弁護士法23条照会と宅建業者の対応方法

弁護士法23条照会と宅建業者の対応方法

弁護士法23条照会制度について詳しく解説し、宅建業者が照会を受けた際の適切な対応方法と注意点をご紹介します。照会義務の範囲や拒否する際の正当事由についても解説しますが、どのような場合に回答すべきか迷うことはありませんか?

弁護士法23条照会と宅建業者の対応

弁護士法23条照会の基本概要
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照会制度の概要

弁護士が所属弁護士会を通じて官公庁や企業に事実調査を求める法的制度

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法的根拠

弁護士法第23条の2に基づく照会権限により実施される

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対象範囲

公務所・公私の団体が照会先となり、宅建業者も対象に含まれる

弁護士法23条照会の制度概要と法的根拠

弁護士法23条照会は、正式には「弁護士法第23条の2」に規定された照会制度で、弁護士が受任している事件について必要な事実調査を行うための重要な法的手段です。この制度は、弁護士が直接照会するのではなく、所属する弁護士会を通じて公務所や公私の団体に対して必要事項の報告を求める二段階構造となっています。
参考)https://www.kanaben.or.jp/faq/faq04/index.html

 

制度の目的は単なる証拠収集にとどまらず、司法における真実の発見と公正な裁判の実現、さらには国民の基本的人権の擁護と社会正義の実現という公共的性格を強く有しています。平成27年度には全国で約17万6千件の照会が実施されており、弁護士業務にとって不可欠な制度となっています。
参考)https://www.clo.jp/wp-content/uploads/2018/06/news87-4.pdf

 

弁護士法第23条の2では、以下の二項構造で規定されています。

  • 第1項:弁護士の弁護士会への申出権限
  • 第2項:弁護士会の照会権限

弁護士法23条照会の手続きの流れと審査体制

弁護士法23条照会の手続きは、厳格な審査体制のもとで実施されます。手続きの流れは以下の通りです:
参考)https://www.asaoka-law.jp/news/faq/23zyosyokai-bengoshikaisyokai/

 

申出段階
弁護士は所属弁護士会の所定用紙に基づき、照会申出書を作成し、受任事件・申出理由・照会事項を詳細に記載します。必要書類として委任状なども添付が求められます。
参考)https://orangelaw.jp/research/minjisosyo/h270226

 

審査段階
弁護士会では照会の必要性と適当性について厳格な審査を実施します。大阪弁護士会では平成29年度より23条照会審査室が設置され、専門の弁護士による一次審査と副会長による二次審査の体制が整備されています。
参考)https://www.mc-law.jp/kigyohomu/2227/

 

照会・回答段階
審査を通過した照会は弁護士会長名で照会先に送付され、照会先からの回答も弁護士会を経由して申請弁護士に交付されます。この二段階構造により、制度の濫用防止と適正な運用が図られています。
費用面
弁護士会に対する照会手数料として、1件につき4,000円(消費税別)が必要です。
参考)https://rc-gr.com/2019/01/16/%EF%BC%92%EF%BC%93%E6%9D%A1%E7%85%A7%E4%BC%9A%E3%81%AE%E6%89%8B%E7%B6%9A%E3%81%8D%E6%96%B9%E6%B3%95%E3%80%80%E5%BC%81%E8%AD%B7%E5%A3%AB%E6%B3%95%E4%BA%BA%E8%8B%B1%E6%98%8E%E6%B3%95%E5%BE%8B%E4%BA%8B/

 

弁護士法23条照会における回答義務と宅建業者の対応

弁護士法23条照会を受けた公務所や公私の団体には、原則として法的な回答義務が存在します。最高裁判所平成28年10月18日判決をはじめとする多数の裁判例において、照会先には報告義務があることが確立されています。
参考)https://kaben.jp/inquiry

 

宅建業者の特殊事情
宅建業者は宅地建物取引業法第45条により秘密を守る義務を負っていますが、東京地裁平成22年8月10日判決では、弁護士法23条の2に基づく照会への回答は「正当な理由」に該当し、守秘義務違反には当たらないと判断されました。
参考)https://www.zennichi.or.jp/law_faq/%E5%AE%85%E5%BB%BA%E6%A5%AD%E6%B3%95%E4%B8%8A%E3%81%AE%E7%A7%98%E5%AF%86%E3%82%92%E5%AE%88%E3%82%8B%E7%BE%A9%E5%8B%99/

 

回答の判断基準
回答義務は絶対無制約ではなく、以下の要素を総合的に考慮します:
参考)https://www.mc-law.jp/kigyohomu/19870/

 

  • 照会の制度趣旨と目的に即した必要性
  • 照会事項の合理性
  • 保護すべき法益との比較衡量

実際の対応方法
宅建業者が照会を受けた場合、まず照会内容の必要性と合理性を検討し、個人情報保護や守秘義務との関係を慎重に判断する必要があります。照会に応じる場合でも、必要最小限の情報提供にとどめることが重要です。
参考)https://ik-law.jp/23syokai/

 

弁護士法23条照会の拒否事由と正当性の判断

弁護士法23条照会に対する回答拒否が認められる場合として、「正当事由」の存在が要件となります。この正当事由の判断は、利益の比較衡量により決定されます。
報告により得られる公共的利益

  • 真実の発見
  • 社会正義の実現
  • 裁判所の公正な判断の確保

拒否により保護される法益

  • 個人の名誉・プライバシー
  • 公務員の守秘義務
  • 捜査の密行性
  • 通信の秘密

裁判例による判断基準
近年の裁判例では、照会の拒否について慎重な判断が求められています。福岡高裁平成25年9月10日判決では、健康保険組合が就業先情報の回答を拒絶した事案において、損害賠償請求が棄却されるなど、拒否の正当性が認められるケースも存在します。
参考)https://www.retio.or.jp/wp-content/uploads/2024/11/106-122-1.pdf

 

実務上の注意点
宅建業者においては、不動産取引における個人情報の性質を十分に検討し、照会事項と受任事件との関連性、照会の必要性・緊急性等を総合的に判断することが重要です。単純な拒否ではなく、必要に応じて弁護士会との協議や、提供可能な範囲での部分的回答も検討すべきです。
参考)https://iedoki.co.jp/archives/17140

 

弁護士法23条照会における個人情報保護と実務上の留意点

弁護士法23条照会において、個人情報保護法との関係は重要な検討事項です。個人情報保護委員会の見解によると、弁護士法23条の2に基づく照会は「法令に基づく場合」として、本人の同意なく個人データを提供することが可能とされています。
参考)https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq2-q5-7

 

個人情報保護法との関係
個人情報保護法第27条は、原則として本人の同意なく個人データを第三者に提供することを禁じていますが、弁護士法23条の2による照会は法令に基づく正当な請求として例外的に認められています。
実際の裁判例から見る判断基準
東京地裁平成22年8月10日判決の事案では、区分所有建物の賃貸管理を行う宅建業者が、婚姻費用分担調停事件に関連した照会に対して契約書の写しを提供した行為について検討されました。裁判所は、調停事件における争点として賃料収入の有無が重要であり、その情報を得るための合理的手段として報告が行われたため、違法性は認められないと判断しました。
宅建業者固有の考慮事項
宅建業者は不動産取引の専門家として、以下の点を特に注意する必要があります。

  • 取引当事者のプライバシー保護
  • 不動産取引の機密性維持
  • 第三者への情報提供に伴うリスク評価

実務的な対応指針
照会を受けた場合、まず照会事項の具体性と必要性を確認し、提供する情報の範囲を慎重に検討することが重要です。また、照会への対応について社内での明確な方針を定めておくことで、適切かつ迅速な対応が可能となります。

 

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賃貸借契約における弁護士照会対応の実務的指針
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神奈川県弁護士会による照会先向け説明資料
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