
ドイツ法とフランス法は、ともに大陸法系に属する代表的な法体系でありながら、物権変動や登記制度において根本的に異なるアプローチを採用しています 。これらの違いは、宅建試験でも頻出する重要な論点となっています。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9%E6%B3%95
現在の欧州において、フランス法制は意思主義-対抗要件主義を、ドイツ法は形式主義-効力要件主義を基本的に採用しており、対立的に議論されることが多くありました 。しかし、両国の法制度の動向や実態を見ると、必ずしも基本通りの対立構造があるとは言えなくなってきています。
参考)https://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/2017/64-1.pdf
ドイツ法における物権変動は、厳格な形式主義を採用しており、登記が物権変動の効力発生要件として位置づけられています 。具体的には、不動産の所有権移転は債権契約と物権契約の二つの契約によって構成され、物権契約に基づく登記の完了によって初めて物権が移転します。
参考)https://sd6ed8aaa66162521.jimcontent.com/download/version/1533800698/module/8820413676/name/6_4.pdf
ドイツの不動産登記制度では、登記が不動産物権変動の成立要件であり、さらに「公信力」という特筆すべき効力を有しています 。公信力とは、真実の権利関係と登記に不一致が生じている場合でも、登記を信頼して新たに取引に入った善意の第三者を保護する制度です。これにより、不動産取引の安全性と登記の信頼性が大幅に高められています。
申請手続きにおいても、登記には相手方の登記許諾が必要であり、所有権譲渡については区裁判所又は公証人の面前での物権的合意が必要とされています 。また、登記許諾その他の登記に必要な意思表示が公の書類又は公の認証によって証明されていることが必要です。
参考)https://www.moj.go.jp/MINJI/MINJI43/minji43-7-2.html
一方、フランス法は意思主義を基本原則とし、物権変動は当事者の合意のみで効力を生じ、登記は第三者に対する対抗要件に過ぎないとされています 。フランスでは、所有権は契約の成立により移転し、登記は不動産物権変動の第三者に対する対抗要件として機能します。
フランスの不動産登記制度では、提出された証書の謄抄本を帳簿に提出した順に編綴することで登記が行われ、公示に服する証書はすべて公正証書の形式で作成される必要があります 。当事者の同一性に関する事項や不動産の台帳上の表示等の詳細な記載が求められており、厳格な形式的審査主義が採用されています。
重要な点として、フランス法では登記に公信力がなく、真実の権利関係と登記が一致しない場合、登記を信頼した第三者は保護されません 。これは、ドイツ法の公信力制度とは対照的な特徴といえます。
ドイツ法では、不動産物権変動における公示の原則が徹底されており、「先行登記の原則(土地登記法39条)」という重要な制度が確立されています 。この原則により、新たな物権変動の登記を行う場合には、その前提となる権利変動が適切に登記されていることが必要とされます。
参考)https://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/pri_review_64.pdf
プロイセン・ドイツ法の物権的合意主義・登記主義・公信原則は、不動産取引の安全性を確保するための三本柱として機能してきました 。物権的合意主義では、債権行為とは独立した物権行為が要求され、登記主義では登記が物権変動の効力発生要件とされ、公信原則では登記の記載を信頼した善意の第三者が保護されます。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/a2d32f9544a4fa7b6b9d458409a61888a0d51260
ドイツの登記官は、土地の権原についての不動産権証書、証書又は証拠を提出させることができ、これらの提出がされるまでは登記が行われません 。また、既登記の土地の処分を登記する場合には、既登記の土地登記証書を提出する必要があり、証書は証拠能力を有するものとされています。
フランス法においても、1955年の改正以降、公示の前提となる物権変動の公示がない場合には当該申請が受理されない仕組みが導入されています 。つまり、AからBへの権利変動が公示されていないと、BからCへの権利変動を公示することができず、中間省略登記は禁止されています。
フランスの抵当関係法225条により、登記は提出された証書の謄抄本を帳簿に提出した順に編綴してされることが規定されています 。また、1955年のデクレにより、公示に服する証書はすべて公正証書の形式で作成されることが義務づけられており、当事者の詳細な身分事項や不動産の台帳上の表示等の記載が必要とされています。
近年のフランス法制においては、要式主義の強化が進んでおり、実質的にはドイツ法制と似通ってきているという指摘もあります 。不動産売買の流れとして、仮契約から売買契約、証書の登記という段階を経る点で、ドイツ法の債権契約から物権契約、権利の登記という流れと類似性が見られます。
日本の民法と不動産登記制度は、フランス法とドイツ法の両方の影響を受けて形成された独特の制度となっています 。物権変動に関する実体規定はフランス法を承継し、登記手続法はドイツ法系の原則を採用しており、両国の法制度の影響を大きく受けてきました。
参考)https://meiji.repo.nii.ac.jp/record/17689/files/houkadaigakuinronshu_26_45.pdf
日本法では、フランス法と同様に所有権は契約の成立により移転し、登記は不動産物権変動の第三者に対する対抗要件にすぎないとされています 。これは民法177条に規定される対抗要件主義として確立されており、宅建試験でも頻出の論点となっています 。
参考)https://lab.iyell.jp/knowledge/qualification/t027/
一方で、日本の不動産登記法はドイツ法の影響を強く受けており、登記手続きや登記の連続性についてはドイツ法の原則が採用されています 。ただし、ドイツ法の公信力制度は採用されておらず、この点ではフランス法と同様の制限があります。
参考)https://waseda.repo.nii.ac.jp/record/8975/files/Honbun-4615.pdf
明治期の法典編纂過程において、フランス人法学者ボワソナードの起草した旧民法が施行されず、日本人の三学者(穂積陳重、梅謙次郎、富井政章)を中心に起草した現行民法が施行されたことにより、ドイツ法の影響が強くなったという歴史的経緯があります 。
参考)http://www.law.tohoku.ac.jp/staging/wp-content/uploads/2022/03/vol10.04.pdf
現在でも、日本の民法は「ドイツ法・フランス法の狭間で育った」制度として、両法系の特徴を併せ持つ独特の体系を構築しています 。宅建業務においても、この両法系の理解は物権変動や登記実務を理解する上で重要な基礎知識となっています。