
解約手付とは、買主が売主に対して手付金を払うことで、解約する権利をお互いに留保させるものです。通常、契約を行うと互いに契約内容に縛られ、一方的な契約の解約は認められなくなりますが、解約手付を取り交わした場合は、手付金を払った買主はもちろん、手付金を受け取った売主も解約することが可能です。
解約手付の効力は、民法557条1項に規定されており、「買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる」とされています。
解約手付による契約解除の条件として、以下の点が重要です。
宅地建物取引業者が売主となる売買に際して手付を授受したときは、解約手付とみなされます(宅地建物取引業法39条2項)。これは消費者保護の観点から設けられた強行規定で、売主が宅建業者である場合には必ず解約手付として扱われます。
違約手付とは、契約の相手方に債務不履行があった場合に、違約金の役割を果たさせる目的で取り交わす手付金です。この違約手付は、損害賠償額の予定と解されます。
違約手付の具体的な効力は以下の通りです。
例えば、売買契約において買主が違約手付1万円を交付したとき、買主に債務不履行(代金支払義務の不履行)が発生すれば、その1万円は没収される。反対に、売主に債務不履行(引渡し義務の不履行)が発生すれば、売主は買主に2万円を償還しなければなりません。
違約手付に関する法的制限として、宅地建物取引業法第38条により、宅地建物取引業者が売主となる宅地建物の売買契約においては、「損害賠償額の予定」と「違約金」との合計額が売買代金の2割を超えてはならないと定められています。
実務上、解約手付と違約手付は同一の手付金において併用されることが多くあります。わが国では、手付とは原則として解約手付とされているが、解約手付であると同時に違約手付であってもよいとされています。
法的な優先順位として、特に合意がなかった場合には、解約手付としての性質を有するものと解されます。また、宅地建物取引業者が売主となる売買に際して手付を授受したときは、解約手付とみなされます。
解約手付の限界と違約手付への移行
解約手付による契約解除ができるのは、「相手方が履行に着手するまで」とされており、判例では、債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち客観的に外部から認識しうるような形で履行行為の一部をなし、または履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指すとしています。
履行に着手した後は、解約手付による解除はできなくなり、債務不履行があった場合には違約手付としての機能が発動します。この段階では、契約違反をした当事者は手付金を違約金として没収される、または倍額を償還する責任を負うことになります。
解約手付による契約解除を一般的に「手付解除」といいます。契約締結後に事情が大きく変わった場合には、手付金を放棄する、または倍返しすることにより契約を解除することが可能です。
手付解除の具体的手続き
ただし、手付解除に当たっては、「相手方が履行に着手しているかどうか」をめぐってトラブルになることも多いようです。
履行着手の判断基準
判例では、買主が履行期到来後、売主にしばしば明渡しを求め、この間明渡しがあればいつでも残代金の支払をなしうる状態にあった場合、履行の着手があるとしています。一方、銀行から借り入れの準備をしただけでは、客観的に外部から認識しうるような形で履行行為の一部をなし、または履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をしたとはいえず、「履行に着手」したとはいえないとして、売主の解除が認められる可能性が高いでしょう。
解約手付には、契約の安定性を損なう側面があります。手付解除が可能な期間は、売り主と買い主双方が解除権をもっているので、契約が実行されるかどうかが不安定な状態となります。
この不安定性を解決するため、実務では以下の対応策が取られています。
宅建業者特別規制の影響
売主が宅建業者で、買主が宅建業者でない場合、手付について「違約手付」「証約手付」と契約したとしても、如何にかかわらず、それらは認められず、必ず「解約手付」とみなされます。これは消費者保護の観点から設けられた強行規定です。
さらに、宅建業者が売主の場合、手付金の上限は売買代金の20%までとされており(宅地建物取引業法第39条第1項)、これを超える手付金の設定は無効となります。
このような規制により、一般消費者は不利な条件から保護される一方で、宅建業者は解約手付の制約を受けることになり、取引の安定性確保に一定の配慮が必要となります。