準拠法の定めがない場合の適用法と宅建実務への影響

準拠法の定めがない場合の適用法と宅建実務への影響

不動産取引で準拠法の定めがない場合にどの法律が適用されるのか、宅建業者が知っておくべき国際私法の基本原則と最密接関係地法について詳しく解説します。実務での注意点を知りたい方は必見です。

準拠法の定めがない場合

準拠法の定めがない場合の基本原則
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最密接関係地法の適用

当事者による準拠法指定がない場合、契約に最も密接な関係がある地の法律が適用されます

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通則法の規定

法の適用に関する通則法第8条により準拠法決定の手順が定められています

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宅建業界への影響

国際的な不動産取引において準拠法選択は極めて重要な要素となります

契約における準拠法の定めがない場合、適用される法律は「法の適用に関する通則法」(通称:通則法)によって決定されます 。通則法第8条第1項は、「法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による」と規定しており、最密接関係地法の原則を採用しています 。
参考)https://keiyaku-watch.jp/media/keiyakuruikei/governing-law/

 

この原則は、契約当事者が明示的に準拠法を選択していない場合でも、黙示の合意がないかを検討し、それも存在しない場合に適用されるものです 。最密接関係地法の決定は、契約に関わるあらゆる事情を考慮して判断されますが、当事者が予測しやすいよう推定規定が設けられています 。
参考)https://biz.moneyforward.com/contract/basic/6528/

 

準拠法の特徴的給付理論

通則法第8条第2項は、「法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、その給付を行う当事者の常居所地法を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する」と規定しています 。特徴的給付とは、売買契約なら目的物の引渡し、業務委託契約なら役務提供、貸金契約なら貸金の提供など、当該契約を特徴付ける給付を指します 。
参考)https://www.ishioroshi.com/biz/kaisetu/kokusai/index/junkyohou_ippan/

 

不動産売買契約においては、売主による不動産の引渡しが特徴的給付と考えられ、売主の常居所地法が準拠法と推定されることになります 。ただし、この推定は反証を許すものであり、他の事情により覆される可能性もあります 。
参考)https://www.mkikuchi-law.com/article/15922721.html

 

特徴的給付理論は、EU契約債務準拠法条約における議論を基礎として発展してきた理論で、現在では多くの国の国際私法において契約準拠法決定の基準として確立されています 。
参考)https://toyo.repo.nii.ac.jp/record/8130/files/gendaishakaikenkyu13_121-130.pdf

 

不動産取引における準拠法の特別規定

不動産を目的物とする契約については、通則法第8条第3項により特別の推定規定が置かれています 。この規定は、「不動産を目的物とする法律行為については、その不動産の所在地法を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する」と定めています。
参考)https://gvalaw.jp/blog/f20240524/

 

これは不動産の物権的側面や公示制度、税制などが不動産所在地法と密接に関連することを考慮したものです 。宅建業法の適用を受ける不動産取引においては、この規定により日本に所在する不動産の取引には日本法が適用される可能性が高くなります 。
ただし、この推定も絶対的なものではなく、契約の具体的事情によっては他国の法律がより密接な関係を有すると判断される場合もあります。たとえば、外国企業間の日本不動産取引で、当事者の本拠地や取引の経緯が特定国に集中している場合などです。

 

民法の適用と宅建業法との関係

準拠法として日本法が選択または決定された場合、宅建業者の行う不動産取引には民法と宅建業法が適用されます 。民法は契約関係の基本的枠組みを定める一般法であり、宅建業法は宅建業者の行為を規律する特別法として機能します 。
参考)https://ablaze.co.jp/article/69151

 

宅建試験では民法が14問出題され、総則・物権(担保物権含む)、債権関係に分かれて出題されています 。実務においては、売買契約の成立・効力、契約解釈、債務不履行損害賠償などの民法規定が準拠法として適用されることになります 。
参考)https://www.ksknet.co.jp/nikken/guidance/housing/contents/11/

 

国際取引においては、準拠法の選択により適用される民法規定の内容が大きく異なるため、契約交渉段階での準拠法条項の検討が極めて重要となります 。
参考)https://kslaw.jp/column/detail/4566/

 

黙示の合意による準拠法認定の実務

明示的な準拠法条項がない場合でも、黙示の合意により準拠法が認定される場合があります 。黙示の合意の認定には、当事者の属性、契約交渉の過程、契約内容、履行地、紛争解決条項など、あらゆる事情が考慮されます 。
参考)https://www.nakae-takeshi-law.jp/cms/knowledge/corporate-law/international-contract

 

実際の判例では、契約書の使用言語、準拠通貨、仲裁条項の内容、当事者の国籍や本拠地などから黙示の準拠法合意を認定するケースが見られます 。宅建実務においても、外国人との不動産取引で契約書の言語や決済通貨、仲裁地などから黙示の準拠法合意が問題となる可能性があります。
参考)http://www.shohan.sakuraweb.com/reiwa04list.html

 

ただし、黙示の合意の認定は不確実性を伴うため、実務上は明示的な準拠法条項を設けることが強く推奨されます 。

準拠法未定による実務リスクと対応策

準拠法の定めがない状況は、紛争発生時に適用法の予測が困難になり、法的リスクを著しく高める要因となります 。特に国際取引では、各国で異なる国際私法により異なる準拠法が適用される可能性があり、法的安定性を欠く結果となります 。
宅建業者が関与する国際不動産取引においては、契約の有効性、履行方法、損害賠償の範囲などについて予測不可能性が生じ、顧客への適切な説明義務の履行が困難になる場合があります 。また、紛争解決時の訴訟費用や時間的コストも増大する傾向にあります 。
対応策としては、契約書に明確な準拠法条項を設けることが最も効果的です。その際、紛争解決条項(裁判管轄や仲裁合意)とセットで検討し、司法制度が成熟した国の法律を選択することが重要となります 。