法定共用部分と区分所有建物の重要事項説明と規約の解説

法定共用部分と区分所有建物の重要事項説明と規約の解説

宅建業法における法定共用部分と区分所有建物の重要事項説明について解説します。マンション取引で必要な知識から実務上の注意点まで詳しく解説。あなたは法定共用部分について正しく説明できますか?

法定共用部分と区分所有建物の重要事項説明

法定共用部分とは
🏢
区分所有法で定められた共有部分

建物の構造上、区分所有者全員の共有に属する部分を指します

📝
重要事項説明の必須項目

宅建業法35条に基づく説明事項として重要です

⚖️
規約との関係

規約で定める共用部分と法定共用部分の違いを理解しましょう

宅建業法において、区分所有建物(マンション)の取引を行う際には、法定共用部分に関する正確な理解と説明が不可欠です。法定共用部分とは、建物の区分所有等に関する法律区分所有法)で定められた、区分所有者全員の共有に属する部分を指します。これは宅建業法第35条に基づく重要事項説明の対象となり、取引の際に適切に説明する義務があります。

 

法定共用部分は、マンションの構造上の重要な要素であり、専有部分以外の廊下、階段、エレベーター、外壁、屋上などが該当します。これらは区分所有者全員の共有財産として、その管理や修繕に関する事項は重要事項説明書に記載し、説明しなければなりません。

 

法定共用部分の定義と区分所有法上の位置づけ

法定共用部分とは、区分所有法第2条第4項に規定されている「建物の構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分」を指します。具体的には以下のような部分が該当します。

  • 廊下、階段、エレベーター
  • 外壁、屋根、基礎部分
  • 電気・ガス・水道等の配管設備
  • 集会室、管理人室
  • 駐車場、駐輪場(規約で定められている場合)

法定共用部分は、区分所有者全員の共有財産として扱われ、その持分は専有部分の床面積の割合によって定められるのが原則です(区分所有法第14条)。ただし、規約で別段の定めをすることも可能です。

 

法定共用部分の重要な特徴として、区分所有者は共用部分の持分を専有部分と分離して処分することができないという点があります(区分所有法第15条)。つまり、マンションの一室(専有部分)を売却する際には、必然的にその共用部分の持分も一緒に移転することになります。

 

区分所有法の詳細については、e-Gov法令検索で確認できます

宅建業法35条における法定共用部分の重要事項説明義務

宅建業法第35条では、宅地建物取引業者が区分所有建物の取引を行う際に、重要事項として説明しなければならない事項が定められています。法定共用部分に関連する重要事項としては、以下の項目があります。

  1. 共用部分に関する規約の内容
    • 共用部分の範囲
    • 共用部分の管理方法
    • 共用部分の使用制限
  2. 一棟の建物または敷地の一部を特定の者にのみ使用を許す旨の規約の定め
    • 例:屋上や駐車場の専用使用権
  3. 共用部分の維持修繕に関する事項
    • 修繕積立金の内容と積立額
    • 維持修繕の実施状況の記録

重要なポイントとして、これらの規約が「案」の段階であっても、その案の内容を説明する必要があります。特に新築分譲マンションの場合、入居前に規約が確定していないケースがありますが、その場合でも規約案について説明義務があります。

 

また、区分所有建物の売買と貸借では、説明すべき重要事項の範囲が異なります。貸借の場合は、以下の2項目のみの説明で足りるとされています。

  • 専有部分の用途・利用制限に関する規約
  • 管理委託を受けている者の氏名・住所

マンション取引における法定共用部分の重説ポイント

マンション取引において法定共用部分に関する重要事項説明を行う際の具体的なポイントを解説します。

 

売買取引の場合

マンションの売買取引では、以下の9項目について説明する必要があります。

  1. 専有部分の用途・利用制限に関する規約
    • ペット飼育禁止、楽器演奏禁止、事務所使用禁止等の制限
  2. 管理委託を受けている者の氏名・住所
    • 管理会社の商号・名称、主たる事務所の所在地
    • ※具体的な業務内容の説明は不要
  3. 敷地に関する権利(敷地利用権)の種類・内容
  4. 共用部分に関する規約
    • エレベーター、集会室等の共用部分に関する規約内容
  5. 建物・敷地の専用使用権に関する規約
    • 駐車場等の専用使用権に関する規約内容
    • 使用料等の説明(使用者の氏名・住所の説明は不要)
  6. 修繕積立金に関する規約
    • 毎月の負担額
    • 滞納がある場合の滞納額
    • 既に積み立てられている額
  7. 維持修繕の実施状況
    • マンションの過去の修繕記録
  8. 管理費用
    • 月々負担する管理費の額
  9. 維持修繕のための費用・通常の管理費用等の減免に関する規約
    • 特定の者にのみ費用を減免する旨の規約内容

貸借取引の場合

マンションの貸借取引では、上記9項目のうち以下の2項目のみの説明で足ります。

  1. 専有部分の用途・利用制限に関する規約
  2. 管理委託を受けている者の氏名・住所

これは、貸借の場合、借主は区分所有者ではないため、共用部分の管理や修繕に直接的な責任を負わないためです。ただし、専有部分の利用制限については、借主も遵守する必要があるため説明義務があります。

 

法定共用部分と規約共用部分の違いと実務上の注意点

法定共用部分と規約共用部分の違いを理解することは、宅建業務において非常に重要です。

 

法定共用部分と規約共用部分の違い

法定共用部分:区分所有法第2条第4項に基づき、建物の構造上区分所有者全員の共用に供されるべき部分(廊下、階段、エレベーター、外壁など)
規約共用部分:区分所有法第4条第2項に基づき、規約により共用部分と定められた部分(バルコニー、専用庭など、本来は専有部分となりうる部分を規約で共用部分と定めたもの)
この違いを理解することで、以下のような実務上の注意点が生じます。

  1. 重要事項説明の範囲
    • 法定共用部分と規約共用部分の両方について説明が必要
    • 規約が「案」の段階でも説明義務あり
  2. 管理責任の所在
    • 法定共用部分:区分所有者全員で管理
    • 規約共用部分:規約で定められた管理方法に従う
  3. 修繕積立金の使途
    • 法定共用部分の修繕には修繕積立金を使用
    • 規約共用部分の修繕にも使用可能だが、規約で定める必要あり
  4. 専用使用権との関係
    • 規約共用部分に専用使用権を設定するケースが多い
    • 専用使用権の内容も重要事項として説明必要

実務上特に注意すべき点として、バルコニーや専用庭などは、多くのマンションで規約共用部分として定められていますが、専用使用権が設定されていることが一般的です。これらの部分の使用・管理方法については、規約の内容を正確に把握し、説明する必要があります。

 

法定共用部分に関する宅建試験の出題傾向と対策

宅建試験において、法定共用部分に関する問題は頻出テーマの一つです。過去の出題傾向と効果的な対策について解説します。

 

出題傾向

  1. 重要事項説明に関する問題
    • 区分所有建物の重要事項説明で説明すべき事項
    • 売買と貸借の場合の説明事項の違い
    • 規約が「案」の段階での説明義務
  2. 共用部分の定義に関する問題
    • 法定共用部分と規約共用部分の区別
    • 専有部分と共用部分の判断基準
  3. 共用部分の管理に関する問題
    • 共用部分の持分割合
    • 管理費・修繕積立金に関する事項

具体的な過去問例

例えば、平成2年の宅建試験では以下のような問題が出題されています。
「宅地建物取引業者が区分所有建物に関する重要事項説明を行う場合、共用部分に関する規約の定めについては、その定めがまだ案であるときは、その案を説明すれば足り、規約の定めを待つ必要はない。」(正解:◯)
また、令和6年の宅建試験では、区分所有建物の貸借における重要事項説明の範囲に関する問題が出題されています。
「宅地建物取引業者が区分所有建物の貸借の媒介をする場合に、宅地建物取引業法第35条の規定に基づき重要事項としてマンションの敷地の一部を特定の者にのみ使用を許す旨の規約の定めの内容は必ず説明しなければならない。」(正解:×)

効果的な対策

  1. 区分所有法と宅建業法の関連条文を理解する
    • 区分所有法第2条(定義)、第4条(共用部分)
    • 宅建業法第35条(重要事項の説明)
  2. 重要事項説明の9項目を確実に覚える
    • 特に売買と貸借で説明事項が異なる点に注意
  3. 過去問を繰り返し解く
    • 特に誤りを指摘する問題では、微妙な表現の違いに注意
  4. 実務的な視点を持つ
    • 単なる暗記ではなく、なぜその説明が必要なのかを理解する

宅建試験では、「マンションの貸借の場合に説明が必要な項目は2つだけ」という点が頻出のポイントです。また、規約が「案」の段階でも説明義務があることも重要なポイントとして押さえておきましょう。

 

法定共用部分のトラブル事例と実務対応のポイント

法定共用部分に関するトラブルは実務上よく発生します。代表的なトラブル事例と、宅建業者としての適切な対応方法を解説します。

 

トラブル事例1:共用部分の範囲に関する認識の相違

バルコニーやベランダなど、区分所有者が専用使用している部分が実は共用部分であることを理解していないケースが多くあります。例えば、バルコニーの改修や設備の設置を区分所有者が勝手に行い、管理組合とトラブルになるケースです。

 

対応ポイント

  • 重要事項説明時に、バルコニー等が規約共用部分であることを明確に説明
  • 専用使用権の範囲と制限事項を具体的に説明
  • 管理規約の該当部分をハイライトして示す

トラブル事例2:修繕積立金の滞納情報の不開示

中古マンションの売買において、売主が修繕積立金を滞納していた事実を隠し、買主が知らずに購入後、管理組合から滞納分の支払いを求められるケースがあります。

 

対応ポイント

  • 売買の媒介時には、管理組合や管理会社に修繕積立金の滞納有無を確認
  • 滞納がある場合は、その金額と決済時の清算方法を明確にする
  • 重要事項説明書に滞納の有無と金額を記載

トラブル事例3:大規模修繕計画の説明不足

購入後すぐに大規模修繕が予定されており、追加の修繕積立金の徴収が行われることを説明していなかったケース。

 

対応ポイント

  • 管理組合の総会議事録や長期修繕計画を確認
  • 今後予定されている大規模修繕の時期と費用負担の見込みを説明
  • 修繕積立金の値上げ予定がある場合は、その旨も説明

トラブル事例4:専用使用権の誤った説明

駐車場の専用使用権について、「永続的に使用できる」と誤った説明をし、実際には定期的な抽選で使用者が決まるシステムだったケース。

 

対応ポイント

  • 専用使用権の内容(期間、費用、更新方法等)を規約で正確に確認
  • 駐車場の空き状況や待機順位なども可能な限り確認
  • 口頭での説明だけでなく、重要事項説明書に明記

実務上の一般的な注意点

  1. 管理規約の最新版を確認する
    • 規約改定の有無を管理組合や管理会社に確認
    • 総会議事録も併せて確認するとよい
  2. 現地と図面の整合性を確認する
    • 共用部分の現況が図面と異なる場合がある
    • 特に増改築や設備の追加がないか確認
  3. 専門家との連携
    • 複雑な共用部分の問題は、弁護士や管理士に相談
    • 買主に対しても専門家への相談を推奨
  4. 説明内容の記録を残す
    • 重要事項説明書への記載に加え、説明時のメモや議事録を残す
    • 後日のトラブル防止に役立つ

法定共用部分に関するトラブルは、適切な事前説明と情報収集によって多くが防止できます。宅建業者として、管理規約の内容を正確に理解し、買主や借主に対して丁寧に説明することが重要です。