
手付金等の保全措置が必要となる金額基準は、物件の工事完了状況によって異なります。
工事完了前の物件の場合:
工事完了後の物件の場合:
例えば、3,000万円の未完成マンションで300万円の手付金を受領する場合、3,000万円の5%は150万円なので、手付金300万円は「5%超」に該当し、保全措置を講じる必要があります。
一方、2億2,000万円の未完成一戸建てで1,050万円の手付金を受領する場合、2億2,000万円の5%は1,100万円なので「5%以下」ですが、手付金が「1,000万円超」であるため、やはり保全措置が必要となります。
保全措置の対象となるのは、売主が宅地建物取引業者である場合に限定されます。
対象となる取引:
対象外となる取引:
宅地建物取引業法第78条第2項により、業者間取引では両者とも不動産取引に精通しているため、消費者保護の観点から保全措置は不要とされています。
保全措置の対象となる「手付金等」は、契約締結日から物件引渡しまでに支払われる金銭全てを指します。
対象となる金銭:
手付金は契約成立の際に交付され、履行されれば代金に充当されるのに対し、内金や中間金は交付時点で既に代金の一部として扱われます。
重要なのは、これらの金銭が「物件引渡し前」に支払われることです。物件が引き渡された後に支払われる残代金は保全措置の対象外となります。
また、買主が所有権移転登記または所有権保存登記を取得した場合、保全措置は物件引渡し前の措置であるため、もはや保全措置を講じる必要はありません。
工事完了前と工事完了後で保全措置の金額基準が異なるため、「工事完了」の判断は極めて重要です。
工事完了の判断時期:
工事完了の定義:
この判断基準により、外観は完成していても内装工事が未完了の場合は「工事完了前」として扱われ、より厳しい5%基準が適用されます。
実務上、工事完了の判断が曖昧なケースでは、安全を期して工事完了前の基準(5%または1,000万円)を適用することが推奨されます。
保全措置の対象外となるケースでも、実務上は慎重な対応が求められる場面があります。
リフォーム中物件の取扱い:
中古住宅のリフォーム中に売買契約を締結する場合、工事完了前物件として扱うべきか判断に迷うケースがあります。この場合、売買代金の5%を超える手付金を受領する際は、保全措置を講じることが安全な対応となります。
個人売主との媒介取引:
売主が個人の場合、宅建業者は保全措置の義務を負いませんが、媒介業者として買主保護の観点から任意の保全措置を提案することも実務上有効です。
分譲マンションの青田売り:
分譲マンションの青田売りでは、建物全体の工事完了前であっても、個別住戸の内装工事が完了していれば工事完了後として扱われる場合があります。
事業用不動産の取引:
事業用不動産であっても、買主が宅建業者でなければ保全措置の対象となります。投資用マンションの販売などでは特に注意が必要です。
これらの特殊ケースでは、法的義務の有無にかかわらず、取引の安全性確保の観点から保全措置を検討することが、長期的な信頼関係構築につながります。