
日本国憲法は、国民の基本的人権を第10条から第40条まで31条にわたって詳細に規定しています。これらの権利は体系的に整理され、主に5つのカテゴリーに分類されています。
参考)http://www.seijikeizaijuku.com/kihontekijinken.html
まず基本的理解として、憲法第11条は「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる」と規定し、人権の不可侵性を宣言しています。
参考)https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-constitution.htm
憲法学上、基本的人権は平等権、自由権、社会権、参政権、請求権の5種類に大別されます。 この分類は権利の性質や機能に基づくもので、国家と個人の関係において異なる役割を果たしています。
平等権は「差別されない権利」として機能し、自由権は「国家からの自由」を、社会権は「国家による自由」を、参政権は「国家への自由」を、そして請求権は基本的人権を守るための権利を保障しています。
平等権は日本国憲法第14条と第24条に規定される、すべての国民が差別を受けない基本的な権利です。第14条第1項は「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定めています。
この平等権の核心は「法の下の平等」の原則にあり、国家が国民を取り扱う際に合理的理由なく差別的扱いをすることを禁止しています。特に重要なのは、人種・信条・性別・社会的身分・門地による差別の明示的禁止です。
参考)https://www.city.katano.osaka.jp/docs/2011080800112/
また、第14条第2項では貴族制度の廃止を、第3項では栄典の授与が一代限りであることを規定し、身分制社会の復活を防いでいます。第24条では両性の平等を定め、婚姻における男女の権利平等を保障しています。
現代社会では、この平等権の解釈が多様化し、単なる形式的平等から実質的平等への発展が見られます。例えば、障害者への合理的配慮の提供や、女性の社会参画促進のための積極的措置なども、この平等権の現代的展開として理解されています。
自由権は「国家権力からの自由」を保障する権利で、個人の自由な活動領域への国家の介入を排除します。日本国憲法では、自由権を精神的自由権、経済的自由権、身体的自由権の3つに分類しています。
参考)http://www1.tcue.ac.jp/home1/takamatsu/101103/chapter3.html
精神的自由権には、思想・良心の自由(19条)、信教の自由(20条)、集会・結社・表現の自由(21条)、学問の自由(23条)が含まれます。これらは民主主義社会の基盤となる権利で、他の自由権に比べて優越的地位が認められています。
経済的自由権では、居住・移転・職業選択の自由(22条)と財産権の保障(29条)が規定されています。これらの権利は「公共の福祉に反しない限り」という制約が明示され、社会全体の利益との調整が図られています。
身体的自由権は、奴隷的拘束からの自由(18条)、適正手続の保障(31条)、住居の不可侵(35条)、被疑者・被告人の権利保障(33条、36-39条)など、詳細な規定が置かれています。これは戦前の治安維持法による弾圧への深い反省に基づいています。
日本国憲法の特徴として、身体的自由権の規定が他国憲法と比較して非常に詳細である点が挙げられます。これは明治憲法下での人権侵害の歴史的経験を踏まえた重要な改善といえます。
社会権は20世紀に登場した新しい人権概念で、「国家による自由」として社会的・経済的弱者の保護を目的とします。日本国憲法では生存権(25条)、教育を受ける権利(26条)、勤労の権利(27条)、労働基本権(28条)が規定されています。
参考)https://www.jica.go.jp/activities/issues/governance/portal/vietnam/ku57pq00002khnos-att/vnu_12.pdf
生存権は第25条で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定められ、社会保障制度の憲法的根拠となっています。この権利により、生活保護制度や社会保険制度が正当化されています。
参考)https://www2.nhk.or.jp/school/watch/clip/?das_id=D0005311256_00000
教育を受ける権利は第26条で保障され、義務教育の無償制と併せて規定されています。これは能力に応じて等しく教育を受ける権利を意味し、社会の発展と個人の自己実現の両面で重要な意義を持ちます。
労働基本権は第28条で「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利」として定められ、労働三権(団結権・団体交渉権・争議権)を保障しています。これは資本主義社会における労働者の地位向上のために不可欠な権利です。
社会権の特徴は、自由権が国家の消極的義務(不作為義務)であるのに対し、国家の積極的義務(作為義務)を要求する点にあります。この違いにより、社会権の実現には予算措置や法制度整備が必要となり、その具体化は立法政策に委ねられる部分があります。
参政権は「政治に参加する権利」として、民主主義制度の根幹を支える重要な権利です。日本国憲法では第15条を中心に、選挙権、被選挙権、公務員選定罷免権などが規定されています。
参考)https://toudounavi.com/social-studies-civics-humanrights-kai/
選挙権は民主政治の基本であり、18歳以上の国民に付与されています。これは国民の政治的意思を国政に反映させる最も重要な手段です。被選挙権は立候補する権利で、衆議院議員25歳、参議院議員30歳などの年齢要件が設けられています。
その他の参政権として、最高裁判所裁判官の国民審査権、憲法改正の国民投票権、請願権(16条)があります。これらは国民が直接的に国政に参加する制度的保障です。
参政権の特徴は、他の人権と異なり「国家への自由」として機能することです。つまり、国家権力から保護されるのではなく、国家権力の行使に積極的に参加する権利として位置づけられます。
現代では、地方自治における住民投票制度や、インターネットを活用した政治参加の拡大など、参政権の新たな展開も見られます。これらの発展は、民主主義の深化と市民参加の拡大につながる重要な動向といえます。
憲法制定当初には想定されていなかった新しい人権が、社会の変化とともに認められるようになっています。これらは主に第13条の幸福追求権を根拠として、解釈によって導き出されています。
参考)https://www.ishihara-hirotaka.com/sp2/11/
プライバシー権は「私生活をみだりに公開されない権利」として発展し、情報化社会の進展に伴い「自己に関する情報をコントロールする権利」としても理解されています。京都府学連事件(1962年)では、最高裁が肖像権をプライバシー権の一種として認めました。
参考)https://blog.smartsenkyo.com/3497/
環境権は高度経済成長期の公害問題を背景に提唱され、「健康で快適な生活を維持できる環境を享受する権利」として理解されています。日照権や嫌煙権なども環境権の具体化とされています。
知る権利は民主主義社会における国民の政治参加に不可欠な権利として、第21条の表現の自由を根拠に認められています。情報公開制度の法的根拠となる重要な権利です。
これらの新しい人権について、憲法に明文規定すべきか否かの議論が続いています。明記賛成論は権利保障の明確化を、明記不要論は現行規定の解釈による対応可能性を主張しています。 いずれにせよ、社会の変化に対応した人権保障のあり方が重要な課題となっています。