
リロケーションサービスとは、転勤や海外赴任などで長期間自宅を留守にする際に、その期間中の留守宅を賃貸に出して管理するサービスです。英語の「relocation」(移転・配置転換)から名付けられたこのサービスは、1984年に日本で初めて事業化され、現在までに延べ10万戸の管理実績を積み上げています。
転勤者にとって最大のメリットは、空き家状態で発生する固定資産税や管理費などの維持費を家賃収入でカバーできることです。さらに、人が住むことで建物の劣化を防ぎ、防犯効果も期待できます。
リロケーションの最大の特徴は「定期借家契約」を使用することです。これは2000年3月の法改正により導入された制度で、契約期間満了時に確実に物件が返還される仕組みです。
従来の普通借家契約では、貸主が契約更新を拒絶するには正当事由が必要で、転勤帰任時の確実な明け渡しが困難でした。しかし定期借家契約では、期間満了とともに契約が自動的に終了するため、転勤者は安心して物件を貸し出すことができます。
定期借家契約の特徴
現在、リロケーションは賃貸管理物件全体の約2〜3%を占めており、着実に市場規模が拡大しています。この成長の背景には、企業の転勤制度の多様化や海外赴任の増加があります。
多くのリロケーションサービスでは「転貸借」という運用方法を採用しています。これは、物件オーナーが不動産会社に物件を貸し出し、不動産会社がさらに入居者に転貸する仕組みです。
転貸借システムの流れ
このシステムにより、遠方にいる転勤者でも安心して物件管理を任せることができます。
リロケーションサービスの費用構造は、一般的な賃貸管理とは異なる特徴があります。主な費用項目は以下の通りです。
初期費用
月額管理費用
収益性の観点では、リロケーションは通常の賃貸経営と比較して以下の特徴があります。
項目 | リロケーション | 通常賃貸 |
---|---|---|
空室リスク | 低い(期間限定) | 高い |
家賃設定 | 市場価格の90-95% | 市場価格 |
管理手数料 | 5-10% | 3-8% |
契約更新料 | なし | あり |
リロケーション業界は、不動産業界全体のデジタル化の波に乗り遅れている側面があります。2021年9月のデジタル改革関連法施行により電子契約が可能になったものの、依然として電話・FAX・紙による運用が多く残っているのが実情です。
業界特有の課題
しかし、先進的な企業では以下のようなDX化が進んでいます。
リロケーション・ジャパンなどの大手企業では、社会全体のデジタル化推進を経営戦略上不可欠なものと位置づけ、積極的にDX投資を行っています。
DX化による効果
不動産業従事者にとって、リロケーション分野でのDX化対応は今後の競争優位性を左右する重要な要素となっています。特に、転勤者という特殊な顧客層に対するサービス品質向上のためには、デジタル技術の活用が不可欠です。
また、リロケーション市場の拡大に伴い、従来の大手企業だけでなく、地域密着型の中小不動産会社にも参入機会が広がっています。ただし、成功するためには専門知識と適切なシステム構築が必要であり、業界全体のサービス水準向上が求められています。
転勤制度の多様化や働き方改革の進展により、リロケーション需要は今後も継続的な成長が見込まれます。不動産業界においては、この成長市場への対応力が企業の将来性を決定する重要な要素となるでしょう。