
行政不服審査法に基づく審査請求は、行政機関内部での救済手続きとして位置づけられています 。この制度の最大の特徴は、違法だけでなく不当な行政処分も対象となることです 。
審査請求の要件として、処分があったことを知った日の翌日から3か月以内に審査請求書を提出する必要があります 。申し立て先は原則として処分を行った行政庁の上級行政庁となり、上級行政庁がない場合は処分庁自身が審査庁となります 。
審査請求の対象は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」および「不作為」の両方が含まれ、申請に対して何の処分もしない場合も救済の対象となります 。費用は無料で、比較的迅速な手続きが期待できるため、簡易迅速性が大きなメリットとなっています 。
行政事件訴訟法に基づく取消訴訟は、司法による救済手続きであり、裁判所が行政処分の適法性を判断します 。取消訴訟の対象は「違法な行政処分」に限定され、不当性のみを理由とする訴訟は認められません 。
取消訴訟の訴訟要件として、①処分性、②原告適格、③狭義の訴えの利益、④被告適格、⑤出訴期間、⑥管轄の6つの要件を満たす必要があります 。特に出訴期間については、処分があったことを知った日から6か月以内(主観的期間)または処分の日から1年以内(客観的期間)という制限があります 。
参考)https://lawyer-tani.com/gyoseisosho/%E5%8F%96%E6%B6%88%E8%A8%B4%E8%A8%9F%E3%81%AE%E8%A8%B4%E8%A8%9F%E8%A6%81%E4%BB%B6%E3%82%84%E8%A8%B4%E8%A8%9F%E3%81%AB%E3%81%8B%E3%81%8B%E3%82%8B%E8%B2%BB%E7%94%A8%E3%81%AA%E3%81%A9/
取消訴訟は費用負担が発生し(印紙代、弁護士費用等)、審理期間も長期化する傾向があります。しかし、裁判所の判決は対世効を有し、全ての者を拘束する強力な効力を持ちます 。
行政不服審査法では、審査請求をしても原則として処分の効力は停止されませんが、一定の要件を満たした場合に執行停止が認められます 。執行停止の要件として、①重大な損害が生じる恐れがあること、②回復困難な損害であること、③公益を著しく害しないこと、④本案審査が理由ありと判断される可能性があることの4つが挙げられます 。
参考)https://note.com/gyosei_reborn/n/n7e3607ebb1c0
審査庁は、審査請求人の申立てにより、または職権で執行停止の措置を取ることができます 。処分庁の上級行政庁以外が審査庁の場合は、処分庁の意見を聴取した上で執行停止を決定する必要があります 。
参考)https://gyosyo.info/%E8%A1%8C%E6%94%BF%E4%B8%8D%E6%9C%8D%E5%AF%A9%E6%9F%BB%E6%B3%9525%E6%9D%A1%EF%BC%9A%E5%9F%B7%E8%A1%8C%E5%81%9C%E6%AD%A2/
執行停止の決定は速やかに行われる必要があり、緊急性を要する場合には迅速な権利救済が図られる仕組みとなっています 。営業停止処分のように事業継続に重大な影響を与える場合や、社会的地位の喪失など回復困難な損害が予想される場合に活用される制度です 。
行政事件訴訟法は従来、取消訴訟による事後救済が中心でしたが、2004年の法改正により事前救済の仕組みが強化されました 。義務付け訴訟や差止訴訟の新設により、行政処分が行われる前の段階での司法による介入が可能となっています 。
参考)https://lawcenter.ls.kagoshima-u.ac.jp/shihouseido_content/sihou_suishin/kentoukai/gyouseisosyou/dai31/31sankou7.pdf
特に注目すべきは仮の救済制度の創設です。義務付け訴訟や差止訴訟において、本案判決を待っていては償うことができない損害が生じる恐れがある場合、裁判所が一定の要件の下で仮の義務付けや仮の差止めを命じることができます 。
参考)https://lawcenter.ls.kagoshima-u.ac.jp/shihouseido_content/sihou_suishin/kentoukai/gyouseisosyou/siryou/040106kangaekata.html
執行停止についても、従来の「回復困難な損害」から「重大な損害」への要件緩和が図られ、救済の実効性が高められています 。これにより、行政の規制・監督権限に基づく制裁処分が公表される前に差止めを求めるなど、事前予防的な救済が充実しました 。
参考)https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/50/06/hajimeni.htm
行政不服審査法と行政事件訴訟法は自由選択主義が採用されており、不服申立てを経ずとも行政訴訟の提起が可能です 。ただし、実務上は両制度の特性を踏まえた戦略的な選択が重要となります。
行政訴訟での原告勝訴率は約10%と極めて低く、国側との間にはマンパワーや情報力で圧倒的な差があります 。国側は訟務検事と呼ばれる専門の代理人や国公立大学の医師などを活用して万全の体制で臨むのに対し、民間側は費用や手間の制約があります 。
参考)https://www.potato.ne.jp/shirakaba/hkeizai/59.html
一方で、行政不服審査では不当性も争点とできるため、法的根拠が薄い場合でも行政の裁量権の逸脱・濫用を主張することが可能です 。また、審理員制度や意見書提出権など、客観的で公正な審理を確保する仕組みが整備されています 。
参考)https://www.soumu.go.jp/main_content/000234109.pdf
宅建業法における監督処分など、業務継続に直結する事案では、迅速性を重視して審査請求を選択し、並行して行政訴訟の準備を進める併用戦略も検討に値します。処分の性質、緊急性、費用対効果を総合的に判断し、最適な救済手段を選択することが求められています。