

不存在確認訴訟は、特定の債務や法律関係が存在しないことの確認を裁判所に求める消極的確認訴訟の一類型です 。訴訟物とは、民事訴訟において裁判所が本案判決の主文で判断すべき事項の最小基本単位を指し、審理・判断すべき権利関係を特定するものです 。債務不存在確認訴訟では、請求する側(債務者)が被請求側(債権者)に対して「支払い義務がないこと」を主張する特徴があります 。
参考)https://aglaw.jp/koutsujiko-saimufusonzai/
訴訟物の概念は、訴えの併合や訴えの変更、重複訴訟禁止、既判力の範囲を確定する重要な機能を果たしています 。特に不存在確認訴訟では、原告が主張する権利関係の不存在について、その範囲を明確に特定することが求められます 。
参考)https://eu-info.jp/CPL/3.html
債務不存在確認訴訟における訴訟物の特定は、民事訴訟法134条2項2号の「請求の趣旨及び原因」の記載要件と密接に関連しています 。請求の特定が要求される趣旨は、裁判所に対して審判対象を明らかにし、被告に対して防御の範囲を明らかにする点にあります 。
参考)https://note.com/shihou_tk4521/n/nec9e03498e42
消極的債務不存在確認訴訟では、攻撃方法としての請求原因である一定の事実主張というものはなく、訴訟物である権利の発生原因事実については、被告にその立証責任があるとされています 。しかし、処分権主義の結果として原告が訴訟物を特定する権限を有し特定の責任も負うことから、原告としては請求原因により債務を特定する必要があります 。
参考)https://www.sn-hoki.co.jp/shop/f/img/items/pdf/sample/50999.pdf
一部債務不存在確認訴訟の場合、判例は債務不存在確認の訴えの訴訟物は、債務上限額から債務自認額を控除した差額の債務額の不存在の確認であるとしています 。例えば、500万円の債務について100万円は認めるが、それを超える部分の債務は存在しないと主張する場合、400万円の部分が訴訟物となります 。
参考)https://meiji-law.jp/wp/wp-content/uploads/2024/02/2023ABCsemi_minso_owada_f.pdf
確認の利益は、権利又は法律関係等の確認を求める確認訴訟における訴えの利益のことで、原告の法律上の地位に不安ないし危険が現に生じており、それを除去する方法として確認判決することが有効適切な場合に認められます 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A2%BA%E8%AA%8D%E3%81%AE%E5%88%A9%E7%9B%8A
消極的確認訴訟では、一般的に積極的確認訴訟の方が既判力により権利者が確定される可能性がある点で消極的確認と比べて紛争解決の実効性が高いとされています 。しかし、債務不存在確認訴訟については、原告を保護するという点で積極的確認が想定できないため、対象選択の適切性が認められる典型例とされています 。
参考)https://keiolaw.org/wp/wp-content/uploads/2022/10/p029_%E5%AE%89%E8%97%A4%E5%A4%A7%E8%B2%B4.pdf
例外的に消極的確認について対象選択の適切性が認められる場合として、債務不存在確認訴訟があり、これは債権者が債務者に請求するのではなく、債務者側が先に動いて法的安定を得たいというニーズに応えるものです 。
参考)https://houmu.nagasesogo.com/media/column/column-250714/
判例は、貸金債権が一定額を超えては存在しない旨の確認訴訟においては、残存額の不存在の限度を明確にしなければならないとしています 。最高裁昭和40年9月17日判決は、債務が一定額を超えては存在しないことの確認を求める訴えは消極的債務不存在確認訴訟に当たり、その訴訟物はその存否が争われている部分、すなわち当該債務全額から当該一定額を控除した額の債務であるとしています 。
参考)https://service.tatsumi.co.jp/wp/wp-content/uploads/2024/10/241003-kiyotake-ronsyokougi-minso.pdf
この考え方により、訴訟物の分断が認められており、自認された部分は訴訟物に含まれません 。存否が争われる権利関係が訴訟物だから、自認された部分は訴訟物でないという理論構成が採用されています 。
上限額を明示しない消極的債務不存在確認請求については、請求の特定に欠け、法134条2項2号に反するのではないかという問題が指摘されています 。しかし、請求内容に不明確な点があっても、裁判所にとって審判対象が明らかであり、被告にとって防御の範囲が告知されていると評価できるのであれば請求の特定の要請に応えていると考えられています 。
債務不存在確認訴訟の実務では、訴訟物の特定と関連して様々な考慮要素があります。まず、確認判決自体には直接的な執行力はありませんが、その判決には既判力が生じるため、同一の債務について紛争が蒸し返されることを防ぐ効果があります 。
訴訟提起から終結に至るまでの実務上の留意点として、訴状の作成段階で対象となる債務、確認の利益がある根拠などを明確に記載する必要があります 。提出先は、原則として被告(債権者)の住所地を管轄する裁判所となります 。
参考)https://bengoshi-compass.com/blog/confirmation-of-non-existence-of-debt-litigation/
債務不存在確認訴訟は、相手の要求が過大であるときや、そもそも全く根拠がないときいずれの場合でも可能であり、言いがかりを撃退する方法として有効な手段です 。特に、交通事故のトラブルで「自分は被害者だ」と思っていたのに「加害者」から債務不存在確認訴訟を起こされたケースなどでは、慎重な対応が必要とされています 。
参考)https://takamatsu-law.com/law/%E5%82%B5%E5%8B%99%E4%B8%8D%E5%AD%98%E5%9C%A8%E7%A2%BA%E8%AA%8D%E8%A8%B4%E8%A8%9F
債務不存在確認訴訟の係属中になされる給付命令のみを求める反訴については、訴訟物の同一性に関する特殊な問題が生じます 。債務不存在確認の訴えと給付の訴えとの間に訴訟物の同一性を肯定する場合でも、給付の訴えが反訴として提起された結果、両者の訴えが同一訴訟手続で審判されるケースがあります 。
参考)https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php/BA88454276-00000006-0131.pdf?file_id=118976
外国給付訴訟に後れる債務不存在確認訴訟と執行判決訴訟の関係についても、特別な考慮が必要とされています 。執行判決訴訟と債務不存在確認訴訟が併存する場合の訴訟物の関係や、その処理方法についても実務上重要な論点となっています 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/dfc11fb5897f647206a129fc53e439ded179da50
また、義務不存在確認訴訟の適法性に関連して、行政処分差止訴訟および義務不存在確認訴訟の適法性についても検討されており、予防訴訟としての性格を持つ事案では特別な考慮が必要です 。これらの特殊な訴訟形態では、通常の債務不存在確認訴訟とは異なる訴訟物の特定方法や確認の利益の判断基準が適用される場合があります 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/cb857eeb466b0d4a6855f62193db92b1f58596ad