
持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)は、2015年9月の国連サミットで採択された、2030年までに達成すべき世界共通の国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。
参考)https://kachi-jyutaku.co.jp/sdgs/
この理念は、従来のMDGsが途上国中心であったのに対し、SDGsは先進国を含む全ての国を対象として、社会・経済・環境の三つの側面における課題を統合的に解決することを目指しています。特に「誰一人取り残さない」という言葉は、2030アジェンダの宣言に記載された重要なスローガンであり、障がい者、低所得者、高齢者など、これまで社会的に取り残されがちだった人々を含めて、すべての人が持続可能な未来を享受できることを意味しています。
参考)https://www.livable.co.jp/solution/brand/contents/241018-1.html
SDGsは「5つのP」という概念で整理されており、People(人間)、Planet(地球)、Prosperity(繁栄)、Peace(平和)、Partnership(パートナーシップ)の要素で構成されています。これらの要素は相互に関連しており、一つの目標だけでは解決できない複合的な社会課題に対して、統合的なアプローチを求めています。
参考)https://www.cogitatiopress.com/politicsandgovernance/article/download/4191/4191
不動産業界にとって最も関連が深いのは、SDG11「住み続けられるまちづくりを」です。この目標は、都市や人間の居住地を包摂的で安全かつ強靱で持続可能なものにすることを目指しており、安全で手頃な価格の住宅へのアクセス確保、持続可能な輸送システム、包摂的で持続可能な都市化の促進などが含まれています。
参考)https://www.jac-recruitment.jp/market/sdgs/sdgs_realestate-construction/
公益社団法人全日本不動産協会は、不動産業界が取り組むべきSDGsとして、地域の安全な不動産取引の推進、空き家問題への取組み、既存住宅の流通活性化、社会貢献への取組みの4点を挙げています。これらの取り組みは、SDG11「住み続けられるまちづくりを」だけでなく、SDG1「貧困をなくそう」、SDG3「すべての人に健康と福祉を」、SDG10「人や国の不平等をなくそう」、SDG17「パートナーシップで目標を達成しよう」などにも該当します。
参考)https://asuene.com/media/332/
特に重要なのは、「誰一人取り残さない」という理念を具現化するための住宅セーフティネット機能です。東京都のJKK東京では、34万戸以上の賃貸住宅を管理し、収入がゼロでも入居できる都営住宅や、礼金・仲介手数料・更新料がかからないJKK住宅を提供することで、生活に困窮する人々への住宅セーフティネット機能を果たしています。
参考)https://www.socialinclusion.saiseikai.or.jp/reports/arekore-07
近年注目されているのが「アフォーダブル住宅」の概念です。これは空き家などを活用した低価格で入居できる住まいを指し、東京都は2026年度の供給開始を目指して運営事業者の募集・選定を進めています。従来の公営住宅や住宅セーフティネット住宅とは異なり、官民連携のファンドが投資することによって供給されるスキームが特徴的です。
参考)https://www.sakurajimusyo.com/opinion/news/1795/
住宅セーフティネット制度は、空き家の有効活用と住宅確保要配慮者への住居提供を両立させる重要な仕組みです。空き家所有者は住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅として物件を登録し、円滑な入居支援や入居中の見守りサービスなどの手厚いサポートを受けることができます。この制度により、借主と貸主双方の不安要素を排除し、マッチング促進に向けた環境整備が図られています。
参考)https://www.mirai-baikyaku.jp/blog/detail496732/
不動産業界におけるSDGs達成には、技術革新と環境配慮が欠かせません。SDG7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」に関連して、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の推進が重要な取り組みとなっています。大和ハウスグループでは2050年までにまちづくりにおけるカーボンニュートラル実現を目指し、すべての建物への太陽光発電設備設置や2030年までの新築建築物全棟のZEH・ZEB化を進めています。
参考)https://www.tansomiru.jp/media/basic/mag_1103/
三井ホーム株式会社は、ZEHを進化させた「LCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅」の推進を明らかにしており、住宅建設から解体・廃棄までのライフサイクルにおけるCO2排出量を収支ゼロにする取り組みを進めています。これらの取り組みは、2030年のZEH・ZEB水準への適合義務化に対応し、建設業での脱炭素実現に貢献するものとして期待されています。
地域に根ざした不動産会社の役割も重要です。宅建協会での積極的な活動、自治体主催イベントへの協賛、子供向けの木工体験の開催など、地域コミュニティとの連携を通じたSDGs推進が求められています。また、性別や国籍を問わない雇用の推進、柔軟な勤務形態の整備、定時退社や休暇取得の励行、現場での事故防止に向けたルールの周知徹底など、ダイバーシティ経営の推進も重要な要素となっています。
参考)https://www.kyotobank.co.jp/houjin/sdgs_support/pdf/sengen2303_62.pdf
ヤマト住建のように、高気密・高断熱の住宅を適正価格で提供することで、「高性能な住宅をお手頃価格で」というコンセプトのもと、一度建てたら長く住み続けられる住宅の普及を図る取り組みも見られます。こうした取り組みは、住宅の長寿命化を通じて資源の有効活用と環境負荷の軽減を実現し、SDG12「つくる責任つかう責任」の達成にも貢献しています。
参考)https://www.yamatojk.co.jp/company_info/corporate_activities/sdgs/sdgs-11
持続可能な開発目標の達成には、不動産業界全体での連携と継続的な取り組みが不可欠です。「誰一人取り残さない」という理念を具現化するためには、従来の事業活動を見直し、社会的価値の創造を重視した経営への転換が求められています。