
熱中症対策の義務化は、2025年6月1日から施行された労働安全衛生規則の改正により実現しました。この制度は、熱中症の重篤化・死亡災害を防止するために、症状のある作業者を早期に発見し、適切に対処することを目的として作られています。
厚生労働省が義務化した背景には、地球温暖化による夏季の気温上昇と、職場での熱中症による労働災害の増加があります。2020年から2023年の熱中症による死亡・重症化事例を分析した結果、「発見の遅れ」が78件、「異常時の対応の不備」が41件など、初期症状の放置・対応の遅れが深刻な問題として浮き彫りになりました。
改正労働安全衛生規則は、企業の規模や業種を問わず、作業条件を満たすすべての事業者が対象となります。不動産業においても、以下の作業条件に該当する場合は熱中症対策が義務付けられます:
WBGT値(湿球黒球温度)は、気温だけでなく湿度、日射・輻射熱を考慮して算出される熱中症発生リスクの国際的指標です。環境省の「熱中症予防情報サイト」で実況と予測を確認できるほか、専用の測定器で計測することも可能です。
不動産業における対象作業例。
厚生労働省は熱中症対策の基本的な考え方として、「見つける(早期発見)」「判断する(救急要請・医療機関への搬送)」「対処する(作業離脱・急速冷却)」の3ステップを提言しています。
事業者に義務付けられる具体的な対策は以下の3つです。
1. 早期発見のための体制整備
熱中症の自覚症状がある作業者や、熱中症のおそれがある作業者を見つけた者がその旨を報告するための体制を事業場ごとに定める必要があります。具体的には、管理者による定期的な「職場巡視」や、2人1組で互いの体調をチェックする「バディ制度」の導入が有効です。
2. 実施手順の作成
熱中症発症者への対処手順として以下を事業場ごとにあらかじめ定める必要があります:
3. 関係者への周知徹底
構築した報告体制と応急措置手順について、関係作業者に対し確実に周知することが義務付けられています。
今回の義務化は罰則付きであることが重要なポイントです。これらの義務を怠った事業者に対しては、労働安全衛生法違反により、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
法人に対しても同様に50万円以下の罰金が科される可能性があり、労働基準監督署による監査や調査の際に、体制が整っていなかったり実施手順が作成されていないと判断された場合、勧告や行政指導にとどまらず罰則を受ける恐れがあります。
対策を怠ると罰則が科されるだけでなく、コンプライアンスを軽視する企業として社会から認識され、今後の採用活動にも悪影響が出る恐れがあります。不動産業界においても人材確保が重要な課題となっているため、このような影響は絶対に避けなければなりません。
不動産事業者が実施すべき具体的な熱中症対策について、実践的な視点から詳しく解説します。まず、職場環境のリスクアセスメントから始めることが重要です。
環境測定とリスク評価
作業場所のWBGT値の測定、作業時間や休憩時間の実態調査、作業強度の評価を行い、リスクレベルを把握します。不動産業の場合、物件の立地や建物の構造により熱リスクが大きく異なるため、個別の評価が必要です。
物件案内時の対策例。
監視体制の構築
近年では、体温や心拍数などを自動で監視し、異常を検知するウェアラブルデバイスの活用も進んでいます。小規模事業者でも導入しやすい簡易型の体調監視システムや、スマートフォンアプリを活用した体調チェック機能の導入も効果的です。
不動産業向けの監視体制例。
不動産業界特有の課題と対策について、業界の実情に合わせた実践的なアプローチを提案します。
顧客サービスとの両立
不動産業では顧客対応が最優先されがちですが、従業員の安全確保も同等に重要です。顧客に対する熱中症対策の説明と理解協力を求めることで、サービス品質を維持しながら安全を確保できます。
顧客説明用の対策例。
季節変動への対応
不動産業は繁忙期が春と秋に集中しがちですが、夏季の熱中症対策も重要な課題です。特に賃貸物件の退去・入居シーズンが夏季と重なる場合の対策が必要です。
夏季業務の工夫例。
実際に熱中症対策を導入する際の具体的な手順とチェック項目について、段階的に説明します。
Phase1: 現状把握と計画策定
Phase2: 体制整備
Phase3: 手順書作成
実施手順書には以下の項目を含める必要があります:
Phase4: 教育・周知
全従業員に対する教育プログラムの実施が重要です。特に以下の点に重点を置いた教育が効果的です。
IoT技術やAIを活用した最新の熱中症対策について、不動産業界での活用可能性を探ります。
ウェアラブルデバイスの活用
体温、心拍数、発汗量などの生体データをリアルタイムで監視し、熱中症リスクを予測するシステムが普及しています。不動産営業の外回り業務では、このような技術により客観的な体調管理が可能になります。
活用メリット。
環境監視システム
WBGT値や気温、湿度を自動測定し、危険レベルに達した際にアラートを発信するシステムも効果的です。特に複数の物件を管理する不動産会社では、各拠点の環境データを一元管理できるメリットがあります。
AI予測システム
気象データと過去の熱中症発生データを組み合わせ、AIが熱中症発生リスクを予測するシステムも登場しています。これにより、事前の予防策強化や作業スケジュールの調整が可能になります。
厚生労働省の職場における熱中症対策の強化について(詳細な義務内容と実施手順)
富山労働局による熱中症対策強化の解説(具体的な実施例)