
登記簿謄本の表題部は、不動産の物理的現況を示す最も基本的な情報が記載されている部分です。土地の場合、所在・地番・地目・地積等が記載され、建物の場合は所在・家屋番号・構造・床面積等が記載されています。
表題部で特に注意すべき点は、複数の段に分かれて記録されている場合、最新の登記は下の段に記載されるということです3。つまり、一番下の段が現在の状況を表しています。
土地の表題部では以下の項目を確認できます。
建物の表題部では以下の項目が記載されます。
表題部に記載されている所有者は「表題部所有者」として表示されているだけで、正式に権利を主張できる者ではありません。これは登記記録が起こされた時の所有者を示すものであり、対抗力を持つ所有権は権利部(甲区)に記載される必要があります。
権利部(甲区)は、所有権に関する事項が記載される最も重要な部分です。ここに所有者として登記されて初めて、対抗力(所有者であることを主張できる力)が備えられます。
甲区には以下の情報が記載されます。
所有権の変遷を読み取る際は、登記の目的欄に注目します。「所有権保存」は初回の所有権登記を、「所有権移転」は所有者の変更を意味します。
**意外に知られていない重要なポイント**として、所有者が引っ越しても住所変更登記の義務はないため、必ずしも現住所と登記されている住所が一致しないことがあります。次回の所有権移転時には売主の責任で正しい住所を登記する必要があります。
甲区で確認すべき重要な事項。
差押えや仮登記などの特殊な登記がある場合も甲区に記載されます。これらの登記は不動産取引において重要な判断材料となるため、見落とさないよう注意が必要です。
権利部(乙区)には、住宅ローン等の抵当権に関する内容や、用益権等の権利に関する内容が記載されています。不動産業務において、この部分の読み方は資金計画や取引の可否を判断する上で極めて重要です。
乙区に記載される主な内容。
抵当権設定の記載では以下の情報を確認できます。
**実務上の重要なポイント**として、抵当権が設定されている不動産を売買する場合、売買代金で残債を完済し、抵当権を抹消する必要があります。借入から間もなく、売買代金が借入額を下回っている場合は、残高証明や預貯金などを確認して、残債の完済ができる状況なのか確認が必要です。
抹消された権利は下線で取り消しされていますが、情報は削除されません。これにより、過去の担保設定状況も把握できます。
共同担保目録は、抵当権等の担保権が複数の不動産に設定されている場合に、その関連物件の情報が記載される部分です。この部分の読み方を理解することで、担保物件の全体像を把握できます。
共同担保目録に記載される情報。
**実務における活用方法**として、以下の点で重要な判断材料となります。
共同担保目録を読む際の注意点。
法務省の登記簿謄本見本では、共同担保目録の具体的な記載例を確認できます。
https://www.moj.go.jp/content/001309855.pdf
**一般的にはあまり知られていない手法**として、閉鎖謄本の活用があります。土地の合筆などで消滅した地番、焼失などで亡くなった家屋番号などは、閉鎖された登記簿として土地登記簿で50年間、建物登記簿で30年間保存されています。
閉鎖謄本から読み取れる貴重な情報。
実務での活用場面。
令和2年1月14日から、登記事項証明書にQRコード(二次元バーコード)が追加されました。このQRコードには物件を特定するための情報が格納されており、オンライン申請する際の申請用総合ソフトで登記申請書を作成する際、QRコードを読み込むことにより、物件情報が自動的に入力できるようになります。
**地番と住居表示の違い**も重要な知識です。登記簿に記載されている番号は登記関係で利用される地番であり、私たちが日常使っている住所(住居表示)とは別のものです。物件調査の際は、住居表示から地番への変換が必要になる場合があります。
不動産業従事者として、これらの詳細な読み方を習得することで、より精度の高い物件調査と適切な顧客対応が可能になります。登記簿謄本は不動産の履歴書とも言える重要な書類であり、その読み方を完全に理解することが、プロフェッショナルとしての信頼性向上につながります。