
宅建業法第48条第3項により、宅地建物取引業者は事務所ごとに従業者名簿を備え付ける義務があります。この従業者名簿には以下の6項目を正確に記載する必要があります。
これらの記載事項のうち、特に見落としがちなのが「宅地建物取引士であるか否かの別」です。専任の宅地建物取引士の場合は〇印、該当しない者は×印を記入する必要があります。この記載を怠ると、業務停止処分や免許取消処分の対象となる可能性があります。
主たる職務内容については、代表取締役、取締役、政令使用人、専任の取引士、営業、総務、経理、営業事務等を具体的に記入します。複数の職務を兼ねている場合は、主に行っている職務を記載してください。
従業者名簿は取引の関係者から請求があった場合、閲覧に供する義務があるため、常に最新の状態で管理することが重要です。
従業者証明書番号は6桁の数字で構成され、AABBCC形式で記載します。この番号の振り方を間違えると、法的な義務を果たしていないことになりかねません。
番号の構成要素:
例えば「200809」の場合、2020年8月に雇用された通算9人目の宅建業従業者を表します。
よくある間違い:
同じ年月に入社した社員のグループごとに1から振るのではなく、年月に関係なく従業者となった順番に通し番号を振る必要があります。退職者がいる場合は、その番号は欠番とし、新たに雇い入れた従業者には新しい番号を振ります。
新規申請時は下2桁の通し番号のみを記入し、免許通知受領後に第1〜4桁を書き加えて事務所に備え付けます。
従業者名簿の保存期間については、多くの業者が誤解している重要なポイントがあります。宅建業法では、最終の記載日から10年間の保存が義務付けられています。
5年間保存すれば十分と考えている業者もいますが、これは法令違反となり処分の対象になります。実際の過去問でも、「5年間保存」は不正解として扱われています。
管理上の注意点:
証明書として提出する場合は、余白に「原本と相違ありません」と記載し、社名の記入と代表印を押印する必要があります。従業者番号の振り方に間違いがないか、代表者から続く通し番号が重複していないかも定期的にチェックしましょう。
宅建士登録申請時の実務経験証明でも従業者名簿が必要になるため、正確な記録管理が重要です。
平成29年4月の法改正により、従業者名簿への従業者の「住所」記載が不要となりました。この改正は、宅建業界に大きな影響をもたらした重要な規制緩和です。
改正前の問題点:
派遣社員を宅建業務に従事させる際、派遣会社が派遣先企業に派遣社員の住所を開示しない場合、従業者名簿への必要記載事項の一部が不備となり、宅建業法上の従業者として扱うことが困難でした。
改正後のメリット:
この法改正により、WEB重説の普及とも相まって、重要事項説明を行う宅建士を外部委託するケースも増加しています。ただし、業務委託する場合でも従業者名簿への記載と従業者証明書の発行は必要です。
注意すべき点:
他社の宅建士として重要事項説明を行うことはできないため、外部委託する宅建士も自社の従業者として扱う必要があります。重要事項説明を行う宅建業者自身に責任があることを忘れてはいけません。
従業者名簿や従業者証明書の不備は、宅建業者にとって深刻な処分リスクを招く可能性があります。軽視されがちな書類管理ですが、法令違反の代償は非常に大きいものです。
処分の種類:
実際のリスクシナリオ:
顧客から従業者証明書の提示や従業者名簿の閲覧要求があった際、適切に対応できない場合、免許権者に通報される可能性があります。一度処分を受けると、信用失墜により事業継続が困難になるケースも少なくありません。
違反になりやすい具体例:
リスク回避のポイント:
業者が宅建業のみを営む場合、代表者、役員(非常勤除く)、すべての従業員が対象となります。受付、秘書、運転手等の業務従事者も含まれるため、網羅的な管理が必要です。ただし、監査役や農業協同組合の監事は対象外です。
兼業している場合は、代表者、宅建業担当役員、宅建業務従事者が対象となり、業務の比重を適切に判断して記載する必要があります。
せっかく高額な費用をかけて宅建業を開業したにもかかわらず、書類管理の不備で人生を棒に振ることがないよう、許認可を得た以上は法令順守に細心の注意を払うことが重要です。