

国際連合安全保障理事会における拒否権は、常任理事国5カ国(アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国)だけに認められた特別な権限です 。この制度は国際連合憲章第27条に基づいており、実質事項に関する安保理決定には「常任理事国の同意投票を含む9理事国の賛成投票」が必要とされています 。
参考)https://www.unic.or.jp/info/un/un_organization/sc/
拒否権の行使方法は明確です。安全保障理事会では15カ国のうち9カ国以上の賛成があれば議案は採択されますが、常任理事国のうち1カ国でも反対票を投じれば、その決議案は否決されます 。例えば、14カ国が賛成していても、常任理事国が1カ国拒否権を行使すれば決議は成立しません 。
参考)https://www.try-it.jp/chapters-3494/lessons-3508/
国連憲章には「拒否権(power of veto)」と明示的には記載されていませんが、「常任理事国の同意投票を含む」という表現により、実質的に拒否権制度が確立されています 。常任理事国は議案に完全には支持できない場合でも、拒否権による阻止を望まない時は投票を棄権することが可能で、この場合は必要な9票の賛成が得られれば決議は採択されます 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E9%80%A3%E5%90%88%E5%AE%89%E5%85%A8%E4%BF%9D%E9%9A%9C%E7%90%86%E4%BA%8B%E4%BC%9A%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E6%8B%92%E5%90%A6%E6%A8%A9
現在の常任理事国制度は、第二次世界大戦の戦勝国に基づいて1945年に確立されました 。当初の構想では、アメリカとイギリスが主導権を握り、次にソ連、中国、そして最後にフランスが加わって「5大国制」が形成されました 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E9%80%A3%E5%90%88%E5%AE%89%E5%85%A8%E4%BF%9D%E9%9A%9C%E7%90%86%E4%BA%8B%E4%BC%9A%E5%B8%B8%E4%BB%BB%E7%90%86%E4%BA%8B%E5%9B%BD
1944年8月21日から10月9日のダンバートン・オークス会議で、アメリカ、イギリス、ソ連の3大国および中国と並んでフランスを安保理常任理事国とすることが合意されました 。この会議では拒否権に関して米ソ間に意見の違いが明確となり、アメリカ・イギリスは拒否権を重要事項だけに限定しようとしましたが、ソ連はすべての事項で拒否権を認めることを主張しました 。
参考)https://www.y-history.net/appendix/wh1601-010.html
国際連盟時代の常任理事国とは大きく異なり、国連の常任理事国は拒否権という強力な権限を持つことになりました。国際連盟の常任理事国は当初イギリス、フランス、イタリア、日本の4カ国でしたが、各国の脱退により最終的にはイギリスとフランスのみとなり、1946年に解散しています 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B8%B8%E4%BB%BB%E7%90%86%E4%BA%8B%E5%9B%BD_(%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E9%80%A3%E7%9B%9F)
国連憲章第5章第23条には現在も「中華民国」「ソビエト連邦」の文言が残っていますが、実際には1971年に中華民国から中華人民共和国に交代し、1991年にソビエト連邦からロシア連邦が継承しています 。
参考)https://www.y-history.net/appendix/wh1601-008.html
拒否権の行使状況を見ると、常任理事国間で大きな差があることがわかります。2023年には、ロシアが3回、アメリカが3回、中国が1回の拒否権を行使しており、国際情勢の緊迫化を反映しています 。
参考)https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/105107.html
近年の具体的な拒否権行使例として、2025年9月にはアメリカがガザ地区の即時停戦決議案に対して拒否権を行使し、15カ国中14カ国が賛成していたにもかかわらず決議案は否決されました 。このような事例は、拒否権制度の課題を浮き彫りにしています。
参考)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250919/k10014926941000.html
研究によると、常任理事国は非常任理事国の約105倍の影響力を持っていることが数値で示されています 。常任理事国のパワーは約0.19627で、非常任理事国は0.001865に過ぎず、拒否権がいかに強力な権限であるかを物語っています 。
参考)https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=70376?site=nli
ウクライナ情勢では、ロシアが当事国でありながら拒否権を行使することの合法性が問題視されており、常任理事国自身が侵略行為を行った場合の拒否権行使について国際法上の議論が活発化しています 。これは安保理制度の根本的な問題点を示す事例として注目されています。
参考)https://jsil.jp/wp-content/uploads/2024/01/expert2024-1.pdf
拒否権制度の最大の問題は、常任理事国の利害が対立する重要な国際問題において安保理が機能不全に陥ることです 。現在進行中のロシアによるウクライナ攻撃やイスラエルのガザ地区での行為などでは、拒否権の行使により安保理は決定や声明を阻まれています 。
参考)https://www.swissinfo.ch/jpn/%E5%A4%96%E4%BA%A4/%E5%9B%BD%E9%80%A3%E5%AE%89%E4%BF%9D%E7%90%86%E3%81%AE%E6%A9%9F%E8%83%BD%E4%B8%8D%E5%85%A8%E3%81%AF%E5%85%8B%E6%9C%8D%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8B%E3%81%8B-%E8%A6%81%E5%9B%A0%E3%81%A8%E8%AA%B2%E9%A1%8C/81682772
安保理が踏み込めない領域が広がっている現状があり、中国のイスラム教徒弾圧やグアンタナモ米軍基地でのテロ容疑者拘束なども大国の利害が絡む問題として取り扱われています 。既存のマンデートの延長案に対しても、異議を唱えたり拒否権を行使したりする国が増加しており、安保理の有効性が問われています。
🔍 興味深いことに、安保理の機能不全は常態的なものではありません。アジェンダに掲げられた50あまりの審議事項のほとんどは決議に至っており、問題となるのは大国の利害に直接影響するケースのみです 。
拒否権行使の理由の多くが「議案が通ると自国にとって都合が悪い」といった利害関係によるものであることも大きな課題です 。この私利私欲に基づく拒否権行使は、国際平和と安全を維持するという国連の本来の目的と矛盾する場面が少なくありません。
参考)https://hugkum.sho.jp/396894
一方で、拒否権にはメリットもあります。拒否権がない場合、9カ国以上の賛成があればどんな議案でも可決されてしまい、場合によっては国際連合が「世界戦争」を招く事態になる可能性もあるため、慎重な判断を促す仕組みとしての意義があります 。
安保理改革については、常任理事国の拡大を求める声が高まっていますが、実現は困難な状況が続いています。日本は安保理常任理事国入りを目指しており、G4(日本、ドイツ、ブラジル、インド)として連携して改革推進に取り組んでいます 。
参考)https://www.un.emb-japan.go.jp/jp/Nihon_no_Kokuren_Gaiko2.pdf
実現可能な改革案として、即応的改革と中長期的改革の段階的アプローチが提案されています。即応的改革として、ジェノサイドや戦争犯罪のケースでは拒否権を行使しないことの合意形成や、紛争の平和的解決の際の当事国による投票棄権義務の実行などが検討されています 。
参考)https://www.kasumigasekikai.or.jp/%E3%82%A6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%8A%E6%88%A6%E4%BA%89%E3%81%8B%E3%82%89%E8%A6%8B%E3%81%88%E3%81%A6%E3%81%8D%E3%81%9F%E5%AE%9F%E7%8F%BE%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%AA%E5%AE%89%E4%BF%9D%E7%90%86/
📊 中長期的改革では、迷宮入りしそうな常任理事国拡大ではなく、準常任理事国(長期非常任理事国)議席の創設が現実的な選択肢として議論されています。任期は4年から8年で連続再選可能とし、拡大数は6~8カ国またはそれ以上とする案が検討されています 。
安保理改革は1965年に非常任理事国数が6カ国から10カ国に増えて以来、大きな変化がない状態です 。日本が常任理事国になることで、国連分担金第2位という財政貢献に見合った地位と発言力を安全保障分野でも有することができると期待されています 。
参考)https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/un_kaikaku/kaikaku2.html
しかし、現在の5つの常任理事国が自らの特権的地位を手放すことに消極的であることから、抜本的な改革には長期間を要すると予想されます。そのため、段階的かつ現実的なアプローチによる改革が重要視されています。