建物)のみの場合、通常であれば配偶者が自宅を相続すると、二次相続時には自宅の全評価額が相続財産となります。しかし、配偶者居住権を活用すれば、一次相続では配偶者は居住権のみを取得し、二次相続時には居住権が消滅するため、課税対象となる財産が減少します。
配偶者居住権の評価額は、建物と土地それぞれについて計算されます。その計算方法は以下の通りです。
【建物の配偶者居住権評価額】
建物の時価 -(建物の時価 ×(残存耐用年数-存続年数)/残存耐用年数 × 存続年数に応じた法定利率による複利現価率)
【土地の配偶者居住権評価額】
土地の時価 -(土地の時価 × 存続年数に応じた法定利率による複利現価率)
具体的な計算例を見てみましょう:
この場合、配偶者居住権(建物)は約348万円、配偶者居住権(土地)は約1,266万円と評価されます。一方、子が取得する所有権は建物が約152万円、土地が約4,734万円となります。
配偶者の年齢が若い場合(例:70歳、平均余命約17年)は、配偶者居住権の評価額が高くなり、子の所有権評価額は低くなります。
配偶者居住権は全ての相続ケースで有効というわけではありません。特に以下のようなケースで効果を発揮します:
配偶者の固有財産が多く、二次相続で相続税負担が大きくなりそうな場合、配偶者居住権を活用することで二次相続時の課税財産を減らせます。
自宅以外に金融資産などがあり、配偶者の生活資金として金融資産を多く残したい場合、自宅は配偶者居住権と所有権に分けることで、より多くの金融資産を配偶者に残せます。
配偶者が若く、平均余命が長い場合、配偶者居住権の評価額が高くなり、所有権の評価額が低くなるため、二次相続時の節税効果が大きくなります。
配偶者に先夫との子がいるなど、二次相続で争いが予想される場合、一次相続時点で財産の帰属を明確にできます。
配偶者控除の範囲内で配偶者居住権と他の財産を相続させることで、一次相続の税負担を抑えつつ、二次相続の税負担も軽減できます。
配偶者居住権を設定するには、いくつかの要件を満たす必要があります:
相続開始時(被相続人の死亡時)に配偶者がその建物に居住していることが必要です。別居している場合は配偶者居住権を設定できません。
配偶者居住権は登記が対抗要件となります。登記をしないと第三者に対抗できないため、必ず登記手続きを行う必要があります。
登記手続きの流れは以下の通りです。
登記申請は専門的な知識が必要なため、司法書士に依頼することをお勧めします。登記費用は一般的に数万円程度ですが、物件の状況によって変動します。
配偶者居住権には多くのメリットがありますが、いくつかの注意点やデメリットも存在します:
配偶者居住権は本人のみが行使できる権利であり、売却や譲渡はできません。将来的に自宅を売却する可能性がある場合は、配偶者居住権の設定を慎重に検討する必要があります。
大規模なリフォームや改築には所有者(多くの場合は子)の同意が必要です。配偶者の健康状態の変化に伴うバリアフリー改修なども、所有者との協議が必要になります。
配偶者居住権を途中で放棄すると、所有者への贈与とみなされ、贈与税が課税される可能性があります。また、放棄の対価を受け取る場合は所得税が課税されることもあります。
配偶者居住権と小規模宅地等の特例は併用可能ですが、評価額に応じた按分適用となります。二次相続時には、所有権を相続した人が小規模宅地等の特例を適用できるかどうかの検討が必要です。
配偶者居住権を設定した場合、二次相続後に「空き家の譲渡所得の3,000万円控除」が使えなくなる可能性があります。将来的な不動産売却を考慮した計画が必要です。
通常の必要費(固定資産税、修繕費など)は配偶者が負担することになります。配偶者の経済状況によっては負担が大きくなる可能性があります。
配偶者居住権と混同されやすいものに「配偶者短期居住権」があります。これらは目的や効果が異なりますので、明確に区別することが重要です。
配偶者短期居住権:
配偶者居住権:
配偶者短期居住権は遺産分割協議中の一時的な保護措置であるのに対し、配偶者居住権はより長期的な居住権の保障と相続税対策を目的としています。相続の状況に応じて、適切な選択をすることが重要です。
配偶者居住権を活用する際の実務上の対応策として、以下のポイントを押さえておくと良いでしょう:
配偶者の状況や家族の意向に応じて、終身ではなく一定期間(例:5年、10年)の配偶者居住権を設定することも検討できます。期間満了時には贈与税は課されません。
配偶者居住権を確実に設定するためには、遺言書に明確に記載することが重要です。遺言書には以下の内容を含めるべきです。
配偶者居住権の設定は家族関係に影響を与える可能性があります。特に建物の所有権を取得する子との関係性を考慮し、事前に十分な話し合いを行うことが重要です。
配偶者居住権の設定や評価額の計算は複雑です。税理士、弁護士、司法書士などの専門家と連携して、最適な相続プランを立てることをお勧めします。
配偶者居住権を設定した場合、二次相続時には配偶者居住権は消滅します。二次相続の相続人(多くの場合は子)が円滑に相続できるよう、事前に二次相続の対策も検討しておくことが重要です。
配偶者の健康状態や家族の状況、税制改正などに応じて、定期的に相続プランを見直すことが重要です。特に配偶者居住権の存続期間や評価額に影響を与える要素が変化した場合は、プランの再検討が必要です。
実務上は、配偶者居住権だけでなく、遺言信託や家族信託など他の相続対策と組み合わせることで、より効果的な相続プランを構築できることもあります。家族の状況や資産状況に応じた総合的な対策を検討することをお勧めします。
配偶者居住権の詳細な解説と実務上の留意点について参考になる情報
配偶者居住権は比較的新しい制度であり、今後の税制改正や判例の蓄積によって取扱いが変更される可能性があります。将来的な制度変更の可能性について考慮すべき点を見ていきましょう。
相続税制は定期的に見直されています。配偶者居住権の評価方法や二次相続時の取扱いについても、将来的に変更される可能性があります。特に配偶者居住権による節税効果が大きいと判断された場合、課税強化の方向で改正される可能性も否定できません。
配偶者居住権に関する裁判例はまだ少なく、今後の判例の蓄積によって法的解釈が変わる可能性があります。特に配偶者居住権の放棄や変更に関する取扱い、所有者との権利調整などについては、今後の判例動向に注目する必要があります。
国際結婚や海外資産を持つケースでは、配偶者居住権が外国の法制度とどのように調和するかという問題があります。今後、国際的な相続に関するルールが整備されるにつれて、配偶者居住権の国際的な取扱いも明確になっていくでしょう。
日本の高齢化が進む中、高齢者の住まいの確保は社会的な課題となっています。配偶者居住権制度も、今後の高齢化社会の進展に応じて拡充や変更が行われる可能性があります。
不動産登記のデジタル化や相続手続きのオンライン化が進む中、配偶者居住権の設定・登記手続きも簡素化される可能性があります。これにより、より多くの人が配偶者居住権を活用しやすくなるかもしれません。
将来的な制度変更の可能性を考慮すると、現時点で配偶者居住権を設定する場合でも、定期的に専門家に相談し、最新の法制度や税制に基づいた対応を行うことが重要です。また、遺言書の見直しや相続プランの再検討を定期的に行うことで、制度変更にも柔軟に対応できるようにしておく