
一括借り上げとは、不動産会社や管理会社が、オーナーが所有するマンションやアパートなどの賃貸物件を一棟丸ごと、または一部を借り上げる契約方式です。この契約は「マスターリース契約」とも呼ばれ、オーナーから見ると不動産会社が賃借人となる形態となります。
通常の賃貸経営では、オーナーが直接入居者と契約を結びますが、一括借り上げでは以下のような流れになります。
この仕組みにより、オーナーは入居者との直接的な契約関係を持たず、すべての管理業務を不動産会社に委託できます。
一括借り上げとサブリースは密接に関連していますが、厳密には異なる概念です。一括借り上げは「オーナーから不動産会社への貸し出し」を指し、サブリースは「不動産会社から入居者への転貸」を指します。
契約の主体関係:
実際の市場では、一括借り上げからサブリースまでの一連の流れを総称して「一括借り上げ」や「サブリース」と呼ぶのが一般的です。
契約方式の種類:
契約タイプ | 特徴 | 手数料率 |
---|---|---|
賃料保証型 | 空室に関係なく一定賃料を保証 | 15~20% |
パススルー型 | 入居率に応じて賃料が変動 | 5~10% |
賃料保証型では、不動産会社が入居状況に関係なく毎月一定の賃料をオーナーに支払います。一方、パススルー型では入居者が支払う家賃がそのままオーナーの収入となり、空室リスクはオーナーが負担します。
一括借り上げの最大のメリットは、空室リスクの完全回避です。通常の賃貸経営では、空室が発生すると家賃収入が減少し、ローン返済計画に大きな影響を与えます。しかし、一括借り上げでは以下のメリットを享受できます。
収入面のメリット:
管理面のメリット:
精神的負担の軽減:
特に、相続税対策でフルローンを組んでアパート建設を行った場合、毎月の返済額が確定しているため、安定した家賃収入は非常に重要な要素となります。
一括借り上げには多くのメリットがある一方で、見過ごせないデメリットも存在します。最も大きなデメリットは手数料負担による収入減少です。
収入面のデメリット:
契約上のリスク:
実際の収入例:
満室時家賃収入100万円の物件の場合
この収入差は、長期間にわたって累積すると非常に大きな金額となります。特に、築年数が経過して家賃相場が下落した場合、さらなる減額請求を受ける可能性があります。
免責期間の注意点:
多くの一括借り上げ契約では、契約開始から3~6ヶ月間の免責期間が設けられており、この期間中は空室分の家賃が保証されません。新築物件の場合、入居付けに時間がかかることがあり、当初の収支計画が狂う可能性があります。
一括借り上げ契約には、一般的にはあまり知られていない業界特有のリスクが存在します。これらのリスクを理解せずに契約すると、後々大きなトラブルに発展する可能性があります。
業界の裏事情:
契約書の落とし穴:
意外なリスク要因:
対策として重要なポイント:
特に注意すべきは、管理会社が入居者選定を完全に裁量で行うため、オーナーの意向に沿わない入居者が選ばれる可能性があることです。例えば、ペット可物件として運営されたり、想定していない属性の入居者が選ばれたりするケースがあります。
また、建物の修繕・メンテナンス費用については、基本的にオーナー負担となるため、毎月の収入から修繕積立金を確保しておくことが重要です。管理会社によっては、修繕工事を自社系列の業者に発注し、相場より高い費用を請求するケースもあるため、見積もりの妥当性を検証する必要があります。
さらに、近年増加している問題として、管理会社の事業譲渡や合併により、契約条件が不利に変更されるケースがあります。特に、地方の中小管理会社が大手に買収された際に、従来の契約条件が見直されることが多く、オーナーにとって不利な条件に変更される可能性があります。
これらのリスクを回避するためには、契約前の十分な検討と、契約後の継続的な管理会社との関係維持が不可欠です。また、万が一のトラブルに備えて、不動産に詳しい弁護士や税理士などの専門家とのネットワークを構築しておくことも重要な対策の一つです。