
法定後見制度は、判断能力が不十分な方を法的に保護する仕組みで、**「後見」「保佐」「補助」**の3つに分類されます。このうち保佐と補助の区別は、支援対象者の判断能力の程度と付与される権限の範囲によって決まります。
保佐制度の対象となるのは、判断能力が著しく不十分な方です。具体的には、日常的な会話はできるものの物忘れがひどく、財産管理や契約手続を一人でできない状態が該当します。一方、補助制度は判断能力が不十分な方が対象で、日常生活には問題がないものの、不動産売却のような煩雑な手続では支援が必要な状態を指します。
保佐人には、民法13条1項に定められた重要な法律行為について同意権と取消権が法定されています。これらの行為には借金、訴訟行為、相続の承認・放棄、新築・改築などが含まれ、被保佐人がこれらを行う際は保佐人の同意が必要です。
同意なく行われた法律行為は取り消すことができるため、詐欺被害や多額の散財から本人を保護する重要な機能を果たしています。ただし、日用品の購入など日常生活に関する行為は取消対象外となっており、本人の自立性に配慮した仕組みとなっています。
保佐人には原則として代理権は与えられませんが、本人の同意を得て家庭裁判所に申立を行うことで、特定の法律行為について代理権を付与してもらうことが可能です。これは被保佐人の意思を最大限尊重するための制度設計によるものです。
補助制度の大きな特徴は、補助開始だけでは補助人に何の権限も付与されない点です。補助開始の申立と同時に「同意権付与の申立」または「代理権付与の申立」を行う必要があり、家庭裁判所が個別に権限を決定します。
この仕組みにより、被補助人の判断能力や生活状況に応じて、必要最小限の支援範囲を設定できます。例えば、不動産取引のみに同意権を限定したり、特定の金融機関取引にのみ代理権を付与するといった柔軟な対応が可能です。
補助人の同意権と取消権は表裏一体の関係にあり、同意権を付与された行為についてのみ取消権も認められます。これにより、本人の自己決定を尊重しながら、必要な保護を提供するバランスが保たれています。
実務上、保佐と補助の境界線は認知症の進行度や生活への影響度で判断されることが多いです。保佐の場合、浪費傾向があったり、話が噛み合わないことが頻繁にある状態が該当します。
補助の場合は、認知症などの症状があっても軽度だったり波があったりする状態で、基本的なコミュニケーションには問題がないことが前提となります。家庭裁判所は医師の診断書や家族の申述書を総合的に評価し、適切な類型を決定します。
興味深いことに、同一の方でも症状の変化により保佐から後見へ、または補助から保佐へと類型変更される場合があります。このため、定期的な状況確認と適切な制度見直しが重要となっています。
不動産業界では、高齢者の不動産取引において保佐・補助制度の理解が不可欠です。不動産売却や賃貸契約は民法13条1項の重要な法律行為に該当するため、保佐人の同意が必要となります。
特に相続不動産の処分や認知症高齢者の住み替えでは、適切な手続を踏まずに契約を締結すると後に取消されるリスクがあります。不動産業者としては、契約前に成年後見制度の利用状況を確認し、必要に応じて後見人等の同意を得ることが重要です。
また、補助制度を利用している場合は、裁判所が定めた具体的な権限範囲を登記事項証明書で確認する必要があります。不動産取引に関する代理権や同意権が付与されているかを事前にチェックすることで、取引の有効性を担保できます。
成年後見制度に関する詳細な法的根拠については、厚生労働省の成年後見制度利用促進基本計画で包括的に説明されています。
厚生労働省|成年後見制度利用促進について
家庭裁判所での具体的な申立手続については、最高裁判所のウェブサイトで詳しい書式と手順が公開されています。