
買い戻し特約は、民法第579条から第585条に規定される不動産売買契約の特約です。売主が売買代金と契約費用を買主に返還することで、一定期間内であれば売却した不動産を取り戻すことができる権利を指します。
この特約は売買契約と同時に登記される必要があり、登記により第三者に対しても権利を主張できます。登記簿には「買い戻し特約」として記載され、買い戻し権者や売買代金などの詳細が明記されます。
基本的な要件:
特徴的なのは、一般の個人間売買では非常に稀で、主に自治体などの公的機関が売主となる場合に活用される点です。民間の不動産取引では、住宅ローンの抵当権設定がより一般的な担保手段として利用されています。
自治体が買い戻し特約を設定する主要な目的は、分譲地の適正利用と転売防止です。公的機関の分譲地は一般的に市場相場よりも安い価格で提供されるため、投機的な転売を防ぐメカニズムが必要となります。
主な利用目的:
例えば豊岡市では、市が販売した土地に買戻特約を設定し、契約違反があった場合に一定期間買い戻せる権利を保持しています。これにより、住宅建設や居住義務などの条件履行を実質的に担保しています。
神戸市の新都市整備事業区域でも同様に、土地売買契約書の規定に基づき買戻特約登記を実施。計画的な開発を進めるために重要な役割を果たしています。
茅ヶ崎市では、茅ヶ崎市を買戻権者とした特約を設定し、地域の健全な発展を図っています。このように、全国の自治体で広く活用されている制度といえるでしょう。
買い戻し特約の登記は、所有権移転登記と同時に行われる必要があります。この同時登記により、第三者に対する対抗力を確保し、法的な権利として確立されます。
登記の要件:
登記簿謄本には「買戻特約」として記載され、買戻権者(通常は売主である自治体)、買戻金額、有効期間などが明記されます。この情報は公開されており、不動産取引時の重要な判断材料となります。
法務局が交付する「土地全部事項証明書」で買戻特約登記の有無を確認できるため、不動産購入前には必ず確認することが重要です。
平成29年の民法改正により、買戻金額について当事者間で合意があれば任意に定められるようになりました。これまでは売買金額と諸費用を超えてはならない強行規定でしたが、現在は任意規定となっています。
買戻特約の期間が満了すると効力は自動的に消滅しますが、登記上の記載は抹消手続きを行わない限り残存します。これが将来的な不動産取引の支障となる可能性があるため、適切な抹消手続きが必要です。
抹消手続きの流れ:
豊岡市では、市が販売した土地の買戻特約抹消を希望する場合、豊岡市への申請が必要です。豊岡市土地開発公社から購入された土地についても、豊岡市が代わりに抹消手続きを行います。
横浜市では、一般競争入札の戸建用途指定で取得した土地について、願書による申請で抹消登記を受け付けています。期間満了前の抹消も条件付きで可能です。
不動産登記法の改正により、買戻特約がされた売買契約の日から10年を経過した場合、登記権利者(買主)単独での抹消手続きも可能となりました。これにより手続きの簡素化が図られています。
買い戻し特約付きの不動産は、通常の不動産取引において特別な注意が必要です。住宅ローンの抵当権設定や第三者への売却時に制約となる可能性があるためです。
取引への主な影響:
金融機関は住宅ローン審査時に買戻特約の存在を重要視します。買い戻しリスクがあると判断されると、融資条件が厳しくなったり、融資自体が困難になる場合があります。
不動産売却時には、買戻特約の存在を買主に対して説明する義務があります。重要事項説明書への記載も必要で、この説明を怠ると後のトラブルの原因となります。
対策として重要な点:
買い戻し特約付き不動産を購入する場合は、期間満了後の速やかな抹消手続きが重要です。また、不動産会社や司法書士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることで、将来的なトラブルを避けることができます。
特に自治体の分譲地を購入する際は、買戻特約の条件を十分に理解し、居住義務や転売制限などの条件を遵守することが求められます。違反した場合の買い戻しリスクを十分に認識した上で購入判断を行うことが重要です。