
宅建業法において、区分所有建物(マンション)の取引を行う際には、法定共用部分に関する正確な理解と説明が不可欠です。法定共用部分とは、建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)で定められた、区分所有者全員の共有に属する部分を指します。これは宅建業法第35条に基づく重要事項説明の対象となり、取引の際に適切に説明する義務があります。
法定共用部分は、マンションの構造上の重要な要素であり、専有部分以外の廊下、階段、エレベーター、外壁、屋上などが該当します。これらは区分所有者全員の共有財産として、その管理や修繕に関する事項は重要事項説明書に記載し、説明しなければなりません。
法定共用部分とは、区分所有法第2条第4項に規定されている「建物の構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分」を指します。具体的には以下のような部分が該当します。
法定共用部分は、区分所有者全員の共有財産として扱われ、その持分は専有部分の床面積の割合によって定められるのが原則です(区分所有法第14条)。ただし、規約で別段の定めをすることも可能です。
法定共用部分の重要な特徴として、区分所有者は共用部分の持分を専有部分と分離して処分することができないという点があります(区分所有法第15条)。つまり、マンションの一室(専有部分)を売却する際には、必然的にその共用部分の持分も一緒に移転することになります。
区分所有法の詳細については、e-Gov法令検索で確認できます
宅建業法第35条では、宅地建物取引業者が区分所有建物の取引を行う際に、重要事項として説明しなければならない事項が定められています。法定共用部分に関連する重要事項としては、以下の項目があります。
重要なポイントとして、これらの規約が「案」の段階であっても、その案の内容を説明する必要があります。特に新築分譲マンションの場合、入居前に規約が確定していないケースがありますが、その場合でも規約案について説明義務があります。
また、区分所有建物の売買と貸借では、説明すべき重要事項の範囲が異なります。貸借の場合は、以下の2項目のみの説明で足りるとされています。
マンション取引において法定共用部分に関する重要事項説明を行う際の具体的なポイントを解説します。
マンションの売買取引では、以下の9項目について説明する必要があります。
マンションの貸借取引では、上記9項目のうち以下の2項目のみの説明で足ります。
これは、貸借の場合、借主は区分所有者ではないため、共用部分の管理や修繕に直接的な責任を負わないためです。ただし、専有部分の利用制限については、借主も遵守する必要があるため説明義務があります。
法定共用部分と規約共用部分の違いを理解することは、宅建業務において非常に重要です。
法定共用部分:区分所有法第2条第4項に基づき、建物の構造上区分所有者全員の共用に供されるべき部分(廊下、階段、エレベーター、外壁など)
規約共用部分:区分所有法第4条第2項に基づき、規約により共用部分と定められた部分(バルコニー、専用庭など、本来は専有部分となりうる部分を規約で共用部分と定めたもの)
この違いを理解することで、以下のような実務上の注意点が生じます。
実務上特に注意すべき点として、バルコニーや専用庭などは、多くのマンションで規約共用部分として定められていますが、専用使用権が設定されていることが一般的です。これらの部分の使用・管理方法については、規約の内容を正確に把握し、説明する必要があります。
宅建試験において、法定共用部分に関する問題は頻出テーマの一つです。過去の出題傾向と効果的な対策について解説します。
例えば、平成2年の宅建試験では以下のような問題が出題されています。
「宅地建物取引業者が区分所有建物に関する重要事項説明を行う場合、共用部分に関する規約の定めについては、その定めがまだ案であるときは、その案を説明すれば足り、規約の定めを待つ必要はない。」(正解:◯)
また、令和6年の宅建試験では、区分所有建物の貸借における重要事項説明の範囲に関する問題が出題されています。
「宅地建物取引業者が区分所有建物の貸借の媒介をする場合に、宅地建物取引業法第35条の規定に基づき重要事項としてマンションの敷地の一部を特定の者にのみ使用を許す旨の規約の定めの内容は必ず説明しなければならない。」(正解:×)
宅建試験では、「マンションの貸借の場合に説明が必要な項目は2つだけ」という点が頻出のポイントです。また、規約が「案」の段階でも説明義務があることも重要なポイントとして押さえておきましょう。
法定共用部分に関するトラブルは実務上よく発生します。代表的なトラブル事例と、宅建業者としての適切な対応方法を解説します。
バルコニーやベランダなど、区分所有者が専用使用している部分が実は共用部分であることを理解していないケースが多くあります。例えば、バルコニーの改修や設備の設置を区分所有者が勝手に行い、管理組合とトラブルになるケースです。
対応ポイント。
中古マンションの売買において、売主が修繕積立金を滞納していた事実を隠し、買主が知らずに購入後、管理組合から滞納分の支払いを求められるケースがあります。
対応ポイント。
購入後すぐに大規模修繕が予定されており、追加の修繕積立金の徴収が行われることを説明していなかったケース。
対応ポイント。
駐車場の専用使用権について、「永続的に使用できる」と誤った説明をし、実際には定期的な抽選で使用者が決まるシステムだったケース。
対応ポイント。
法定共用部分に関するトラブルは、適切な事前説明と情報収集によって多くが防止できます。宅建業者として、管理規約の内容を正確に理解し、買主や借主に対して丁寧に説明することが重要です。