人事権と労働組合の関係について

人事権と労働組合の関係について

人事権と労働組合の関係について、企業が持つ人事権の範囲と労働組合との交渉対象事項について詳しく解説します。労働組合の権利と企業の経営権の関係について詳しく知りたい方におすすめです。

人事権と労働組合

人事権と労働組合の関係性
⚖️
経営三権の重要性

企業の人事権は業務命令権、施設管理権とともに経営三権として保護される

🤝
団体交渉の対象範囲

労働組合の権利と企業の人事権が交錯する重要な領域

不当労働行為の回避

人事権行使における労働組合への適切な配慮が必要

人事権の基本的概念と労働組合法上の位置づけ

人事権とは、企業が労働者の採用、配置、異動、人事考課、昇給、減給、昇格、降格、解雇などの人事的な扱いについて決定する権利を指します。これは経営三権の一つとして、労働三権(団結権、団体交渉権、争議権)に対する使用者側の権利として位置づけられています 。
参考)https://roudou-kigyou.com/keieisanken/

 

労働組合法では、「雇入・解雇・昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者」は使用者の利益を代表する者とみなされ、労働組合の組合員から除外されることになっています 。これは労働組合の自主性を確保するための重要な規定です。
参考)https://www.kumiaitaisaku.com/union/kousei01.html

 

人事権の行使には裁量が認められており、どのような能力を重要視するか、どの程度の評価基準とするかについて、企業がある程度自由に決定することができます。ただし、裁量を逸脱するほど不当なものでない限り、労働組合との団体交渉や同意を得る必要はありません 。

団体交渉における人事権の取り扱いと制限

人事権に関する事項は、一般的に義務的団体交渉事項ではないとされています。これは、人事権や経営権を組合との交渉事項としてしまうと、組合の同意なしには人事異動や人事考課を行えなくなる事態となってしまうためです 。
参考)https://kobe-alg.com/roumu/dantai-koushou/

 

しかし、人事権・経営権に関する事項でも、労働者の労働条件や地位向上等に関係する事項である場合には、「義務的団体交渉事項」になる場合があります。例えば、労働者の採用、配置転換(異動)、労働者の休職、解雇などがこれに該当します 。
団体交渉の対象事項として人事権が含まれるかどうかは、その具体的内容と労働者の労働条件への影響を総合的に判断する必要があります。人事の基準に関しては、組合員の配転等の基準が義務的団体交渉事項の例として学説でも挙げられています 。
参考)https://www.gyoukaku.go.jp/koumuin/kentou/working/dai22/siryou2.pdf

 

労働組合への人事権による不当労働行為の防止

企業が人事権を行使する際には、労働組合に対する不当労働行為に該当しないよう十分な注意が必要です。労働組合法第7条第3号では、労働組合の結成や運営に対する支配介入を禁止しています 。
参考)https://union.tunag.jp/column/personal/

 

具体的な支配介入の例として、組合員に対し「労働組合から脱退すれば待遇が良くなる」と暗示する行為や、「組合から抜けなければ昇進は難しい」と伝える行為などがあります。また、労働組合に加入したことを嫌悪して管理監督者に昇格させ、労働組合に加入できなくする行為も支配介入の不当労働行為として違法とされる恐れがあります 。
津田電線事件では、管理職は労働組合に所属できないというルールを用いて組合員を労働組合から脱退させるため管理職に任命した行為が、不当労働行為にあたるという判決が下されています 。このように、人事権の行使が組合弱体化を意図したものである場合、法的問題となる可能性があります。
参考)https://jinjibu.jp/keyword/detl/222/

 

管理監督者と労働組合における人事権の特殊性

管理監督者は、「監督若しくは管理の地位にある者」として、労働基準法上特別な取り扱いを受けますが、労働組合法上の扱いも複雑です。管理監督者も労働者であるため、労働組合法第2条但書に定めた「人事権をもつ監督的地位にある者」などを除き、本来的には労働組合に加入できます 。
参考)https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/shiryo/R3.3-19_kumiai_18.pdf

 

労働組合法上の利益代表者として非組合員とみなされるのは、役員(取締役、監査役、理事など)、人事権をもつ上級管理者、労務・人事部課の管理者などに限られます。これらの判断は、「部長」「課長」などの名称にとらわれず、実質的に使用者の利益を代表するものかどうかで判断されます 。
労働基準法の「管理監督者」と労働組合法の「監督的地位にある労働者」は異なる概念であり、例えば人事・労務部課の上級職員などで、人事・労務に関する機密情報に接する者は労働組合法上の利益代表者となる可能性があります 。この区別を理解することが、適切な労使関係の構築には不可欠です。
参考)https://jsite.mhlw.go.jp/kochi-roudoukyoku/content/contents/000847860.pdf

 

人事権と労働組合の協調的関係構築のための実務対応

企業が人事権を適切に行使しながら労働組合と良好な関係を維持するためには、いくつかの実務的な配慮が重要です。まず、人事評価については会社による広い裁量が認められていますが、納得を得るための説明は行うべきとされています 。
人事権の行使が労働組合の団体交渉の実効性を失わせ、弱体化を図るものとならないよう注意する必要があります。白百合会事件では、団体交渉が継続している事項について、組合を介さずに組合員から直接承諾を得ようとした行為が支配介入に該当するとされました 。
参考)https://www.union-law.jp/qa/hutorodokoi/qa19/

 

就業規則への管理監督者の範囲や権限の明記、人事制度の透明性確保、労働協約における取り決めの整備なども重要な実務対応となります 。企業は施設管理権を有しているため、労働組合への便宜供与を認めるか否かは会社の自由ですが、労働組合の自主性を損なうリスクがない範囲での配慮も検討すべきです 。
参考)https://www.union-law.jp/qa/union/kenri/

 

これらの配慮により、人事権の適切な行使と労働組合との健全な関係を両立させることが可能となり、結果として企業の持続的発展にも寄与することが期待されます。

 

厚生労働省の労働組合に関する詳細な法的解説
労働組合法の条文と詳細な規定内容
労働政策研究・研修機構による管理監督者と利益代表者の区別に関する専門的解説