位置指定道路掘削同意法改正で変わる私道問題の実務対応

位置指定道路掘削同意法改正で変わる私道問題の実務対応

令和5年4月の民法改正により位置指定道路での掘削同意が大幅に緩和されましたが、実務では混乱も見られます。不動産業者が知るべき法改正の詳細と実践的な対応策とは?

位置指定道路掘削同意と法改正による変化

民法改正で変わった私道掘削の権利関係
⚖️
改正前の問題

私道所有者の高額なハンコ代や承諾拒否により工事が滞るケースが多発

📋
改正後の変化

事前通知のみでライフライン工事が可能となり、原則として所有者同意が不要

⚠️
注意点

損害が生じた場合の償金支払い義務や車両通行制限は依然として存在

位置指定道路掘削同意の法的根拠と改正内容

令和5年4月1日に施行された「民法等の一部を改正する法律」により、位置指定道路を含む私道における掘削同意の取り扱いが大幅に変更されました。
改正前の民法では、他人所有の土地を掘削する明確な権利規定がなく、位置指定道路の所有者から掘削同意を得ることが必須でした。これにより以下の問題が発生していました。

  • 高額なハンコ代の請求 - 掘削同意の対価として法外な費用を要求されるケース
  • 承諾拒否による工事停滞 - 所有者の中に工事を拒否する者がいる場合の対処困難
  • 行方不明所有者の存在 - 共有者の一部が行方不明で同意取得が不可能な状況

改正民法では、**他人の土地に設備を設置する権利(民法209条の2)**が新設され、ライフライン引き込みのための掘削については、事前通知のみで実施可能となりました。
具体的には、上下水道管、ガス管、電力ケーブル、通信ケーブルなどの生活に必要不可欠なインフラ設備の設置・維持のための掘削が対象となります。

 

国土交通省による共有私道ガイドライン改訂版
法改正の詳細な運用指針と実務対応について解説

位置指定道路における掘削同意書の実務的取り扱い

法改正後も、不動産実務では位置指定道路の掘削同意書取得が推奨される理由があります。
同意書取得が推奨される理由:

  • 将来的なトラブル回避 - 法改正を理解していない所有者との紛争防止
  • 工事の円滑化 - 事前合意により工事業者の作業環境確保
  • 買主の安心感確保 - 購入者への説明責任を果たす証拠書類

掘削同意書には以下の項目を明記することが重要です。

  • 掘削の目的(上下水道、ガス、電気等の種別)
  • 掘削範囲と工事期間
  • 復旧方法と責任の所在
  • 損害が生じた場合の補償内容
  • 将来の維持管理に関する取り決め

改正法では償金の支払い義務も規定されており、掘削により道路に損害を与えた場合は適正な補償を行う必要があります。この償金は従来のハンコ代とは異なり、実際の損害に基づく合理的な金額でなければなりません。

位置指定道路掘削工事における通知手続きの具体的方法

改正民法に基づく掘削工事では、適切な通知手続きが重要な要素となります。
通知に含むべき内容:

  • 掘削工事の具体的な目的
  • 工事予定期間と作業時間帯
  • 掘削範囲を示す図面
  • 使用する工法と安全対策
  • 緊急時の連絡先
  • 復旧計画の詳細

通知は工事開始の相当期間前に行う必要がありますが、法律上の具体的な期間は定められていません。実務では以下を参考にします。

  • 小規模工事:2週間前
  • 大規模工事:1か月前
  • 緊急工事:可能な限り早期

通知方法の選択肢:

  • 内容証明郵便による送達
  • 配達証明付き郵便
  • 直接手渡しによる受領書取得

共有者が複数いる場合は、持分割合に関係なく全員への通知が原則です。ただし、改正法により行方不明者がいる場合の特別な手続きも設けられています。

位置指定道路掘削同意における共有者対応の新制度

法改正により、共有私道の管理に関する新たな制度が創設されました。
行方不明共有者対応制度:
裁判所の決定により、行方不明者の持分を除外して管理・変更行為が可能となりました。例えば、10人の共有者のうち1人が行方不明の場合。

  • 変更行為:残り9人全員の同意で実施可能
  • 管理行為:残り9人の過半数(5人)の同意で実施可能

この制度を利用するには以下の要件を満たす必要があります。

  • 所在等不明共有者の存在
  • 相当な努力による探索の実施
  • 裁判所への申立てと決定取得

反対者がいる場合の対処:
掘削工事に反対する共有者がいる場合でも、必要な範囲内のインフラ整備であれば通知により工事実施が可能です。
ただし以下の条件があります。

  • 生活に必要不可欠なライフライン工事であること
  • 掘削範囲が必要最小限であること
  • 適切な復旧措置を講じること
  • 損害が生じた場合の償金支払い

弁護士による私道掘削法改正の詳細解説
改正法の具体的適用場面と法的リスクについて専門的見解を提供

位置指定道路掘削同意で注意すべき車両通行と将来リスク

法改正により掘削権利は明文化されましたが、車両通行については従来通り制限が存在することに注意が必要です。
車両通行の制限内容:

  • 歩行者通行は原則として権利として保護
  • 車両通行は所有者の同意が必要な場合が多い
  • 緊急車両の通行については別途検討が必要

位置指定道路の場合、建築基準法上は適法な道路として扱われますが、所有権の問題は残存します。不動産取引では以下の点を確認することが重要です。
確認すべき事項:

  • 道路の所有形態(単独所有、共有、分筆状況)
  • 既存の通行に関する取り決めや契約
  • 過去の紛争歴や近隣関係の状況
  • 将来的な道路維持管理の方針

将来リスクへの対策:
改正法により掘削同意の問題は軽減されましたが、以下のリスクは残存します。

  • 所有者変更による通行制限の可能性
  • 道路維持管理費用の負担問題
  • 位置指定の取り消しリスク
  • 近隣との関係悪化による実質的な通行阻害

これらのリスクを軽減するため、地役権設定道路用地の共有持分取得などの根本的解決策も検討すべきです。特に高額な不動産取引では、将来の法的安定性を確保する追加的な措置が重要となります。

 

実務では、法改正の内容を正確に理解し、個別の事案に応じた適切な対応策を選択することが、不動産業従事者に求められる専門性となっています。