
優越的地位の濫用は、独占禁止法第19条で禁止される「不公正な取引方法」の一類型として規定されており(独占禁止法第2条第9項第5号)、取引上の地位が相手方に優越している事業者が、その地位を利用して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為を指します。
参考)https://keiyaku-watch.jp/media/hourei/yuhetutekitii-ranyou/
この規制は、取引上の立場の弱い事業者を保護し、公正な競争環境を維持することを目的としており、事業者が自らの優越的な地位を利用して一方的に利益を吸い上げる行為を防止するものです。独占禁止法では、市場における競争の実質的制限や公正な競争の阻害を防ぐために、様々な行為類型を「不公正な取引方法」として禁止しており、優越的地位の濫用はその中でも特に重要な規制対象とされています。
参考)https://www.brainlawyers.jp/case_column/case_column_470/
公正取引委員会は、優越的地位の濫用に関する明確な判断基準を示すため「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」を公表し、業種横断的な一般的考え方を明示するとともに、行為類型ごとに違反となる場合・ならない場合を可能な限り明確化しています。
参考)https://jpwa.or.jp/jpwa/wp-content/uploads/2023/11/kaihou_202003_04.pdf?20200403
独占禁止法における「事業者」の定義は、第2条第1項において「商業、工業、金融業その他の事業を行う者」とされており、営利を目的とした経済活動を行う者であれば、その主体の法的性格を問わず広く適用対象となります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000017yod-att/2r9852000001c8b7.pdf
この事業者概念の特徴として、継続反復して経済的利益の供給に対応した反対給付を受ける経済活動を行う者であれば足り、株式会社や有限会社などの営利法人のみならず、社団法人・財団法人・組合等の非営利法人、個人事業者、さらには国や地方自治体が事業活動を行う場合も含まれることが重要です。
また、事業者の利益のためにする行為を行う役員・従業員・代理人等も事業者とみなされるため(独占禁止法第2条第1項後段)、法人格を持たない個人であっても、その行為が事業者の利益のために行われる場合には規制対象となります。さらに、独占禁止法は事業者団体についても規制対象としており、2以上の事業者で構成される社団や財団、組合等も適用対象に含まれています。
参考)https://www.jftc.go.jp/dk/dkgaiyo/kisei.html
公正取引委員会は、独占禁止法違反行為を発見した場合、まず排除措置命令を発出して違反行為の停止と競争回復に必要な措置を命じます。排除措置命令は、違反行為をした企業に対して速やかにその行為をやめ、市場における競争を回復させるのに必要な措置を命じる行政処分です。
参考)https://www.jftc.go.jp/ippan/part3/action_04.html
具体的には、価格カルテルの場合には価格の引上げ等の合意の破棄とその周知、再発防止のための対策などが命じられます。排除措置命令の内容は違反行為の態様により異なりますが、一般的には①違反行為の停止、②違反行為により生じた弊害の除去、③再発防止措置の実施が含まれます。
参考)https://www.takumi-corporate-law.com/antitrust-laws/
確定した排除措置命令に従わない事業者に対しては、法人は3億円以下の罰金、個人は2年以下の懲役または300万円以下の罰金という刑事罰が科せられる可能性があります。この厳格な制裁措置により、排除措置命令の実効性が担保されています。
参考)https://houmu-pro.com/contract/59/
課徴金制度は、独占禁止法違反行為により得られた不当な経済的利益を剥奪することで、違反行為の抑制を図る制度です。課徴金額の算定は、「算定期間」における「対象商品または役務の売上額/購入額」に一定の「算定率」を乗じて計算されます。
参考)https://www.businesslawyers.jp/practices/713
算定期間は独占禁止法違反行為が行われていた期間ですが、3年を超える場合には上限が3年間に制限されます。算定率は違反行為の類型ごとに原則的な算定率が定められており、事業者の属性(業種・事業規模)に応じた軽減算定率や、早期に違反行為をやめた場合の軽減算定率も規定されています。
参考)https://www.jftc.go.jp/dk/seido/katyokin.html
逆に、違反行為を繰り返す事業者や違反行為を主導した事業者に対しては加重算定率が適用され、より重い課徴金が課されることになります。課徴金額は、調査開始日から最長10年前まで遡及して計算され、大規模な独占禁止法違反事案では数億円から数十億円の課徴金が課されることもあります。
コンビニエンスストア業界では、本部と加盟店の関係において優越的地位の濫用が問題となる事例が多数発生しています。特に注目されるのが、セブン-イレブン事件やローソン事件などの具体的な違反事例です。
参考)https://www.corporate-legal.jp/news/5107
ローソンの事例では、主要納入業者60社に対し仕入割戻契約を名目として、特段の算出根拠のない金銭の提供を要請し、また一定数を無償(会計処理の便宜上1円)で納入するよう要請していました。公正取引委員会は、自己の取引上の地位が納入業者に優越していることを利用して不当に経済上の利益を提供させたとして、優越的地位の濫用に該当するとし排除措置命令を出しました。
令和2年9月には、公正取引委員会が「コンビニエンスストア本部が加盟店に24時間営業を強制することは独占禁止法違反(優越的地位の濫用)になりうる」旨の調査報告を公表し、業界に大きな影響を与えました。加盟店オーナーの取引依存度が100%であり、取引先変更の可能性が実質的にゼロである状況が、優越的地位の存在を示す重要な要素として認定されています。
参考)https://www.valueup-jp.com/2020/10/19/column-vol11/