
老人福祉法は1963年(昭和38年)の高度経済成長期に制定されました 。この時代、地方から都市部への人口流出により核家族化が進行し、従来の家族による高齢者介護が困難になりました 。
参考)https://st-navi.jp/kyujinaruaru/content/kaigo/blog-knowledge-kaigo/act-on-social-welfare-for-the-elderly.html
同法の目的は、「老人の福祉に関する原理を明らかにするとともに、老人に対し、その心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な措置を講じ、もって老人の福祉を図ること」と定められています 。重要な点は、老人福祉法は高齢者の「生活の安定」と「健康の維持」を理念としており、必ずしも介護を主目的とした法律ではないことです 。
参考)https://laws.e-gov.go.jp/law/338AC0000000133
制定当初は養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホームなどの施設整備に重点が置かれ、後に在宅福祉施策の充実が図られました 。
参考)https://www.wam.go.jp/content/wamnet/sppub/kourei/handbook/system/system_kourei.html
介護保険法は2000年(平成12年)4月に施行され、1997年に制定されました 。制定背景には「介護を必要とする高齢者の急速な増加」「核家族化の進行」「介護による離職の増加」といった社会問題がありました 。
参考)https://e-nursingcare.com/guide/insurance/long-term-care-insurance-from-when/
同法第一条では、「加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行う」ことが目的とされています 。
参考)https://www.asahi-kasei.co.jp/hebel-senior/column/81/index.html/
介護保険法は従来の「家族責任による介護」から「社会全体で高齢者を支える」システムへの転換を図った画期的な法律です 。
参考)https://www.kaonavi.jp/dictionary/kaigohokenho/
両法の対象者には明確な違いがあります。老人福祉法は65歳以上の高齢者を対象とし、身体上や精神上の障害などの理由で日常生活が困難な方が主な対象となります 。一方で、「老人」に関する明確な定義がないため、社会通念による解釈に委ねられている部分もあります 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/iryouhoken15/dl/zimu11-1-1.pdf
介護保険法の対象者は以下の通りです :
介護保険法は必ずしも高齢者限定の法律ではなく、介護が必要な方であれば年齢に関係なくサービスを利用できる点が特徴的です 。第2号被保険者の場合、がんや関節リウマチなど16の特定疾病に該当する場合のみ給付を受けられます 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/2gou_leaflet.pdf
両法における最も大きな違いは、サービス利用方式にあります。老人福祉法は「措置制度」を採用しており、市町村が利用者に対してサービスを配分する仕組みです 。措置とは、住民を守る市町村の判断により、決定したサービスを利用者の意思に関わらず提供することを指します 。
参考)https://www.wam.go.jp/wamappl/seidokaisetsu.nsf/vdoc/kourei_02?Open
具体的には、高齢者虐待や認知症により判断能力が低下している場合など、「やむを得ない事由による措置」として市町村が職権でサービスを提供します 。この場合、高齢者本人が同意していれば、家族が反対していても措置を行うことが可能です 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/kaigi/030908/6-3c.html
対照的に、介護保険法は「契約制度」を基本とし、利用者の権利性と自己選択を重視しています 。利用者が介護サービス事業者と対等な関係で契約を結び、サービスを選択する仕組みです 。これにより、従来の「行政によるサービス配分」から「利用者による選択」へと大きく転換しました 。
参考)https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=64956?site=nli
現在では、介護保険法が高齢者介護サービスの中心的な法的枠組みとなり、老人福祉法は介護保険では対応できない部分を補完する役割を担っています 。特に、経済的困窮者や身寄りのない高齢者への公費による支援は、老人福祉法の重要な機能として残されています 。
参考)https://cuc-hospice.com/rehope/magazine/5205/
両法の連携の例として、介護保険制度では対応困難な高齢者虐待のケースにおいて、老人福祉法の措置制度が活用されています 。また、認知症等により判断能力が低下し、介護保険の手続きが困難な場合にも、老人福祉法による措置が重要な役割を果たしています 。
参考)https://www.fukushizaidan.jp/wp-content/docs/105kenriyougo/oyakudachi/11.pdf
介護保険法は3年ごとに改正が実施されており、2024年の改正では「地域包括ケアシステムの深化・推進」と「介護現場の生産性向上」が主なポイントとなっています 。一方、老人福祉法も時代の変化に対応した改正が継続的に行われ、両法が補完し合いながら高齢者福祉の充実を図っている状況です 。