
肖像権は日本国憲法第13条の幸福追求権を根拠とした人格権として判例上確立された権利で、法律で明文化されていないため、その侵害範囲の判断は複雑です 。最高裁判所平成17年11月10日判決では、肖像権侵害の判断において「被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超える」場合に違法となると示されています 。
参考)https://keiyaku-watch.jp/media/kisochishiki/shozoken/
受忍限度とは、社会通念上、個人が我慢すべき限界を指す概念で、この限度を超えた場合に法的救済が認められます 。具体的には、広範囲に写真が拡散され、本人に不都合や損害が生じる場合は受忍限度を超えると判断される可能性が高くなります 。
参考)https://markezine.jp/article/detail/47956
肖像権は人格権としての性質と財産権としての性質(パブリシティ権)の両面を持ち、一般人であっても芸能人であっても等しく保有する基本的権利です 。
参考)https://goldcast.jp/magazine/image-rights/
最高裁が示した肖像権侵害の判断基準では、以下の6つの要素を総合的に考慮します :
被撮影者側の要素 📋
・被撮影者の社会的地位
・撮影された被撮影者の活動内容
・撮影の場所
撮影者側の要素 📷
・撮影の目的
・撮影の態様
・撮影の必要性
これらの要素は個別に判断されるのではなく、すべてを総合的に検討して最終的な違法性が決定されます 。例えば、公共の場での撮影であっても、撮影の目的が商業的で本人への配慮が欠けている場合は、肖像権侵害と認定される可能性があります 。
参考)https://www.mc-law.jp/kigyohomu/4984/
一般人と芸能人では、社会的地位の違いにより保護の程度が異なる場合がありますが、芸能人であっても基本的な肖像権は保護されています 。
参考)https://ipmag.skettt.com/detail/talent-portrait-rights
撮影場所は肖像権侵害の判断において極めて重要な要素となります 。私的空間での撮影では肖像権侵害が認められやすく、自宅、ホテルの個室、病室、葬儀場など、他人が通常立ち入らない場所での無断撮影は違法性が高いとされます 。
参考)https://monolith.law/reputation/picture-sin
一方で、公共の場での撮影については、道路、公園、イベント会場など不特定多数の人が自由に出入りできる場所では、肖像権侵害が認められにくい傾向があります 。これは、公共の場では人の目に触れる可能性が高い空間であると考えられているためです 。
ただし、公共の場であっても撮影の態様や目的によっては侵害が成立する場合があり、例えば特定の個人をアップで撮影したり、商業目的での利用を前提とした撮影は問題となる可能性があります 。
肖像権侵害は撮影段階と公開段階の両方で成立する可能性があります 。撮影段階では、本人の承諾なしに容貌等を撮影した時点で既に肖像権侵害が成立する場合があり、これは写真を公開しなくても問題となります 。
公開段階では、撮影時に許可を得ていても、公開について別途承諾を得る必要があります 。特にSNSなどの拡散可能性が高い媒体への投稿は、より厳しく判断される傾向があります 。撮影の許可と公開の許可は別物として扱われ、それぞれについて本人の同意が求められます 。
また、撮影時は問題なくても、時間の経過により状況が変化する場合があります。例えば、企業の採用サイトに掲載された社員の写真は、その社員が退職した場合には掲載を取り下げることが推奨されます 。
肖像権侵害が認定された場合、被害者は複数の法的救済措置を選択できます 。主な救済措置として、損害賠償請求(民法第709条の不法行為に基づく)、差止請求(写真や動画の削除要求)、謝罪広告その他の回復処分が認められています 。
参考)https://asiro.co.jp/it/33547/
損害賠償の対象には、実際に発生した費用(引越し費用など)や精神的苦痛に対する慰謝料が含まれます 。肖像権そのものは刑事法で規定されていないため、肖像権侵害自体は犯罪にはなりませんが、名誉毀損や侮辱罪など他の罪に該当する場合があります 。
企業や個人が肖像権侵害のリスクを避けるためには、事前の同意取得、モザイクやボカシ処理による個人特定の回避、後ろ姿中心の撮影などの対策が効果的です 。また、素材集を利用する場合は、モデルリリース取得済みの素材を選択することが重要です 。