
嫡出否認の訴えは、民法772条の嫡出推定を受ける子について適用される制度です。嫡出推定とは、妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定する法的な仕組みで、以下の条件を満たす子が対象となります:
この推定により、法律上は自動的に夫の子として扱われるため、この父子関係を否定するには嫡出否認という特別な手続きが必要になります。推定が及ぶ子については、親子関係不存在確認の訴えは原則として提起できません。
令和6年4月1日の民法改正により、これまで父親のみに認められていた嫡出否認権が子供および母親にも拡大され、出訴期間も1年から3年に伸長されました。この改正は、社会情勢の変化や子どもの利益保護の観点から実現したものです。
親子関係不存在確認の訴えは、嫡出推定が及ばない場合に適用される制度です。具体的には以下のような状況で利用されます:
この制度では、戸籍上の親子関係が実際の血縁関係と一致しない場合に、裁判所の判決により法律上の親子関係を否定することができます。提訴権者は子、父、母、または直接的な利害関係を持つ第三者に認められており、提訴期限もありません。
ただし、最高裁判例では、DNA鑑定により生物学上の父子関係が否定されても、子の身分関係の法的安定を保持する必要があるとして、親子関係不存在確認が認められない場合もあることが示されています。
改正前の嫡出否認制度では、提訴権者は父親(夫)のみに限定されており、子の出生を知った時から1年以内という短い期間制限がありました。この制限は、父親が嫡出であることを承認した場合には否認権を失うという規定と合わせて、早期の法的関係確定を重視したものでした。
令和6年4月1日の改正により、以下の変更が行われました:
改正後の提訴権者と期間
この改正により、父親以外の者も自らの意思で嫡出否認を求めることができるようになり、より柔軟な制度運用が可能となりました。被告は「子又は親権を行う母」であり、親権を行う母がない場合は家庭裁判所が特別代理人を選任します。
手続きは調停前置主義を採用しており、まず嫡出否認の調停を申し立て、調停が不成立の場合に訴訟へ進むことになります。
親子関係不存在確認の訴えは、相続権や遺産分割に重大な影響を与える制度です。特に不動産業界においては、相続による不動産の取得や処分において、親子関係の存否が重要な要素となります。
2022年6月24日の最高裁判決では、相続における法律上の利益が認められた事例があります。この事例では、亡Aおよび亡Bの孫であるXが、相続において「親子関係の存否によりXの法定相続分に差異が生ずる」と主張し、訴えの利益が認められました。
相続実務における重要なポイント
また、DNA鑑定などの科学的証拠は重要な役割を果たしますが、2014年7月17日の最高裁判決では、DNA鑑定により99.9999988%の確率で生物学上の父子関係が否定されても、子の身分関係の法的安定性を理由に親子関係不存在確認が認められなかった事例もあります。これは、科学的証拠のみでは判断されず、法的安定性も重要な考慮要素であることを示しています。
実際の法的手続きにおいては、対象となる子が「嫡出推定が及ぶ子」かどうかを正確に判断することが重要です。この判断により、利用すべき制度が決定されます。
選択基準の判断フローチャート
嫡出推定が及ぶ場合は嫡出否認の訴えのみが利用可能で、推定が及ばない場合は親子関係不存在確認の訴えを選択します。ただし、実務上は境界線が曖昧な場合もあり、慎重な法的判断が必要となります。
不動産業界では、相続による所有権移転登記の際に、親子関係が争われることがしばしばあります。このような場合、適切な法的手続きを選択することで、円滑な不動産取引の実現と権利関係の明確化が図れます。
また、これらの訴訟は家族関係に大きな影響を与えるため、法的効果だけでなく、関係者の感情面への配慮も重要な要素となります。専門的な法的助言のもとで、個別の事案に応じた最適な手続き選択を行うことが推奨されます。