
造作買取請求権を行使するためには、借地借家法33条に定められた厳格な要件を満たす必要があります。
造作の定義と具体例
造作とは、建物に設置された物で取り外しが簡単なものを指します。最高裁判例では「建物に付加された物件で、賃借人の所有に属し、かつ、建物の使用に客観的に便益を与えるもの」と定義されています。
具体的な造作の例。
要件の詳細分析
造作買取請求権の成立要件は以下の3つです。
建物に符合し一体となったものは建物所有者の所有物となるため対象外です。
事前の同意が必要ですが、電気やガス設備等の建物の客観的利用価値を増加させる設備については、同意を拒否することは認められません。
賃借人の債務不履行による解除の場合は請求権は認められません。
造作に該当しないもの
以下は造作買取請求権の対象外となります。
行使可能な時期
造作買取請求権は、建物の賃貸借が「期間満了」または「解約申入れ」によって終了する時に行使できます。重要なポイントとして、賃借人の債務不履行(賃料滞納等)や背信行為による契約解除の場合は、造作買取請求権は認められません。
請求金額の算定
買取請求金額は造作の「時価」となります。時価とは、契約終了時点での客観的な市場価値を意味し、以下の要素が考慮されます。
転借人の権利
造作買取請求権は転借人にも準用されます46。つまり、転借人が賃貸人の同意を得て付加した造作についても、同様の権利が認められます。
実際の請求手続き
造作買取請求権を行使すると、賃貸人と賃借人の間に造作の売買契約が成立したのと同様の法律関係が発生します。この時点で。
特約の有効性
造作買取請求権に関する借地借家法の規定は任意規定であるため、当事者間の特約で排除することが可能です。これは普通建物賃貸借契約でも定期建物賃貸借契約でも同様に有効です。
特約条項の記載例
実務上、以下のような条項で造作買取請求権を排除します。
「賃借人は、本契約終了時において、賃借人が設置した一切の造作について、賃貸人に対する買取請求権を放棄するものとする。」
建物買取請求権との違い
混同しやすい点として、借地契約における建物買取請求権は特約による排除ができませんが、借家契約の造作買取請求権は特約で排除可能です。この違いは宅建試験でも頻繁に出題されるポイントです。
特約締結時の注意点
特約を締結する際は以下の点に注意が必要です。
同時履行の抗弁権の限界
造作買取請求権を行使した場合、賃借人は造作買取代金の支払いを受けるまで造作の引渡しを拒否できます。しかし、最高裁判例では、造作代金債権は造作に関して生じた債権であって建物に関して生じた債権ではないため、賃借人は造作代金の支払いがないことを理由として建物の明渡しを拒むことはできないとされています。
実務上の問題点
この判例により実務上は以下の問題が生じます。
学説との対立
学説では、造作を建物から取り外すことは造作も建物も共に価値を減少させ、造作買取請求権の意義を失わせるとして、造作が設置された建物の明渡しも拒否できるとする見解が多数を占めています。
実務での対応策
この問題を回避するため、実務では以下の対応が取られます。
賃貸人側の注意点
賃貸人として造作買取請求権に対応する際の注意点は以下の通りです。
事前の同意管理
契約書の工夫
賃借人側の注意点
賃借人として権利を適切に行使するための注意点。
同意取得の重要性
権利行使のタイミング
転借人の特殊事情
転借人が造作買取請求権を行使する場合の特殊な問題。
紛争予防のための実務対応
造作買取請求権に関する紛争を予防するため、以下の対応が重要です。
定期的な確認
専門家の活用
記録の重要性
造作買取請求権は借家契約において重要な権利ですが、その要件や効果については複雑な側面があります。宅建試験においても頻出分野であり、実務においても適切な理解と対応が求められます。特に、建物買取請求権との混同や、同時履行の抗弁権の限界については、正確な理解が不可欠です。