
借地権付建物とは、土地の所有権は地主にあり、建物の所有権と土地の使用権(借地権)のみを取得する不動産形態です。この権利構造により、通常の不動産取引とは異なる特殊な性質を持ちます。
借地権には主に2つの種類があります。
実務上、住宅用借地権の約95%は賃借権として設定されており、地上権の設定は稀です。これは地主側のリスク回避と管理の容易さが理由となっています。
借地権付建物の最大の特徴は、土地と建物の名義人が異なる点です。通常の不動産では土地・建物ともに同一名義ですが、借地権付建物では土地は地主名義、建物は借地権者名義となります。
借地権付建物の価格は、土地の所有権が含まれないため、所有権付き物件と比較して大幅に安価になります。一般的に同エリアの所有権付き物件の30-50%程度の価格で取引されることが多いです。
価格算定の基本要素。
借地権割合は国税庁により30-90%の範囲で地域別に設定されており、都心部ほど高い傾向があります。東京駅周辺や銀座では90%、郊外住宅地では30-50%程度が一般的です。
意外な価格要因として、地主の属性も影響します。個人地主の場合は相続等による権利関係の変化リスクがあり、法人地主より若干安価になる傾向があります。また、借地契約の更新時期が近い物件は、更新料負担の不確実性から価格が下がることもあります。
借地権の対抗力は、借地借家法第10条により「借地上の建物について借地権者が登記を備えたときは、借地権について登記がなくても、これをもって第三者に対抗することができる」と規定されています。
対抗力確保の実務ポイント。
実務上、建物登記がない借地権は第三者対抗力を欠くため、地主の土地売却時に新所有者から明渡しを求められるリスクがあります。このため、借地権付建物の取引では建物登記の確認が最重要事項となります。
興味深い実務事例として、建物の一部が未登記の場合、その部分については対抗力を主張できないケースがあります。増築部分の登記漏れは特に注意が必要で、売買時の重要事項説明でも必ず確認すべき項目です。
借地権付建物の売却には、原則として地主の承諾が必要です。承諾なしの譲渡は契約解除事由となるため、売却手続きでは地主との調整が最重要課題となります。
地主承諾取得の実務手順。
承諾料の相場は地域により異なりますが、都心部では土地価格の5-10%、郊外では3-5%程度が一般的です。ただし、地主との関係性や借地権の残存期間により大きく変動します。
実務上の注意点として、地主が承諾を拒否する場合があります。この場合、借地借家法第19条により裁判所に承諾に代わる許可を求めることができますが、時間とコストがかかるため、事前の地主との関係構築が重要です。
借地権付建物には特有のリスクが存在するため、不動産業従事者として適切なリスク管理が必要です。主要なリスク要因と対策を整理します。
契約期間リスク。
地主変更リスク。
地代改定リスク。
意外なリスクとして、地主の財政状況悪化による土地の差押えがあります。この場合、借地権者は対抗力があっても、競売手続きに巻き込まれる可能性があります。事前の地主信用調査により、このようなリスクを回避することが重要です。
また、借地権付建物特有の税務リスクとして、建物の相続税評価において借地権割合の適用誤りがあります。税理士との連携により、適切な評価額算定を行うことが必要です。
将来的な出口戦略として、地主との底地・借地権の等価交換による完全所有権化も検討すべき選択肢です。この場合、不動産鑑定士による適正な価格算定が重要となります。