
相続税対策として土地購入が注目される最大の理由は、相続税評価額と実際の時価との間に生じる乖離にあります。この乖離は財産評価基本通達に基づく評価手法によって生まれ、現金で保有するよりも大幅な節税効果をもたらします。
具体的な圧縮効果を数値で見ると、時価1億2000万円の土地が相続税評価額では4100万円として計算されるケースもあり、約66%の圧縮率を実現できます。この差額7900万円分が相続税の課税対象から除外されるため、税率が高い相続税においては極めて大きな節税効果となります。
土地の評価方法には以下の特徴があります。
特に都心部の収益性の高い土地では、時価と評価額の乖離が大きくなる傾向があり、相続税対策としての効果が高まります。
土地を活用した相続税対策では、複数の特例制度を組み合わせることで評価減効果を最大化できます。最も効果的な制度として「小規模宅地等の特例」があり、適用条件を満たせば最大80%の評価減が可能です。
小規模宅地等の特例の適用区分
用途区分 | 減額割合 | 適用面積上限 |
---|---|---|
居住用宅地 | 80% | 330㎡ |
事業用宅地 | 80% | 400㎡ |
貸付事業用宅地 | 50% | 200㎡ |
この特例と併用できる「貸家建付地」の評価減も重要な要素です。賃貸物件を建設した土地は以下の計算式で評価されます。
貸家建付地評価額 = 自用地評価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
借家権割合は全国一律30%で、借地権割合は地域により30%~90%と幅があります。都心部では借地権割合が高く設定されているため、より大きな評価減効果が期待できます。
さらに、500㎡以上の土地(三大都市圏以外は1,000㎡以上)では「地積規模の大きな宅地の評価」が適用され、追加の評価減が可能になります。
効果的な相続税対策を実現するためには、適切な物件選定と立地戦略が不可欠です。時価と評価額の乖離を最大化するためには、以下の条件を満たす土地を選択することが重要です。
優良立地の選定基準
特に注目すべきは、借地権割合の高い地域での物件取得です。東京都心部では借地権割合が80%~90%に設定されており、賃貸物件を建設した場合の評価減効果が大きくなります。
土地形状による評価への影響
土地の形状や接道条件も評価額に大きく影響します。
これらの補正要素を戦略的に活用することで、相続税評価額をさらに圧縮できる可能性があります。
相続税対策として土地購入を行う際には、税務署による否認リスクへの対策が重要です。近年、明らかに相続税対策目的と判断される不動産取引については、時価での評価を求められるケースが増加しています。
税務調査で問題となりやすいケース
これらのリスクを回避するためには、以下の対策が有効です。
1. 事業性の確保
単純な節税目的ではなく、賃貸事業としての合理性を明確にする必要があります。収支計画書の作成や管理会社との契約など、事業実態を示す書類の整備が重要です。
2. 適正な取引価格
不動産鑑定士による鑑定評価書を取得し、取引価格の妥当性を客観的に証明できる体制を整えます。
3. 長期保有の意思表示
相続発生後も継続して賃貸事業を行う意思を明確にし、短期売却による利益確定を避けます。
国税庁の「財産評価基本通達6項」では、著しく不適当と認められる場合には時価による評価を行うとされており、この規定の適用を避けるための慎重な取り組みが求められます。
相続税対策としての土地購入では、借入を活用することでさらなる節税効果を実現できます。これは多くの専門家が見落としがちな重要なポイントです。
借入活用による圧縮効果の仕組み
現金2億2000万円で時価2億2000万円の収益物件を購入する場合と、フルローンで同じ物件を購入する場合を比較すると。
現金購入の場合
フルローン購入の場合
この戦略により、借入金の存在が相続財産を圧縮し、相続税負担をさらに軽減できます。ただし、借入には以下の注意点があります。
借入活用時の注意事項
特に、相続発生後の借入金承継については、相続人の信用力や返済能力が重要な要素となるため、事前の相談と準備が不可欠です。
最適な借入比率の検討
全額借入ではなく、自己資金と借入のバランスを考慮した資金調達が重要です。一般的には、物件価格の70%~80%程度の借入が適正とされ、残りを自己資金で調達することで、金融機関からの信頼性も高まります。
また、借入期間についても慎重な検討が必要です。長期借入により月々の返済負担を軽減できる一方で、総支払利息は増加するため、収益性とのバランスを考慮した期間設定が求められます。
相続税対策としての土地購入は、単純な節税手法ではなく、総合的な資産運用戦略として位置づけることが成功の鍵となります。専門家との連携により、個別の状況に応じた最適な対策を実施することが重要です。