
暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴力団対策法)では、事業所内において不当要求を受けた場合の応対体制の整備や従業員への指導等を行う者を「不当要求防止責任者」と位置づけています 。この制度は平成3年に制定された暴力団対策法に基づき、平成4年から施行されている重要な反社会的勢力対策の一環です 。
参考)https://www.police.pref.osaka.lg.jp/tetsuduki/boryokudantaisaku/11691.html
法律上、責任者は「当該事業に係る業務の実施を統括管理する者であって、不当要求による事業者及び使用人等の被害を防止するために必要な業務を行う者」と定義されています 。この定義から分かるように、責任者は単なる担当者ではなく、事業所全体の統括管理権限を持つ管理職クラスの選任が想定されています。
参考)https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000077
公安委員会は、不当要求に対する対応が有効に行われるよう、責任者に対し資料の提供や助言その他必要な援助を行うことが法律で規定されており、これにより企業の自主的な防犯活動を支援する仕組みが整備されています 。
参考)https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/anzen/tsuiho/koshu.html
不当要求防止責任者の選任に特別な資格要件は設けられていませんが、責任者を中心に暴力団等からの不当要求に対応していくことになるため、社会的経験が豊富で事業者等の経営方針あるいは業務内容を把握している業務の統括管理者が望ましいとされています 。
参考)https://www.police.pref.chiba.jp/so4ka/safe-life_gangsters-03_06.html
対象となる事業所は、従業員を雇用する事業所であれば事業所の大小は問わず、個人事業、民間事業、公益法人、協同組合等の団体を含みます 。特に風俗営業、飲食店営業、銀行その他の金融業、証券業、建設業、不動産業等、暴力団等からの不当要求を受けやすい業種の事業所は、努めて責任者を選任することが推奨されています。
選任手続きは、責任者選任届出書を事業所の所在地を管轄する地元警察署(暴力団対策担当)に提出するか、令和3年6月1日からは警察庁の「警察行政手続サイト」を通じてオンラインでも申請可能となっています 。届出後は選任時講習の受講が必要で、その後概ね3年ごとに定期講習を受講することになります。
参考)https://www.kyoto-boutsui.com/seminar/
不当要求防止責任者講習は、各都道府県の暴力追放運動推進センターが公安委員会から委託を受けて実施しており、講習は無料で提供されています 。講習時間は通常午後1時30分から午後4時30分までの3時間で、実践的な対応要領の習得を目的としています 。
参考)https://www.naraboutui.jp/22.html
講習の具体的な内容には以下の項目が含まれます。
参考)https://www.boutsui-saitama.or.jp/course/index.html
講習では、不当要求防止責任者教本等の各種テキストが提供され、受講修了後には修了証書が交付されます。また、受講事業所には「不当要求防止責任者講習受講事業所」のステッカーが提供され、事業所の目立つ場所に掲出することで、暴力団等に対する抑制効果も期待されています 。
不当要求防止責任者が行うべき具体的業務は、暴力団対策法において「不当要求による事業者及び使用人等の被害を防止するために必要な業務」として規定されており、以下の5つの主要業務が挙げられています :
これらの業務を効果的に遂行するため、責任者には事業所内における不当要求に対する組織的な対応体制の確立とともに、警察や暴力追放推進センター、弁護士等と協力・連携し、排除活動を推進していくことが求められています 。
企業側の義務として、暴力団排除条例では契約書や取引約款に暴力団排除条項を導入することが努力義務として定められており 、責任者はこうした契約面での対応についても統括的な役割を担うことになります。
参考)https://blog.roborobo.co.jp/pickup/%E5%8F%8D%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E7%9A%84%E5%8B%A2%E5%8A%9B%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%B3%95%E5%BE%8B%E3%81%AF%EF%BC%9F%E5%90%84%E6%A5%AD%E7%95%8C%E3%81%AE%E5%AF%BE%E5%BF%9C%E3%82%84%E6%9A%B4/
不当要求防止責任者制度を効果的に運用するためには、理論的な知識だけでなく、実際の場面で応用できる実務的な対応策の習得が重要です。講習では、暴力団等からの具体的な要求パターンと、それぞれに対する適切な対応方法が詳しく解説されています 。
企業が暴力団排除に取り組む必要性は、経営上のトラブル防止だけでなく、労働契約法5条に基づく「安全配慮義務」の観点からも重要です 。安全配慮義務とは、労働者が安全かつ健康に働ける環境を整備するよう配慮する義務で、暴力団排除もこれに含まれると考えられています。
参考)https://xn--alg-li9dki71toh.com/roumu/regulation/exclusion-of-anti-social-forces/
実務的な対応としては、以下のような点が経営方針として重要です。
さらに、外部との取引においては、当事者が暴力団関係者ではない旨の誓約書を取り交わすか、契約書の中で暴力団等排除条項を規定しておくことが推奨されています 。これらの対策により、企業は法的リスクを回避しながら、組織的な暴力団排除体制を構築することができます。