

再議権と拒否権は地方自治法において、地方公共団体の長が議会の議決に対して行使できる権限として規定されています。これらの制度は、議決機関である議会と執行機関である長との間の健全な均衡関係を保つために設けられた二元代表制の重要な仕組みです 。
参考)https://akiyoshijun.com/jichiseido-choutogikaijuumin-yougokaisetsu14/
地方自治法第176条に基づく再議制度は、長の拒否権として機能しており、議会の判断に対する長の異議申し立ての手段として位置付けられています 。この制度により、長は議会の議決に対してチェック機能を果たし、地方公共団体における民主的な意思決定プロセスを確保しています 。
参考)https://www.soumu.go.jp/main_content/000084396.pdf
再議権は大きく分けて「一般的拒否権」と「特別拒否権」の2つの種類があり、それぞれ行使の要件や効果が異なります 。これらの違いを理解することは、地方自治体の運営において重要な意味を持っています。
参考)https://gyosyo.info/%E5%9C%B0%E6%96%B9%E5%85%AC%E5%85%B1%E5%9B%A3%E4%BD%93%E3%81%AE%E9%95%B7%E3%81%AE%E5%86%8D%E8%AD%B0%E8%AB%8B%E6%B1%82%E6%A8%A9/
一般的拒否権は、長が議会の議決に異議がある場合に行使できる任意の権限です 。この制度は地方自治法第176条第1項から第3項に規定されており、長の判断により再議に付すかどうかを決定できます 。
行使の要件として、条例の制定・改廃や予算に関する議決については、送付を受けた日から10日以内に理由を示して再議に付すことができます 。それ以外の議決については、議決の日から10日以内に行使する必要があります 。
再議後の議決要件については、条例や予算に関する議決では出席議員の3分の2以上の同意が必要となり、その他の議決では過半数の同意で確定します 。この特別多数議決の仕組みにより、議会側により重い負担を課すことで、長の拒否権の実効性を担保しています 。
参考)https://kobashi.ne.jp/a/2044
一般的拒否権の典型例として、長が提出した予算原案を議会が修正して可決した場合に、長がその修正内容に異議を唱えて再議を求めるケースが挙げられます 。ただし、否決された案件については再議の対象とはならないとされています 。
特別拒否権は、議会の議決や選挙がその権限を超えるか、法令や会議規則に違反すると認められる場合に長が義務的に行使しなければならない権限です 。地方自治法第176条第4項以下に規定されており、一般的拒否権とは異なり期限の定めがありません 。
参考)https://www.city.akashi.lg.jp/documents/32880/dayor256-p10.pdf
違法な議決の典型例として、本来除斥されるべき議員が除斥されないまま審議や議決が行われた場合や、議会が法律で定められていない事項について長の同意を必要とする定めを設ける場合があります 。これらは議会の権限を超えた行為として特別拒否権の対象となります。
再議後も議会が同じ議決を続けた場合、長は21日以内に総務大臣(都道府県の場合)または都道府県知事(市町村の場合)に対して審査の申立てを行うことができます 。この審査により裁定が下され、それでも不服な場合は60日以内に裁判所に出訴することが可能です 。
参考)https://gyoseishoshi.xyz/2018/10/02/gyoseiho-17/
特別拒否権の制度は、地方公共団体における適法性の確保を目的としており、法令遵守の観点から長に課せられた重要な義務となっています 。
予算に関する特別拒否権は、地方自治法第177条に規定されており、議会が義務的経費や災害復旧費等の経費を削除・減額した場合に長が行使しなければならない権限です 。これは一般的拒否権とは別の特別拒否権として位置付けられています。
参考)https://www.kouratown.jp/material/files/group/17/20221226.pdf
義務的経費とは、法令により負担することが義務付けられている経費を指し、職員の人件費や借金返済のための公債費などが含まれます 。これらの経費を議会が削除・減額することは、地方公共団体の適切な運営を阻害する可能性があるため、長の拒否権により保護されています。
参考)https://tanaka-t.jp/2022/03/25/%E3%80%90%E7%A6%8F%E5%B2%A1%E5%B8%82%E4%BA%88%E7%AE%97%E3%80%80%E5%90%A6%E6%B1%BA%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%82%89%E3%80%91/
災害復旧費や感染症予防費についても同様に、住民の生命・財産を守るために必要不可欠な経費として特別な保護が与えられています 。議会がこれらの経費を削除・減額した場合、長は理由を示して再議に付す義務があります。
再議後も議会が削除・減額を続けた場合の措置として、義務的経費については長がその経費と対応する収入を予算に計上して支出することができます 。災害復旧費等については、長がその議決を不信任の議決とみなすことができる規定もあります 。
参考)http://john963045.xsrv.jp/2007/10/post_33.html
再議権制度は、地方自治体における二元代表制の下で、執行機関と議決機関の権力分立を実現する重要な仕組みです 。議会と長がそれぞれ住民から直接選挙で選ばれ、相互に独立した立場で権限を行使することにより、適切な権力の抑制と均衡が図られています 。
参考)https://www.city.utsunomiya.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/926/shiryou01-2-3.pdf
執行機関である長の立法権について、日本の地方自治体の長は強力な立法権(法案作成権・提出権)を有していることが特徴的です 。これは大統領制における大統領が立法権を持たないこととは対照的であり、日本独特の制度設計となっています 。
参考)https://www.soumu.go.jp/main_content/000064074.pdf
議会の監視権限については、執行権の行使に事前に関与するのではなく、執行した結果について徹底的に関与することが本来の役割とされています 。問題があると議会が判断した場合、条例により執行権限の行使に対して一定のルールを設けることや、規則等で定めていた事項を条例化していく権限の拡大が認められています 。
権力分立の観点から、議会が執行権限により責任を持つ場合よりも、権限を明確に分離し役割を明確化した方が、行政執行がスムーズに進み対立を避けることができるという議論もあります 。
再議制度の実際の利用状況については、それほど頻繁に使われていないのが現状です 。これは議会側の戦術として、一般的拒否権による再議では3分の2以上の特別多数が必要となることから、修正議決の効力を保つことが困難になるという事情があります 。
近年の動向として、議会による独自立法(議員提案の条例)が増加しており、その内容によっては一般的拒否権や違法等を理由とする特別拒否権の検討が必要になるケースも出てきています 。このような状況変化に対応するため、執行部側も再議制度の理解と適切な運用が求められています。
地方議会改革の文脈では、議会が二元代表制の中で長と緊張関係を保ちながら機能強化を図る方向性が重視されています 。再議権制度は、このような議会と長の健全な緊張関係を維持するための重要な制度的保障として機能しています。
総務大臣や都道府県知事による審査制度の活用事例として、沖縄県が議会の予算修正議決について「知事の権限を侵す」として総務大臣に申し立てを行った事例があります 。このような制度の実際の運用により、地方自治体における適切な権力分立が確保されています。
参考)https://www3.nhk.or.jp/lnews/okinawa/20250414/5090031210.html