
保険事業とは、将来の不確実なリスク(病気、ケガ、災害等)に対して経済的保障を提供する事業です。具体的には、保険契約者から保険料を収集し、事故や疾病が発生した際に保険金や給付金を支払う仕組みを運営します。
保険事業の主な特徴は以下の通りです。
健康保険組合における保険給付は、被保険者とその家族が病気やケガをしたときの医療費の支払いや、出産・死亡・休職などのときに給付金を支給する事業として位置づけられています。病院の窓口で3割負担となる仕組みも、残り7割を健康保険組合が保険給付として支払っているためです。
保健事業は、被保険者とその家族が健康な生活を送れるように、病気の予防や早期発見の手助けをしたり、健康増進のためのさまざまな事業を行う活動です。「保険給付は病気になったときのサポート」であるのに対し、「保健事業は病気にならないような健康づくりのサポート」という違いがあります。
保健事業の具体的な内容。
厚生労働省は、保健事業を健康保険組合の中心的な事業と位置づけ、特に健康増進活動の充実強化に努めるよう指導しています。近年では、健診結果やレセプトなどの健康・医療情報をICTで分析し、より効果的・効率的な保健事業を実施する「データヘルス」が推進されています。
実施主体の観点から両事業を比較すると、明確な違いが見えてきます。
保険事業の実施主体。
保健事業の実施主体。
興味深いのは、健康保険組合が両方の事業を実施している点です。これは健康保険組合の「二大事業」と呼ばれ、保険給付(保険事業)と保健事業を同時に運営することで、治療から予防まで一貫したサービスを提供しています。
保険者は医療のプロセスの最初の段階を支えており、加入者を重症化させずに健康でいてもらうことが重要な役割となっています。このため、治療費を支払う保険事業と、予防に重点を置く保健事業の両輪が必要とされています。
保険事業と保健事業では、費用対効果の考え方が根本的に異なります。
保険事業の費用構造。
保険事業では、保険数理に基づいた精密な収支計算が行われます。リスクの確率計算、保険料設定、支払準備金の算定など、統計学的手法を用いた財務管理が特徴的です。
保健事業の投資効果。
加入者が不健康になると、保険者は医療費を支出しますが、負担するコストは医療費だけではありません。加入者が不健康になることで就業中の生産性が低下し、欠勤や機会損失など、事業主が負担するコストは医療費の5倍以上になるとの研究結果があります。
健康経営度が高い企業では離職率も低い結果が見られており、加入者が健康であれば、保険者にとっても事業主にとっても良い結果をもたらします。
不動産業界では、従業員の健康管理と顧客サービスの両面で、保険事業と保健事業を戦略的に活用できます。
保険事業の活用方法。
保健事業の導入効果。
不動産業界は営業職が多く、外回りや接客による身体的・精神的負担が大きい業界です。保健事業の導入により。
厚生労働省による国民健康保険制度の保健事業に関する詳細な指針とガイドライン
実際の導入に際しては、従業員数や事業規模に応じて段階的な実施が効果的です。小規模事業所では健康診断の充実から始め、中規模以上では健康保険組合の設立や企業内健康管理室の設置も検討できます。
不動産業界特有の健康課題。
これらの課題に対し、業界特性を考慮した保健事業の企画・実施が求められます。例えば、腰痛予防のための体操指導、ストレス軽減のためのカウンセリング制度、健康的な食事提供などの取り組みが有効です。
保険事業と保健事業の違いを理解し、両者を適切に組み合わせることで、不動産業界においても従業員の健康増進と企業経営の安定化を同時に実現できるのです。