生活保護受給者は相続放棄ができない理由と例外的な対応方法

生活保護受給者は相続放棄ができない理由と例外的な対応方法

生活保護を受けている方が相続放棄をしようとすると、原則として認められないのはなぜでしょうか。法的根拠と例外ケース、そして具体的な対処法について詳しく解説しています。あなたの状況では相続放棄は可能でしょうか?

生活保護受給者相続放棄できない法的根拠と対処法

生活保護受給者の相続放棄について
⚖️
原則として相続放棄は認められない

生活保護法第4条により、利用できる資産を生活維持に活用することが要件となっているため

💰
債務超過の場合は例外的に可能

マイナス財産がプラス財産を上回る場合には相続放棄が認められる

📞
ケースワーカーとの事前相談が必須

相続放棄を検討する際は必ず担当者との協議が必要

生活保護受給者が相続放棄できない法的背景とは

生活保護受給者が相続放棄を制限される最大の理由は、**生活保護法第4条(保護の補足性)**にあります。この規定では「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」と明記されています。
生活保護の受給要件として以下の3つを満たす必要があります。
📋 受給要件チェックリスト

  • 生活に困窮していること
  • 利用しうる資産、能力、その他あらゆるものを生活の維持のために活用すること
  • 扶養義務者から扶養を受けられないか、受けてもなお生活に困窮していること

相続できる財産があるにも関わらず相続放棄をすることは、「利用しうる資産」があるのにそれを最低限度の生活を維持するために活用していないことになります。そのため、生活保護の受給資格を満たさないこととなり、原則として生活保護が打ち切られてしまいます
ただし、最高裁昭和49年9月20日判決では「相続の放棄のような身分行為については、他人の意思によってこれを強制すべきではない」と判示されており、相続人に対して相続の承認を強制することはできないとされています。

生活保護受給者でも相続放棄が認められる債務超過のケース

例外的に生活保護受給者でも相続放棄が認められるのは、マイナス財産がプラス財産を上回る債務超過の場合です。
🏠 債務超過の具体例

  • 借金・ローンの合計額が現金・預貯金を上回る場合
  • 不動産価値よりも住宅ローン残債が多い場合
  • 事業借入金が資産を大幅に超過している場合

債務超過状態で単純承認をした場合、相続人は取得した財産をすべて売却したとしてもなお、借金やローンを支払い続けなければなりません。生活保護受給者がこのような支払い義務を引き継いでしまうと、さらに生活に困窮してしまうため、債務超過の場合には相続放棄が認められています。
相続財産の調査を行う際は、以下の点に注意が必要です。
💡 財産調査のポイント

  • 金融機関への残高証明書の請求
  • 不動産登記簿謄本による担保権の確認
  • 信用情報機関への照会による借入状況の把握
  • 事業関連の債務・保証債務の詳細調査

不動産や株式など財産の価値を評価することが必要な場合には、専門家に相談することが重要です。

生活保護受給者の処分困難な不動産相続と対処法

債務超過以外にも、処分が困難な不動産がある場合も相続放棄が可能とされています。
🏔️ 処分困難な不動産の例

  • 山林や田畑などの農地
  • 市街化調整区域内の土地
  • 接道義務を満たさない土地
  • 著しく老朽化した建物

これらの不動産は換価処分が困難で、かえって以下のような維持費がかかる可能性があります。
📊 維持費用の内訳

費用項目 年間想定額 備考
固定資産税 5万円~50万円 土地・建物の評価額による
管理費用 10万円~30万円 草刈り、清掃、修繕等
保険料 5万円~15万円 火災保険等

このような処分困難な不動産の場合、それを活用したり換価したりすることも難しく、生活保護受給者にとって経済的負担となるため、相続放棄が認められる場合があります。

生活保護受給者の不正受給とみなされる危険な行為

生活保護受給者が相続に関連して不正受給とみなされる可能性のある行為があります。これらの行為は生活保護の打ち切りや返還請求の対象となる可能性があります。
⚠️ 不正受給とみなされる行為

  • 相続財産の存在を隠蔽すること
  • 相続放棄後に実際は財産を受け取ること
  • 親族間での財産移転により相続を回避すること

特に注意すべき点として、相続開始前に被相続人から財産の贈与を受けていた場合、それを申告せずに生活保護を受給し続けることは不正受給にあたります。また、相続放棄をしたと偽って実際には財産を受け取った場合も同様です。

 

🔍 行政による調査項目

  • 金融機関の取引履歴
  • 不動産登記簿の変更履歴
  • 親族間の資金移動
  • 生活状況の変化

生活保護受給者に相続が発生した場合は、必ず担当のケースワーカーに報告し、透明性を保って手続きを進めることが重要です。

生活保護受給者向け相続手続きの実務的な対応策

生活保護受給者が相続に直面した場合の実務的な対応手順を整理します。
📝 相続発生時の対応手順

  1. 即座にケースワーカーへ報告
    • 被相続人の死亡事実
    • 相続財産の概要(分かる範囲で)
    • 今後の対応方針の相談
  2. 相続財産の詳細調査
    • 3ヶ月以内に完了する必要
    • 専門家(司法書士・弁護士)への相談検討
    • 債務超過かどうかの判定
  3. 相続放棄の検討と手続き
    • 家庭裁判所への申述(相続開始を知った日から3ヶ月以内)
    • 必要書類の準備(戸籍謄本、住民票等)
    • 申述書の作成と提出

💰 相続財産評価の考慮事項

  • 不動産の時価評価(不動産鑑定士による評価)
  • 預貯金・有価証券の時価
  • 借金・ローンの残債務額
  • 将来発生する可能性のある債務

相続放棄は一度行うと取り消しができないため、慎重な判断が必要です。また、相続放棄をした場合、その効果は相続開始の時に遡って効力を生じるため、相続財産を一切取得できなくなります。
法律的な判断が必要な場面では、法テラスなどの制度を活用して専門家のアドバイスを受けることを強く推奨します。生活保護受給者であっても、適切な法的支援を受ける権利があり、無料法律相談制度なども利用可能です。